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4話 運命の色
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赤マントがいなくなってから、二ヶ月ほどが経った。
「なんか学生ん時を思い出すよな~、こういうの」
数ヶ月ぶりに会う友人は、缶ビールを片手に俺の部屋を見回してそう言った。お互いに仕事も一段落ついたし、久しぶりに家でゆっくり酒を飲もうという話になったのだ。
「今日は遅くなっても大丈夫なんだろ?」
「おう、嫁にも連絡入れてあるしな。ちょうどいいから向こうも友達と長電話するってよ」
ニッと笑った友人の顔は、とても幸せそうだ。結婚なんてものに興味はなかったが、こういう姿を見ていると少し羨ましく感じてしまう。いつでもすぐそばに誰かの気配があるということが、どれほど心を満たすのか、それを実感してしまった後だからだろう。
「……なんか、アレだな。俺も彼女とか探すかな」
ポテトチップスの袋を開けながら零した俺の言葉を聞きつけて、友人は少し首を傾げた。
「あれ、お前今そういう相手おらんの? 前電話で話した時も誰かいる感じだったし、てっきりカノジョかと思ってたわ」
「あー、いや……アレはそういうんじゃねえって」
そうだ、あいつは恋人でもなんでもない。人間ですらない。なんとなく、お互い興味本位で共同生活を送っていただけの関係だ。そばに誰かいて欲しいだけなら、代わりなんていくらでも探せる。
誤魔化すようにビールを煽った俺をじっと見て、友人もまたビールに口をつけた。
「……まあアレだ。愚痴とか悩みとか、聞いて欲しいならいくらでも聞いてやるから、今のうちに吐き出しとけって」
「おー……ありがとな」
そう返してみたが、こんな悩みを気軽に打ち明けられるはずもない。
人ではないモノに、本気で惚れてしまったかもしれない、なんて。
「なんかなー……大事な物って、失ってからしか気づけないモンなんだな」
「おっ、もう酔っ払ってきたんか」
「……お前が愚痴でも何でも吐き出せつったから言ってんだろ」
「いや、スマン。なんかお前がそういう感傷的なこと言うの、珍しいなと思って」
「そりゃ悪かったな」
溜息を吐きながら、ツマミとして持ち寄ったスナック菓子の山に手を伸ばす。今の俺は、自分で思っている以上に落ち込んでいるのかもしれない。
たとえば、アイツに焼きそばを食べさせてやれなかったこと。最後まで名前を呼ばれなかったこと。
そういう些細なことが、心の奥底にずっと引っかかっている。自分から手を離したくせに、女々しい限りだ。
「ま、あれだ。失恋の傷は飲んで忘れようぜ。お前ならすぐまた良い相手が見つかるよ」
「……だと良いけどな」
そう呟いて部屋の隅に視線を向けてみても、赤い影はもう、どこにも見当たらなかった。
*
「女の子じゃあるまいし、わざわざ送ってくれんで良かったのに」
「ついでだよついで。どうせコンビニで明日の朝メシ買おうと思ってたし」
最寄り駅の改札横で友人と向い合った俺は、そう言って片手をヒラヒラと振った。赤マントのやつがいなくなって以来、どうにも自炊する気になれないままだ。
「ほら、いいからさっさと行けよ。次のが終電だろ」
「おお……んじゃ、気をつけて帰れよ」
「こっちのセリフだよ」
酒が回ってきたのか、やや赤い顔をしている友人を少し心配しつつ、俺は半ば強引にやつを改札の向こうへ送り出した。そうでもしないと、一人の家に帰るのが嫌で、引き止めたくなってしまう。
一応はしっかりした足取りでホームへ向かっていく背中を見送って、俺は人気のなくなった改札に背を向けた。これ以上夜が深くなる前に、用事を済ませてさっさと帰ろう。
