SEXアイドル&DEATHプロデューサー

中原星道

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チャプター2 千本木しほり

10項 しほり、危機 ~Hなし

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 翌日──

 ワタシは昨日と同じように、しほりセンパイと共に歩いていた。
 昨日と同じように、手を重ね合わせて。

『《ひだまりの家》に行ってみんなに打ち明けようと思うの。私がセックスアイドルをしていることを……』

 ワタシはしほりセンパイの決意を尊重し、それを一緒に見届けることにした。

 たとえその先に何が待っていようとも。

 そしてワタシたちは「ひだまりの家」の前に着いた。

 ワタシたちはお互いにうなずき合い、中へと入ってゆく。

 しかし、どこか雰囲気が違う。

 和気あいあいとした声はそこに無く、リビングで頭を抱えている陽崎ひざきさんと、それを心配そうに見上げる子供たちの姿があった。

陽崎ひざきさん、何かあったのですか?」

 室内に入ってしほりセンパイが問うと、みんな一斉に振り返る。

「ああ、しほりちゃん……」

 今にも消え入りそうなか細い声の陽崎ひざきさん。その顔は青白く、焦燥とした面持ちをしていた。

「ソウタくんがこんな置き手紙を……」

 そう言って彼女は1枚の紙切れを差し出した。

 しほりセンパイとワタシはそれを受け取って見てみる。

『もうこれ以上しほり姉ちゃんに迷惑はかけられない。オレが金融業者に話をつけてくる

ソウタ』

 そこには荒々しい文字でそう書き殴られていた。

「ソウタが……」

 しほりセンパイの顔面は蒼白し、その体は小刻みに震え出す。

 昨日、しほりセンパイが「ひだまりの家」を救うためにセックスアイドルをしていることを確信したソウタくんは、それをやめさせようとしてその元凶である金融業者の所に向かったのだろう。

 だけどそれは危険すぎる。
 その金融業者はヤクザと繋がっている。ただで済むとは思えない。

 それは当然、しほりセンパイも理解していた。
 彼女はかぶりを振り、気合い入れるように自分の頬をパチンと手のひらで叩くと、

陽崎ひざきさん。私が必ずソウタを連れて帰ります。だから待っていてください」

 そう告げて部屋を飛び出して行った。
 ワタシもその後を追った。

「センパイ! ソウタくんがどこに行ったかわかるんですか!?」

 並走しながらワタシは問いかける。

「ええ。『大幸だいこう商事』……。そこが借入先よ」

 しほりセンパイは鋭い目つきで答えた。

 都会の街中を10分ほど疾走し、高層ビル群の立ち並ぶ裏の通りへとやって来たワタシたちは、『大幸ビル』と看板に表記された5階建てのビルの前までやって来た。

「さくらちゃん、アナタはもう引き返して。ここから先は何があるかわからない。これ以上巻きこむワケにはいかないわ」

 しほりセンパイはワタシの方を向いてそう促す。

 ワタシはかぶりを振った。

「危険だとわかっている以上、なおさらしほりセンパイをひとりで行かせるワケにはいきません。ワタシも行きます」
「さくらちゃん……」

 しほりセンパイは逡巡しゅんじゅんの末に、

「ごめんなさい。ホントにありがとう……」

 そう言って頭を下げる。

「でも、一応プロデューサーさんにも伝えておきます。今は社長と一緒に名古屋まで出張中だから、何かあっても間に合うかはわかりませんが……」
「またみなさんに迷惑かけてしまったわね……」
「困った時はお互い様ですよ!」

