SEXアイドル&DEATHプロデューサー

中原星道

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チャプター4 彩金キアラ

8項 キアラ、荒くれる ~Hなし

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 今日はクリスマスイヴだ──

 世界中の恋人たちがこの日に集い、愛を語らい共に時を過ごすのだろう。

 しかし、俺はいつもと変わらず朝から会社に出勤し、仕事仕事で1日を終える何ひとつ変わり映えの無い日常でしかなかった。

 そして側にいるのは社長ひとりだけで、今日に限っては特に俺にセックスの相手を要求してくることもなく、不気味なくらい静かに過ごしていた。

「しほりくんはもう、『ひだまりの家』のコたちと出かけたのか?」

 不意に社長が問う。

「ええ。今日はみんなで遊園地で遊んで、帰るのは夜になるそうです」
「そうか。たしか萌火もかくんは今日も仕事だったな?」
「はい。『モテない野郎共とイヴにオフパコ会』というイベントですね」
「こんな時にまで精が出るな。セックスアイドルだけに」
「はいはい、うまいですね。座布団2枚くらいあげますよ」

 俺がそう言って社長のジョークを受け流すと、彼女は不服そうに頬を膨らませる。

「さくらさんは……今日はオフですね」

 俺はふと、この前のことを思い出す。

 彼女はオフなのに事務所ここに現れ、すぐに帰ってしまった。

 おそらく何か俺に話したいことがあったのだと思う。
 次に会ったら聞こうと考えているのだが、あの日以来彼女とはまだ会っていない。

 そして──

「キアラくんもオフか……。また去年みたいなことがあるかも知れないな」

 ふと、社長がつぶやく。

「そうですね……」

 俺はふと手を止めた。

 去年のイヴ──

 そのころ、キアラさんはこの事務所内の空き部屋で暮らしていた。
 さくらさんが今年の春まで住んでいたあの仮眠室だ。

 そして去年のイヴにキアラさんは涙を流しながら事務所に降りて来た。

 ひとりはさみしい──

 そう泣きながら言った。

 話を聞くと、彼女にとってクリスマスイヴは必ず家族と一緒に過ごした楽しい時間であり、幸せの象徴でもあったようだ。
 だから、イヴになるともう2度と帰ることのない幸せだった時をどうしても思い出してしまい、涙が止まらないのだと言う。

 だから俺たちはその日、彼女と一緒に事務所内で過ごすことにした。
 ささやかではあったがパーティーを開いて食事を共にした。

 それで心の痛みが解消されることは決して無かったが、彼女の顔に笑顔が蘇り喜んでくれたのだった。

「キアラくんが初めてウチに来た時のこと、覚えているか?」

 不意に社長がそんなことをたずねてくる。

「忘れるはずありませんよ。あんな出会い方すれば」

 俺は思わず苦笑した。

 そう、あれは今から2年近く前のことだった──



 ♢

 この日、俺と社長はひさしぶりに2人でバーで酒を酌み交わし、夜遅くまで語り明かした。

「あー、飲んだ飲んだぁ~。フヒヒ、楽しいね~ぇ」

 完全に酔っ払ってしまった社長は、上機嫌で夜の街を闊歩する。

「ちょっと飲み過ぎたんじゃないですか? 少しフラフラしてますよ?」
「だ~いじょうぶだって! アタシは全然酔ってませんよ!!」

 社長はそう言って側の電柱をバンバンと叩く。

「あー、全然ダメですね、こりゃ」

 俺はため息をつき、彼女の腕を肩にかけて支える。

「お、気が利くねぇ、マサオミ。なんならお姫様抱っこしてよぉ」
「このままその辺に放り投げてやりましょうか?」
「んもう、い・け・ず」

 社長は口を尖らせて不満を垂れる。

 と、その時だった。

「おい、お2人さん。ちょっと待ちな」

 背後から俺たちを呼び止める声がかかる。

「社長、少し酒弱くなったんじゃないですか? 歳は取りたくないですねぇ」
「なにおぅッ!? そういうキミだって同い歳じゃないか!」

 俺たちが構うことなくムダ話を続けると、

「おい、聞いてんのかよ、オッさんにオバさんよォ!!」

 背後の者たちは先ほどよりも語気を荒げて叫ぶ。

「やれやれ、このヘンもずいぶん騒がしくなったもんだな」
「社長に禁句を言えるくらい命知らずなガキが増えたみたいですね」

 俺たちは足を止め、そろって憂鬱のため息を吐き出す。

「んだと、テメエら!」

 刹那、男たちが周囲から駆け込み俺たちを取り囲む。
 ざっと見た限りでは全部で8人いるようだ。

「大人しく金だけ出してりゃ無傷で帰してやったのによぉ、ずいぶんとナメた口利いてくれんじゃんか?」

 リーダー格らしき長髪の大男が俺たちを威嚇する。

「ねぇ、コージぃ、いつもみたくちゃっちゃと済ませちゃってさぁ、早くウチと楽しいコトしよーよ~♪」

 その男にべったりと寄り添うギャル風の女は、彼の頬に唇を寄せて甘い言葉を投げかける。

「そうだな。すぐに終わらせるからよぉ、お前はアソコを濡らしながら待ってな!」

 コージと呼ばれた男はそう言って女と唇を重ね合う。

「やれやれ、ヤンチャなガキどもだ。見たところ子飼いのギャングと言ったところですかね?」
「そうだな。この辺りのシマを取り仕切ってるのはたしか『槇村まきむら組』だったな。やれやれ、あのジイさんも耄碌もうろくしたか? こんなコドモを使役するようになるなんてな」
「な、何でお前らが『槇村まきむら組』の知ってるんだ!?」