友人と別れてひとしきり食糧を買い終えた俺は、駅前を離れて暗い路地裏を歩いていた。周囲には、人も、人でない者も、俺以外には誰もいない。
赤マントのやつがいなくなってから、俺の生活にひとつ明確な変化が訪れていた。
あれ以来俺は、怪異を見ることが出来なくなった。幼い頃から当たり前のように見えていた異形たちは、俺の視界からすっかり姿を消してしまったのだ。俺自身が見る力を失ったのか、あるいは口裂け女のような名のある怪異たちの後に着いて、みんな居なくなってしまったのかもしれない。
「……俺、漫画家やっていけんのかな」
静かな夜道を歩きながら、俺は独り言をこぼした。俺にだけ見えるあいつらを、単なる創作のネタとして消費し続けたことへのバチが当たったのか。だとしたら、自業自得というやつなのだろう。
片手に提げたコンビニの袋がカサカサいう音と、履き潰したサンダルがペタペタいう音だけが虚しく響く。あいつに初めて会ったのも、こんな夜だった。あの頃はまだ肌寒いような季節だったが、あいつが現れた瞬間だけは、じわりと肌にまとわりつくような暑さを感じた。そう、まさに今みたいに……
「赤いマント、着せてやろうか……?」
頭の中に響いてきた声に驚いて、俺は足を止めた。なんだ今のは、幻聴か? いや……
「赤いマント、着せてやろうか?」
確かに聞こえた。すぐ近くから。声の主を探して、慌てて振り向いた瞬間、
「うわあああっ?!」
鼻がぶつかりそうな距離に人の顔があって、俺は思わず悲鳴を上げていた。
「お前、今驚いたな……?」
後ろにひっくり返りそうになった俺の手を取って、そいつは嬉しそうにそう言った。
「……お前、赤マント……?」
「なあ、お前今驚いたよな? 怖かったか? なあ」
俺の手を両手で握ってブンブン振り回しながら、赤マントは頬を紅潮させて何度もそう繰り返す。だが、俺の方はそれどころではない。
「赤マント、お前こんなところで何してんだよ! 口裂け女と一緒にどっか行っちまったんじゃなかったのか?!」
「それは……」
俺の手を握ったまま、赤マントは言葉を探すように視線をさまよわせる。
「……しばらくアイツらと一緒に山奥で暮らしてみたけど、やっぱり退屈すぎた。ずっと何も起きないし、周りには何も無いし……」
それに、と呟いて、赤マントは俺に視線を合わせた。
「それに、お前の作ったヤキソバ、まだ食べてないし」
その言葉を聞いた瞬間、体の力がフッと抜けた気がした。
「結局、食い気かよ」
「いいだろ別に。お前だって、美味いものを食べるのは人生の楽しみだって言ってたろ」
「まあな……それよりお前、大丈夫なのか? 人間のところに行くならもう仲間とは思わないって、口裂け女に言われてただろ」
「ああ……まあ……正直めちゃくちゃ怒られたけど、八尺が間に入って取り持ってくれた」
「ちょっと待て、八尺様って『ぽ』以外も喋れるのかよ」
「いや、『ぽ』しか喋らないけど、なんとなくで通じてる。……とにかく、八尺が説得してくれたから、口裂けも一応分かってはくれた……と思う。あの人間が生きてる限りは帰ってくるな、とか言われたけど」
もごもごと言い訳っぽく話し続ける赤マントの指先は冷たくて、けれど確かに、ここに存在している。俺以外の誰に見えなくても、こいつは間違いなく俺のそばにいるんだ。
「……じゃあまあ、当分の間ヒマ潰ししていけよ。俺が死ぬまでの間、な」
「…………うん」
こくりと頷いた赤マントの背中に手を回して、そっとその体を抱きしめる。こいつにとっては、きっとあっという間に終わってしまう人生だろう。だからこそ、せめて残りの人生丸ごとくれてやる。俺にとっては、それくらいの価値があるんだ。
「一緒に帰るか。焼きそばは明日作ってやるよ」