 ワタシはそう言って笑う。
 しほりセンパイも静かに微笑んだ。

 そしてワタシはプロデューサーさんに事のあらましを記したメールを送信した。

「じゃあ、行きましょう」

 ワタシが言うとしほりセンパイはコクリとうなずき、ビルの入り口脇にあるインターホンを押す。

『はい、どなたですか?』

 すぐにスピーカーから野太い男の声で返答が来る。

「私、千本木と申します。そちらに13歳くらいの男の子がお邪魔してると思います。引き取りに来たので入れていただけないでしょうか?」

 しほりセンパイは淡々とした口調で用件を伝える。

『……少々お待ちください』

 インターホン越しの男は先ほどよりも低い声でそう答えると、いったんマイクをオフにする。
 そして程なくして、

『お待たせしました。今玄関を開けますので4階までお越しください』

 同じ男の声がそう告げると、マイクの音は完全にオフになる。

 そしてその言葉どおり、目の前のガラス扉が自動で開放される。

 ワタシたちはお互いにうなずき合い、中へと乗りこんで行った。

 SGIビルと同じでエントランスには誰もおらずがらんとしていて、その先にエレベーターがある。

 ワタシたちはボタンを押し、エレベーターへに乗りこみ、指定された4階へと向かう。

 果たしてそこに何が待ち受けているのか──

 ワタシたちは異様な緊張感に包まれ、その密室内を無言のままでいた。

 やがてエレベーターは4階に着床し、扉がゆっくりと開かれる。

 目の前には酒類が所狭しと棚に陳列されたラウンジのようなフリースペースがあり、その先に扉で閉ざされたひとつの部屋があった。

 ワタシたちはその扉の前に立ち、そこをノックすると、ガチャッ、という電子音と共に扉は自動で開いた。

 意を決して中に踏みこむと、デスクとソファーが置かれた事務所のような広いスペースで、数人の男たちが待ち構えていた。

「ようこそおいでくださいました。私がここの社長をしております大幸だいこうと申します」

 1番奥のデスクにいたメガネをかけたオールバックの男が立ち上がり、仰々しく名乗る。

「今日は借金の返済に来ました。まずはソウタを──ここに来ているはずの男の子を返してください」

 しほりセンパイはオールバックの男に向けてそう呼びかける。

 彼は無言のまま近くの男に向けて顎をしゃくる。
 その男は奥にあるもうひとつの扉を開けて中に入ると、程なくしてひとりの少年を連れて出てくる。

「ソウタッ!!」

 しほりセンパイがその名を叫ぶ。

 その少年は後ろ手に縛られて口にはテープを貼られているが、紛れもなくソウタくんだった。

「もう大丈夫だからね、ソウタ」
「んん~ッ!」

 必死に言葉を発するソウタくん。だけど、それは言葉にならない。

「ヒドイんですよ、このコは。自分たちが金を借りている身でありながら、図々しくも借金を失くせなんてぬかしやがるんですよ。だから保護者を呼んで説教していただこうと思ってたとこなんですが、その手間が省けましたよ」

 大幸だいこうはソウタくんの頭を荒々しく掻き回しながら言う。
 ソウタくんは恨めしそうに彼を睨み上げていた。

「ソウタを放してください。そうしたらお金を払います」
「いいえ、信用できませんね。まず、金が本当に用意されているのか確認しないことにはこの少年の解放はできませんよ」

 大幸だいこうの言葉に悔しそうに下唇を噛みながら、しほりセンパイはポケットから何かを取り出し、それを大幸だいこうの足下に投げる。

「今時、紙通帳に実印ですか。ずいぶんとアナログなのですね」

 大幸だいこうは鼻で笑い、足下に転がったものを拾い上げる。

「ほう、よくお貯めなさったものだ」

 通帳を眺め、感嘆をもらす。

陽崎ひざきがアナタたちに借りていた500万円、それできっかり返済したわ。だからソウタを返して。もう2度と私たちに関わらないで!」

 勇ましい口調でしほりセンパイは言い放つ。

 しかし、大幸だいこうはフッと嘲笑をもらすと、

「残念ながらこれではまだ足りませんね」

 無情にもそう告げる。

「どうしてですかッ!? 利息分なら毎月陽崎ひざきさんが支払っていたはずです!!」
「利息は時の経過と共に変動してゆくのですよ。もっと早く支払っていただければ良かったのに残念です」
「……卑怯者ッ!」

 しほりセンパイが悔恨と共に叫ぶ。

 仮に彼の言うとおりもっと早く支払っていたとしても、きっと同じような難癖をつけて延々といたぶるつもりだったのだろう。
 しほりセンパイの言うとおり、ホントに卑怯なヤツらだ。

