SEXアイドル&DEATHプロデューサー

中原星道

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チャプター2 千本木しほり

12項 しほり、感涙 ~Hなし

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「……はっ!? わ、私としたことが他人の性行為に思わず見惚れてしまうとは……」

 しほりセンパイとソウタくんの行為に完全に見入ってしまった大幸だいこうはかぶりを振り、

「それにしても、しほりさんを相手に連続して射精できるとは……。これが若さというヤツなんでしょうかねぇ」

 しみじみとつぶやいた。

「なぁ、アニキぃ。もう1度犯ってもいいか?」
「オレも、もう回復したぜ」
「ガキに負けてらんねぇからな」

 男たちが再び立ち上がり、しほりさんの周りを取り囲む。

 ──アイツら、まだしほりさんをいたぶるつもりなの!?

 ワタシは再び暴れてみたけど、どうしてもこのいましめは解けない。

「テメエら、しほり姉ちゃんから離れろッ!」

 しほりさんの前で立ちはだかるソウタくん。

「おうおう、ガキが一丁前にナイト様気取りか、ああん?」

 男のひとりがソウタくんに手を伸ばすと、

 ガブッッ!!

 ソウタくんはその手に思いっきり噛みついた。

「いっでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 男は手をブンブンと振り回しながら絶叫する。そこにはしっかりと歯形が刻まれていた。

「はっ、ざまぁねぇですな」

 大幸だいこうは冷笑する。

「このクソガキがぁ、もう容赦しねぇぞ!!」

 完全に頭に血が上った男はソウタくんに飛びかかり、その体を押さえつける。

「止めてください! 私はどうなっても構わないからそのコは離してくださいッ!!」
「うっせぇ! コイツは1度きっちり躾けてやらねぇと気がすまねぇんだよッ!!」

 しほりセンパイの懇願さえも届かず、男は床に押さえつけたソウタくんに向けて拳を振り上げる。

 と、その時だった──

 パララララララララララ……

 ヘリコプターのプロペラ音が遠くから響くと、それはだんだんとこちらの方へと近づき、ライブ会場のような爆音が頭上で繰り広げられる。

「な、何だこりゃ!?」

 男たちは慌てふためき、部屋の中を右往左往する。

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!!

 すぐにヘリコプターは遠ざかって行ったが、今度はこのビル内で警報音がけたたましく鳴り響く。

「ちょっと様子を見て来てくんなせぇ」

 大幸だいこうが男に命じる。

「へい!」

 ひとりの男が駆け出し、部屋の扉を開けようとしたその時だった。

 ドゴォォォォォォォォォォンッッッ!!!

 扉が外側から勢いよく蹴り破られ、

「ぐぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 男は扉と共に吹っ飛び、その下敷きとなってしまう。

 それと同時に2つの黒い人影がものスゴい速さで飛び込んで来る。

 ──プロデューサーさん!? 社長さん!?

 それはワタシのよく知る人物だった。

 プロデューサーさんは拳銃を手にしていて、それを男たちに向けて引き金を引いた。

 ドシュッ!!

「ぐぎゃあッッ!!」

 額に弾を受けた男がその場に卒倒する。

 跳ね返った弾がワタシの前に転がる。

 ──ゴム弾?

