俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない

筧千里

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察するレイン

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 短い休暇を終えて、俺は帝都へと戻ってきた。
 もう冬に差し掛かろうとしている気候は、外出するのに一枚増やす程度には肌寒くなってきている。俺は大隊長として与えられた宿舎から兵の駐屯所へ向かう道を、コートを一枚羽織って向かうことになった。
 まぁ、訓練始まったらどうせ脱ぐけど。あっちぃし。

「うす」

「ああ、隊長。おはようございます」

「おう、レイン。久しぶりだな」

「隊長がご不在の間、隊長の確認が必要なさそうな書類は始末しています。そちらに積んであるのは、隊長の確認が必要なものです」

「さんきゅ。何か問題はあったか?」

「一度デュラン総将軍がお越しになりましたけど、休暇を取っている旨を伝えたらお戻りになっています。用件などは特に聞いていませんが」

 相変わらず、レインは有能な副官である。
 俺が不在でも問題なく『切り込み隊』を任せられるし、書類のほとんどを捌いてくれているのもレインだ。俺はあくまで、隊長として最終確認をするだけである。
 俺が除隊したら、レインに『切り込み隊』の隊長を――いや、無理か。なんだかんだ言って、『切り込み隊』の隊長って前を走れる奴だし。

「それより隊長、アンナ隊長から伺ったのですが」

「うん?」

「今回の帰還、隊長が副将軍に申し出たことが理由らしいですね」

「……そうなのかねぇ?」

 俺が言ったのは、あくまで「停戦中なら戦争が終わったわけじゃないんで、俺まだ除隊しないっすよ」という一言だけだ。
 俺としては今すぐにでも除隊したいところだけど、それはそれで面倒なことになりそうだ。そして、一応総将軍と「戦争が終わるまで」って約束をしているわけだから、それは果たさなければならないだろう。
 停戦だったら、戦争が終わったわけじゃないし。

「レインとしても、この戦争はおかしいと思っていましたけど」

「まぁ、俺でもおかしいって思うくらいだからな」

「今回のことで、確信しました。何故戦争が、これほど終わらないのか」

「……まじで?」

 俺の問いかけに、レインが頷く。
 さすがは聡いレインだ。俺、さっぱり見当ついてないのに。
 上層部が馬鹿だからだとばっか思ってた。

「恐らくガーランド帝国は、現状の仮想敵国を全て、支配下に置くつもりです」

「……まじで?」

 同じ事を、二度問う。
 アリオス王国、メイルード王国、ジュノバ公国――そして次に、ライオス帝国を相手にしようとしている現状だ。
 ライオス帝国との戦争に乗じて、別方向の仮想敵国――ウルスラ王国やフェンリー法国が動こうとしている話も聞いているし、ライオス帝国の向こうには属国であるワダツミ諸島連合も控えているし、ライオス帝国と敵対しているエクス連合国もある。
 唯一良好な関係を築いているのは、かつてのアリオス王国の反対側に位置するユーリア王国だけだ。この国とは、既に十年以上も同盟関係を結んでいる仲だ。
 つまり現状――まだ、五国も残っている。

「いえ……支配下に置くというのは、少々言い過ぎですね。むしろ……何と言えばいいのでしょうか。目処をつけるつもりなのだと思います」

「目処?」

「ええ。少なくとも、向こう十年以上戦争が起きない、そんな地盤を作ろうと考えていると思われます。三つの国の領土を得たガーランド王国は、既に大陸でも最大の国になっています。その状態でライオス帝国を下せば、生産力ではどこにも負けることがなくなるでしょう。その状態で、仮想敵国と講和を結び、友好国としていく流れだと思います」

「……?」

「まぁ分かりやすく言うと、今ちょっと無理して版図を広げて、大陸最強の国になろうとしているんですよ」

「ふーん……」

 よく分からん。
 だけれどまぁ、レインが分かっているのならそれでいい。

「生産力が高ければ、それだけ人口も増えます。人口が増えるということは、兵力もまた向上します。急激に国土を広げることで、内政面での不安は増えますが……少なくともライオス帝国を下し、ライオス帝国の領土を得ることができれば、ガーランドは他に並ぶ国のない最強国家となるでしょう」

「つまり……まだ長いこと戦争が続くってことか?」

「レインの読みでは、あと一年といったところだと思います。ライオス帝国を下せば、必然的にその後ワダツミ諸島連合との戦いにはなるでしょうけど、その後は問題ないと思われます。エクス連合国はあくまで、ライオス帝国に対抗するために小国が連合した国ですから、さほど恐れる必要もないですし、こちらから庇護を申し出れば属国になってくれると思います」

「……」

「ウルスラ王国とフェンリー法国は、こちらの戦争が落ち着くまで専守防衛を行う形にすれば、防ぐことはできるでしょう。その上で最前線を整理し、エクス連合国と講和を結び、兵をそちら側に集めれば自然と講和になると思います」

「……ぐぅ」

「立ったままで寝ないでください、隊長」

 はっ。
 しまったしまった。あまりにも退屈すぎて寝てしまっていた。
 まぁ、あれだろ、つまり。
 春にはまた戦争ってことだろ。

「まぁ、これはあくまでレインの予想です。恐らくそうなるだろう、という。ただ恐らく、あと一年で片付くと思いますよ」

「話半分に聞いておくわ……一年ね。ジュリアを待たせるには、長い時間だな」

「……そうですね」

「んじゃ、俺はちょいと総将軍のとこに顔出してくるわ」

 今回は、何の話をされるのか分からないけれど。
 まぁどうせ、春からの戦争に行けって話だと思う。














「恐らく、そうだと思うのですが」

 レインが一人、呟く声。
 それは残念ながら、背を向けて総将軍のもとへ向かおうとしていた俺には、聞こえなかった。

「ただもう一つ、可能性はあるんですよ。隊長がまだ軍に在籍しているうちに、この大陸全土をガーランド帝国の旗で染める……そう考えている可能性が」

 戦争が終わったら除隊する。
 ならば、戦争を終わらせなければいい。
 誰かがそう考えた可能性――。

「その場合は……向こう十年といったところですね。まぁ、付き合いますよ。レインの婚期は遅れてしまいますが……そのときは、隊長の第二夫人にでも立候補しますか」
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