「ですがまあ、融通してやらないこともありません」

 通帳と印鑑を懐に仕舞いこむと、

「融通?」
「ええ。アナタを抱かせてください。ここにいる全員とね。それくらい容易いことでしょう? セックスアイドルの千本木しほりさん?」

 大幸だいこうがニヤリとほくそ笑む。

 やっぱりそうきたか、とワタシは思った。
 こうなることを予想して、ワタシはしほりセンパイに同行したのだ。
 もしもしほりセンパイが犯されるような事態になったなら、その身代わりとなるために。

「……知っていたのですね?」
「まあ、アナタは人気があるみたいですし。それに、私共は『ファニーズエージェンシー』と懇意にしておりましてね。いろいろと情報が入ってくるのですよ」

 大幸だいこうはメガネをクイっと押し上げると、

「それにしても見事なバストですね。服の上からでもはちきれんばかりの膨らみを主張している……」

 いやらしく目を細め、しほりセンパイへと手を伸ばす。

「ん~ッ! んん、ん~~~ッッ!!」

 その背後から、ソウタくんが必死に声を上げながらジタバタと暴れる。

「まったくうるさいガキですねぇ。これだから躾のなってない子供はキライなんです……よっ!!」

 大幸だいこうは苛立たしげにつぶやくと踵を返し、拳をソウタくん目掛けて振り下ろされる。

「待ってッ!!」

 その時、しほりセンパイが大声で叫ぶ。

 振り上げられた拳は、すんでのところで止められる。

「……わかりました。私を自由にしてください。その代わり、そのコと後ろの女の子には手を出さないでください」

 しほりセンパイはそう懇願する。

 ──いけない!

 ワタシは勇気を振り絞り、

「しほりセンパイには手を出さないで! ワタシが代わりになる。ワタシならアナタたちにどんなことをされても構わない。だから……犯すならワタシを犯してッ!!」

 そう高らかに叫んだ。

「ほう……アナタが身代わりですか?」

 大幸だいこうの鋭い眼光がこちらへと向けられる。

「ダメよ、さくらちゃん! アナタは無関係なんだからッ!!」

 必死に止めてくれるしほりセンパイ。

 だけどワタシはかぶりを振った。

「しほりセンパイ……。ワタシ、実は男たちにレイプされた過去があるんです。もう、汚れてるんです。でも、しほりセンパイはそうじゃない。汚れの無い存在……ワタシの憧れ……。センパイにはキレイなままでいて欲しい」
「さくらちゃん……」

 その時、しほりセンパイの頬を涙が伝う。

「それにソウタくんが見ている。いくらセンパイがセックスアイドルであることを知っていても、その姿を実際に見たらショックが大きいはずですだから……」

 ワタシはセンパイの前に立ち、

「ワタシを犯しなさいッ!!」

 男たちに向けて精一杯叫んだ。

 彼はしばらくぽかんとした様子で惚けていたが、やがてぽつぽつとわらいが発生し、それは哄笑となる。

「それは素晴らしいお覚悟です。涙ぐましい友情というヤツですかな? 正直感服致しました。ですが、残念ながら私共はアナタには興味は無いのですよ。貧乳のアナタにはね」
「なッ!?」

 大幸だいこうのその言葉に、ワタシはショックを受けた。

 ──貧乳じゃない。ワタシだってパイズリできるんだから!

 そう声高に叫びたい衝動を必死に抑える。

「アナタにはしばらく黙っていてもらいますよ」

 大幸だいこうはそう言って他の男たちに目配せをする。

「やめて、離してッ!」

 ワタシは男たちにすぐに押さえつけられ、テープで両手と口を塞がれてしまった。

「けけけ、そこでしほりちゃんが犯されてる様をじっくりと見ときな!」

 男たちは嘲笑する。

 ──ちくしょう……ちくしょうッッッ!!!

 ワタシは悔しくて悔しくて気が狂いそうになるのだった。
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