 それは青いゴムでできた弾丸で、デモ鎮圧などに使われる非殺傷兵器だった。

「せいッッ!!」

 社長は素早い動きで男との間合いを詰めると、華麗に上段回し蹴りを繰り出す。

「ぐぼえぇぇぇッッ!!」

 それは男の横顔にクリーンヒットし、男は勢いよくソファーに激突してそこに倒れ伏した。

「さくらさん、遅くなりました!」

 プロデューサーさんが駆け寄り、ワタシの拘束を解いてくれた。

「プロデューサーさん!」

 ワタシはプロデューサーさんの首に抱きつき、安心のあまり泣き出してしまった。

「よく頑張りましたね……」

 プロデューサーさんはワタシの頭を優しく撫でてそう言うと、

「もう少し待っていてください」

 サングラス越しから鋭い眼光を放ち、再び拳銃を構えた。

 プロデューサーさんは拳銃を、社長さんは体術を駆使して男たちを次々と倒してゆく。

「よくもウチの大事な娘たちを可愛がってくれたねぇ」

 社長は床に倒れ伏している男の横顔をヒールで踏みつけると、

「なぁ、アタシだってキレイだろ? 犯したいと思うだろ?」

 扇情的な眼差しでたずねる。

 社長はタイトのミニスカート姿のため、たぶん男の目にはスカートの中まで映っていると思う。

 男がコクコクとうなずいて同調すると、社長はニヤリとほくそ笑んで、

「でも残念。アタシを犯す権利があるのはマサオミのチ○ポだけ。他の男たちのチ○ポなんか全部ミジンコだ。いや、ミジンコ以下だ!!」

 そう豪語してさらに男を踏みつけるのだった。

 男はなぜかうれしそうに上気して、そしてパタリと気絶する。

「ちぃッ! 何なんですかコイツらは!? こんなの聞いてませんぜ!!」

 次々と仲間が倒されてゆく光景を目の当たりにした大幸だいこうは、ソウタくんを突き飛ばすとしほりセンパイを拘束してその喉元にナイフをチラつかせる。

「人質を取るなんて卑怯よッ!」

 ワタシは男を批難するけど、

「何とでも言ってくだせぇ。私は捕まりたくないんでね。そこを通してもらいやしょうか?」

 しほりセンパイを人質にしながら大幸だいこうは部屋の出入り口へと向かう。

 ワタシたちは何も出来ず、道を空けるしかなかった。

 と、その時だ。

 しほりセンパイがナイフを握っている男の手の親指に思いっきり噛みついたのだ。

「あいィィィィィィィィィィッッッ!!!」

 思わぬ反撃に大幸だいこうは悶絶し、ナイフを床に落とす。

 ダァンッッ!!

 その隙を逃さず、プロデューサーさんが銃をブッ放す。

「ぐげぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 弾丸は男の額を捉え、断末魔の叫びと共に彼はそのまま後ろに倒れ伏した。

「大丈夫ですか、しほりさん?」

 プロデューサーさんが駆け寄り、ジャケットを脱いでそれを上半身裸のしほりセンパイの肩にかける。

「ありがとうございます、プロデューサー。私は大丈夫です」

 しほりセンパイは微笑み、礼を述べる。

「社長もありがとうございました……って社長? 何をしてるんですか?」

 社長さんの方に目をやると、彼女はデスクの引き出しを物色しており、

「お? あったあった!」

 そこから1枚の書類を取り出し、高らかに掲げてみせる。

「何ですか、それ?」

 ワタシがたずねると社長さんはにんまりと笑い、

「借用書だ。『ひだまりの家』の」

 そう言って彼女はその書類をいきなりビリビリに引きちぎったのだった。

「これで借金はチャラ。晴れてしほりくんは自由の身だ」

 床に舞い落ちた紙切れを踏みつけ、社長さんは高らかに宣言した。

 ワタシたちはその一挙手一投足に驚いたけど、どこかスッキリとした気分になって笑みがこぼれていた。

 と、その時だった。

「残念ながらそれはムダな努力というものだよ」

 破壊された部屋の出入り口から、白い背広を着た背の低い男が左右に黒服の屈強そうな大男を従えて悠然とやって来る。
 そして、その後ろから男の影に隠れるように現れたのは、陽崎ひざきさんだった。