「……ん」
背中に回された手にキュッと力がこもる。体を包む赤色はきっと、俺自身の運命の色だったのだろう。
今は、そんなふうに思う。
「なんか学生ん時を思い出すよな~、こういうの」
数ヶ月ぶりに会う友人は、缶ビールを片手に俺の部屋を見回してそう言った。お互いに仕事も一段落ついたし、久しぶりに家でゆっくり酒を飲もうという話になったのだ。
「今日は遅くなっても大丈夫なんだろ?」
「おう、嫁にも連絡入れてあるしな。ちょうどいいから向こうも友達と長電話するってよ」
ニッと笑った友人の顔は、とても幸せそうだ。結婚なんてものに興味はなかったが、こういう姿を見ていると少し羨ましく感じてしまう。いつでもすぐそばに誰かの気配があるということが、どれほど心を満たすのか、それを実感してしまった後だからだろう。
「……なんか、アレだな。俺も彼女とか探すかな」
ポテトチップスの袋を開けながら零した俺の言葉を聞きつけて、友人は少し首を傾げた。
「あれ、お前今そういう相手おらんの? 前電話で話した時も誰かいる感じだったし、てっきりカノジョかと思ってたわ」
「あー、いや……アレはそういうんじゃねえって」
そうだ、あいつは恋人でもなんでもない。人間ですらない。なんとなく、お互い興味本位で共同生活を送っていただけの関係だ。そばに誰かいて欲しいだけなら、代わりなんていくらでも探せる。
誤魔化すようにビールを煽った俺をじっと見て、友人もまたビールに口をつけた。
「……まあアレだ。愚痴とか悩みとか、聞いて欲しいならいくらでも聞いてやるから、今のうちに吐き出しとけって」
「おー……ありがとな」
そう返してみたが、こんな悩みを気軽に打ち明けられるはずもない。
人ではないモノに、本気で惚れてしまったかもしれない、なんて。
「なんかなー……大事な物って、失ってからしか気づけないモンなんだな」
「おっ、もう酔っ払ってきたんか」
「……お前が愚痴でも何でも吐き出せつったから言ってんだろ」
「いや、スマン。なんかお前がそういう感傷的なこと言うの、珍しいなと思って」
「そりゃ悪かったな」
溜息を吐きながら、ツマミとして持ち寄ったスナック菓子の山に手を伸ばす。今の俺は、自分で思っている以上に落ち込んでいるのかもしれない。
たとえば、アイツに焼きそばを食べさせてやれなかったこと。最後まで名前を呼ばれなかったこと。
そういう些細なことが、心の奥底にずっと引っかかっている。自分から手を離したくせに、女々しい限りだ。
「ま、あれだ。失恋の傷は飲んで忘れようぜ。お前ならすぐまた良い相手が見つかるよ」
「……だと良いけどな」
そう呟いて部屋の隅に視線を向けてみても、赤い影はもう、どこにも見当たらなかった。
*
「女の子じゃあるまいし、わざわざ送ってくれんで良かったのに」
「ついでだよついで。どうせコンビニで明日の朝メシ買おうと思ってたし」
最寄り駅の改札横で友人と向い合った俺は、そう言って片手をヒラヒラと振った。赤マントのやつがいなくなって以来、どうにも自炊する気になれないままだ。
「ほら、いいからさっさと行けよ。次のが終電だろ」
「おお……んじゃ、気をつけて帰れよ」
「こっちのセリフだよ」
酒が回ってきたのか、やや赤い顔をしている友人を少し心配しつつ、俺は半ば強引にやつを改札の向こうへ送り出した。そうでもしないと、一人の家に帰るのが嫌で、引き止めたくなってしまう。
一応はしっかりした足取りでホームへ向かっていく背中を見送って、俺は人気のなくなった改札に背を向けた。これ以上夜が深くなる前に、用事を済ませてさっさと帰ろう。
友人と別れてひとしきり食糧を買い終えた俺は、駅前を離れて暗い路地裏を歩いていた。周囲には、人も、人でない者も、俺以外には誰もいない。