 俺たちの話に、男は明らかな動揺を見せる。

「どうやら図星のようだな。ふむ、腹ごなしにひとつ相手をしてやるか、マサオミ?」
「まあ、こうなるんじゃないかとは思ってましたよ」

 ポキポキと指を鳴らし、戦闘態勢を取る社長。
 俺はため息をもらし、それに追随する。

「ケッ、テメエらが誰だろうが構いやしねぇ。やっちまえッ!!」

 コージが声高に叫ぶと、周囲の仲間たちが一斉に呼応し、バットやナイフなどそれぞれ武器を振りかざしながら襲いかかって来る。

 俺はサングラスを外してそれを胸ポケットに仕舞う。

「おお、よく見えるな」

 俺はまるでスローモーションを見ているかのような彼らの攻撃を余裕をもってかわし、

「シュッ!」

 相手の顎に掌底をあて、後ろから鉄パイプを振りかざしている男には回し蹴りをお見舞いする。

「ぐはあぁぁぁッッ!!」

 男たちはその場に倒れ込み、悶絶する。

 社長の方に目をやると、

「へへへ、イイ女じゃねえか。あとでたっぷりと犯してやるぜぇ」

 男たちは盛りのついたオスのように目をぎらつかせて無手で社長に飛びかかる。

「今、アタシを犯すと言ったか?」

 社長はひらりと身をかわすと右脚を上に高々と上げ、隙だらけとなった男に踵落としを食らわせる。

「うがあぁぁぁぁぁッッ!!」

 その場に倒れ込んだ男の真上で彼女は見下すように仁王立つと、

「残念だったな。アタシのマ○コはマサオミ専用だ。マサオミ以外のミジンコみたいなチ○コなど払い下げだ!」

 そう言って男の顔をヒールを履いた脚で踏みつけるのだった。

「相変わらずえげつないな……」

 俺は苦笑しながら、次々と襲い来る男たちを薙ぎ倒してゆく。

「さて、後はお前とそこの女だけか」

 社長がリーダー格の男とギャル女の方へにじり寄る。

「て、テメエらナニモンだッ!?」

 男は信じられないとばかりに大きく目をき叫んだ。

「アタシたちか? アタシたちは通りすがりの社長と」
「プロデューサーです」

 俺たちは男の問いにそう答える。

「ふ……ふざけんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

 男は咆哮を上げると勢いよく社長の方へ駆け出し、丸太のような太い腕で彼女に拳を繰り出す。

「愚かな」

 社長はフッと冷笑して伸ばされた男の腕を掴み、その勢いをそのまま利用しながら彼を背中に担ぎ、一本背負いで投げ飛ばす。

 どしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!

 大男は硬いコンクリートの上に背中から落下し、

「ぐはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 悶絶の叫びを上げて倒れ込む。

「所詮はコドモだ。動きが素人すぎる」

 社長は吐き捨てるようにそう告げると、最後に残った女の方へ向き直る。

「て、テメエ、よくもコージたちを!」

 女はズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出し、刃先を社長の方へ向ける。

「止めておけ。キミでは勝てない」
「うっせえ!」

 女は怒りを剥き出しに社長にナイフを突きつける。

 ビシィッ!

 社長は難なくそれをかわすと共に彼女の腕に手刀を落とし込み、ナイフを叩き落とす。

「ちっくしょおぉぉぉぉぉッ!!」

 女はなおも社長に平手打ちを向ける。

 しかし、それもすんでのところで腕を掴まれ、拘束されてしまう。

「キミはなぜこんなことをしている?」
「うっせぇ、テメエにはかんけーねぇだろッ!!」

 女はもう片方の手でも平手打ちを繰り出すが、それも社長の腕に掴まれてしまう。

「キミは……ずっと泣いていたんだな。さみしい。苦しい。いろいろな哀しみをかかえて」
「な、何言ってやがんだ! そんなワケねぇッ!!」

 女は一瞬動揺を見せるが、すぐにジタバタと暴れて抵抗を試みる。

 すると社長は女の体を抱き寄せると、

「キミは自分で自分を傷つけているのだな。まるで、誰かに振り向いてもらいたいと願っているかのように」

 彼女の耳元でそう囁いた。

「ッ!!」

 女は明らかな動揺を見せて目をき、それと同時にフッと気を失って脱力する。

 社長が鎮静剤の入った針無しの注射器を彼女の首筋に打ち込んだのだ。

「社長、その子をどうするつもりですか?」
「ウチのビルに連れて帰ろう。このコは……救ってあげたいんだ」

 社長は女を抱きかかえると、母親のような慈愛の眼差しを向けるのだった。

「……わかりました。で、この惨状はどうします?」

 俺は、そこかしこに横たわる男たちを見回して問う。

「まあ、この件に関しては後で『槇村まきむら組』にきっちりと片をつけさせるとしよう」

 そう言って、彼女は俺たちの根城── SGIビルの方角へと歩き出すのだった。
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