陽崎ひざきさん!? どうしてここに?」

 驚愕の面持ちで問うしほりセンパイ。

「……ごめんなさい、しほりちゃん。あの土地の権利証は先ほどこの方に渡したの」

 深々と頭を下げながら、陽崎ひざきさんはそう述べた。

「ウソ……そんな……」

 茫然と立ち尽くすしほりセンパイに、

「もう、これ以上誰かに迷惑をかけることはできない。もっと早くこうすべきだった……。本当にごめんなさい」

 陽崎ひざきさんは謝罪の言葉を繰り返すのだった。

「まあ、そういうこった。結局コイツらは大して役に立たなかったがな」

 そこかしこに倒れ伏している男たちに冷笑を向け、小柄な男は言った。

「ともあれ晴れてあの土地に『ファニーズエージェンシー』の支社を建てられる。予定よりだいぶ遅れたがな」
「『ファニーズエージェンシー』が……あの土地を欲しがってたって言うの?」

 ワタシは看過できない単語を耳にして、無意識の内にたずねていた。

「そうだよ、さくらくん。この男は『ファニーズエージェンシー』のプロデューサー、つまり我々と同業者なのだよ」

 代わりに答えたのは社長さんだった。

「そんな……」

 ワタシは頭が混乱するのを感じた。

 『ファニーズエージェンシー』は『SGIプロダクション』と同じセックスアイドルを管理・マネジメントする会社だ。
 その同業者が何で地上げ屋を使い、土地を巻き上げるのか、ワタシにはわからなかった。

「まさか同業者が今回の件に関わってるとは思わなかったぜ。それに──」

 男は小さな体を目一杯ふんぞり返してプロデューサーさんの方を向き直り、

「まさかこんな所でオマエに再会できるとは感動もんだな。なあ、マサオミィィィィィィィィィィッッ!!」

 目を異様に血走らせながら、まるで挑発するようにその名を呼んだ。

「….…黙れよ、猿山さやま

 その時、プロデューサーさんの口から発せられた声は、まるで地の底から震わすような冷たく凝ったものだった。

 たしかに彼はコワモテで無表情で無愛想で……とてもコワイ印象があるけど、だけどすごく気配りができて優しくてとても頼れるヒト。

 でも、今のプロデューサーさんは、ワタシの知る彼じゃなかった。

猿山さやま『様』、だろうがボケぇぇぇぇぇッ!! 尻尾まくって無様に逃げ出したザコがいつまでも調子こいてんじゃねぇぞ、ゴラァッッッ!!!」

 猿山さやまと呼ばれたその男は呼び捨てにされたのが気に食わなかったみたいで、突然駄々っ子のようにキレてそこに転がっていたイスを蹴り飛ばした。

 ──知り合い……なのかな?