赤マントのやつがいなくなってから、俺の生活にひとつ明確な変化が訪れていた。
あれ以来俺は、怪異を見ることが出来なくなった。幼い頃から当たり前のように見えていた異形たちは、俺の視界からすっかり姿を消してしまったのだ。俺自身が見る力を失ったのか、あるいは口裂け女のような名のある怪異たちの後に着いて、みんな居なくなってしまったのかもしれない。
「……俺、漫画家やっていけんのかな」
静かな夜道を歩きながら、俺は独り言をこぼした。俺にだけ見えるあいつらを、単なる創作のネタとして消費し続けたことへのバチが当たったのか。だとしたら、自業自得というやつなのだろう。
片手に提げたコンビニの袋がカサカサいう音と、履き潰したサンダルがペタペタいう音だけが虚しく響く。あいつに初めて会ったのも、こんな夜だった。あの頃はまだ肌寒いような季節だったが、あいつが現れた瞬間だけは、じわりと肌にまとわりつくような暑さを感じた。そう、まさに今みたいに……
「赤いマント、着せてやろうか……?」
頭の中に響いてきた声に驚いて、俺は足を止めた。なんだ今のは、幻聴か? いや……
「赤いマント、着せてやろうか?」
確かに聞こえた。すぐ近くから。声の主を探して、慌てて振り向いた瞬間、
「うわあああっ?!」
鼻がぶつかりそうな距離に人の顔があって、俺は思わず悲鳴を上げていた。
「お前、今驚いたな……?」
後ろにひっくり返りそうになった俺の手を取って、そいつは嬉しそうにそう言った。
「……お前、赤マント……?」
「なあ、お前今驚いたよな? 怖かったか? なあ」
俺の手を両手で握ってブンブン振り回しながら、赤マントは頬を紅潮させて何度もそう繰り返す。だが、俺の方はそれどころではない。
「赤マント、お前こんなところで何してんだよ! 口裂け女と一緒にどっか行っちまったんじゃなかったのか?!」
「それは……」
俺の手を握ったまま、赤マントは言葉を探すように視線をさまよわせる。
「……しばらくアイツらと一緒に山奥で暮らしてみたけど、やっぱり退屈すぎた。ずっと何も起きないし、周りには何も無いし……」
それに、と呟いて、赤マントは俺に視線を合わせた。
「それに、お前の作ったヤキソバ、まだ食べてないし」
その言葉を聞いた瞬間、体の力がフッと抜けた気がした。
「結局、食い気かよ」
「いいだろ別に。お前だって、美味いものを食べるのは人生の楽しみだって言ってたろ」
「まあな……それよりお前、大丈夫なのか? 人間のところに行くならもう仲間とは思わないって、口裂け女に言われてただろ」
「ああ……まあ……正直めちゃくちゃ怒られたけど、八尺が間に入って取り持ってくれた」
「ちょっと待て、八尺様って『ぽ』以外も喋れるのかよ」
「いや、『ぽ』しか喋らないけど、なんとなくで通じてる。……とにかく、八尺が説得してくれたから、口裂けも一応分かってはくれた……と思う。あの人間が生きてる限りは帰ってくるな、とか言われたけど」
もごもごと言い訳っぽく話し続ける赤マントの指先は冷たくて、けれど確かに、ここに存在している。俺以外の誰に見えなくても、こいつは間違いなく俺のそばにいるんだ。
「……じゃあまあ、当分の間ヒマ潰ししていけよ。俺が死ぬまでの間、な」
「…………うん」
こくりと頷いた赤マントの背中に手を回して、そっとその体を抱きしめる。こいつにとっては、きっとあっという間に終わってしまう人生だろう。だからこそ、せめて残りの人生丸ごとくれてやる。俺にとっては、それくらいの価値があるんだ。
「一緒に帰るか。焼きそばは明日作ってやるよ」
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