 だけど、何となくお互い因縁めいたものがあるように感じられる。

「そっちこそずいぶんといきがってるじゃないか。ええ? 羽村はむら組本部長の猿山さやま『様』?」

 社長さんはそんな男の癇癪かんしゃくなど意に介さずといった感じで、飄々とそんなことを言い放つ。

羽村はむら組?」

 ワタシが首をかしげると、

「ああ。この男は『ファニーズエージェンシー』のプロデューサーである以前に、『関東九頭龍会くずりゅうかい』傘下の暴力団『羽村はむら組』の組員なのさ」

 淡々とした口調で説明する。

 まさか、ヤクザがプロデューサーをやっているなんて思いもよらなかったワタシは驚きを禁じ得なかった。

「そういやぁ、あん時アンタもいたなぁ。どっかで見たことあると思ったら『SGIプロダクション』の社長だったとはな」

 猿山さやまはまるで旧友との再会を喜ぶかのように語る。

 その後はお互い無言のまましばらく睨み合いが続く。

 一触即発──

 特にプロデューサーさんと猿山さやまとの間に流れる空気は、ピリピリとしてすぐにでも爆発してしまいそうな危うさをはらんでいた。

「……目的は果たしたし、今日は軽いあいさつ代わりということでこれくらいにしといてやるか」

 フッと冷笑し、沈黙を最初に破ったのは猿山さやまだった。

「だがいずれ、『SGIプロダクションおたくら』とはキッチリと片をつけさせてもらうとしよう。せいぜい足掻いて待ってろや」

 彼は最後にそう言い残し、大男たちを引き連れて部屋を後にした。

「しほりちゃん。こんなことになってしまって本当にごめんなさい……」

 ゆったりとした足取りでしほりセンパイの元へ歩み寄った陽崎ひざきさんは、彼女の頭を撫でながら再び謝罪の言葉を口にする。

「悔しです……悲しいです。『ひだまりの家』は私にとって大切な場所だった。私にとってかけがえの無い家だったのに……」

 しほりセンパイは顔をくしゃくしゃにしてしゃくり上げる。

 陽崎ひざきさんは少し困ったように笑い、

「しほりちゃん。『ひだまりの家』はなくならないわよ」

 そう告げる。

「でも……」

 しほりセンパイはキョトンとした顔を向ける。

「たしかに、もうあの場所にはいられない。だけど、私は諦めない。いつか別の場所に『ひだまりの家』を建てて、またみんなと一緒に暮らすの。約束するわ」
「別の場所に……?」

 陽崎ひざきさんはコクリとうなずいた。

 しほりセンパイはしばらく考えこんでいたけど、

「私、あの場所にこだわりすぎていたのかも知れない。たしかにあそこで育んだ日々は尊いものだけど、思い出は私の胸の中でずっと残ってる。私にとってホントの家は、陽崎ひざきさんやみんながいる場所だったんだ。みんなと一緒にいることこそが、私にとって1番かけがえの無い宝物なんだ……」

 彼女なりの答えを見つけ出したみたいだ。

 ──そうだ!

 ワタシは倒れている大幸だいこうの懐から、しほりセンパイの通帳と印鑑を奪還すると、

「しほりセンパイ、これ!」

 それを彼女に差し出す。

「……もうあの土地は返らないのに、いまさらお金があったって何にもならないわ」

 しほりセンパイはそう言ってそっぽを向くけど、

「これはしほりセンパイが汗水垂らして必死に貯めたお金です。しほりセンパイが自分のために使うべきものなんです!」

 半ば強制的にそれを押しつける。

「でも……」
「しほりちゃん。もうこれからは他人のためじゃなくて自分の幸せのために生きてちょうだい。アナタの幸せが私たちにとっても幸せなのだから」

 陽崎ひざきさんはそう言ってしほりセンパイの髪を撫でる。

 しほりセンパイは子供のように声を上げて泣きじゃくり、陽崎ひざきさんと抱き合った。

 そんな2人の姿は、ホントの親子のようにワタシの目には映った。

 その時、遠くからパトカーのサイレンの音が響く。

「ようやく警察のお出ましか。ずいぶんとのんきなもんだ」
「この状況を説明するのが面倒くさいですね」

 社長さんとプロデューサーさんがそろって苦笑いする。

 ワタシはふと、窓の方へ目を向ける。

「……ああーーーーーッッ!!」

 ワタシは思わず叫んだ。なんと、大幸だいこうが窓を開けてここからこっそり逃げ出そうとしていたのだ。

「私はこんなとこで捕まるワケにゃいかないんでさぁ。それじゃあみなさん、ごきげんよう!」

 大幸だいこうはキザな笑いを浮かべてそう言い残し、窓から豪快に飛び降りた。

「ウソッ!?」

 ワタシは目を疑い、すぐにそこへ駆け寄る。
 ここは4階だ。飛び降りてただで済むはずないのに。

 開け放たれた窓から下を覗くと、隣接するビルの排水管を器用に伝いながら下へと降りて行く男の姿が見えた。

 ──お猿さんみたい。

 逃げられたのは悔しけど、もうとても追いつけそうになかった。

「なかなか食えない男のようだな」

 いつの間にかワタシの隣に立っていた社長さんが、苦笑と共にそうもらすのだった。
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