あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

文字の大きさ
15 / 85
第一章 異世界召喚と旅立ち

015 深夜の脱出劇6 遥かなるユートピア

しおりを挟む
 田仲君が言うには、どうやらこのまま逃げ出すと、見過ごしてしまったエマさんの責任問題になるのではないか、ということだった。
 だからエマさんを縛り上げて牢屋に入れてから逃げ出せば、全て俺たちの所為にできるということなのだ。

「さぁ先輩、エマさんをふん縛ってください!」

 びくっと震えるエマさんに、寝ていた兵士から拝借したベルトを持って近づく俺。
 あぁ、なんだか背徳的で良い♪ じゃなくて! 何をやってるんだ俺は! なんとか警戒を解いてもらおうと、できるだけ優しい声音でエマさんの説得を試みる。

「あの~、エマさん。ベルトで手を縛るだけで変なことはしませんから、少しの間だけ我慢してもらえませんか?」
「そんな、男性はそういって少しだけ少しだけと言って、最後まで致してしまうものだと聞いたことがあります……つまりは、そういうことなのでしょう?」

 エマさんはその大きな胸を両手で隠すようにしている。
 逆に大きさが強調されて視覚的にかなりヤバイことになっているし、上目遣いにこちらを見てくる潤んだ瞳も高ポイントだ。
 実は狙ってやっているんじゃないのか、この人は?

「そんな事はしませんよ。俺はこのままここにいたら首を刎ねられてしまうかもしれないんで、脱出しないわけにはいかないんです。エマさんに迷惑をかけるのも心苦しいので、出来ればこの提案に乗って欲しいんですよ」

「ほんとに何もしないのですか?」
「本当です」
「ほんとのほんとに?」
「本当の本当にです」
「ほんとのほんとのほんとに?」
「本当の本当の本当にです」

「うぅ……」

 本当に何もしないという念押しに、繰り返して答えていたら、なぜかエマさんが泣き出してしまった。

「ちょっと、どうしたんですか? そんなに縛られるのが嫌でしたか? だったら他に方法を考えましょうか?」

 急に泣き出したエマさんにビックリして、しどろもどろになりながら俺は話を聞いてみる。

「先程から、必死に私には手を出さないと言われますが、そんなに私には魅力がないのでしょうか……魔力が切れて、手を縛られていて、これ以上に無防備な状態なんてないのに。私などに手を出そうという事にはならない。ということでしょうか?」

 んん? なんの話だ?

「やっぱりみんな若い子が良いんでしょうか? 私みたいな年増は女としてもうダメなのでしょうか?」

 なるほど、あまりにも何度も手を出さないと言って否定されてしまって、女性としての自尊心が傷ついてしまったということらしい。

 女心は難しいものだ。

「もう私も30になってしまいました……きっとこのまま誰にも相手にされずに、年老いていって一人で寂しい老後をおくるのでしょうね」

 やばい超ネガティブ入ってる、どうしよう。
 そう思い田仲君を見ると、彼は視線を逸らして鳴らない口笛を吹く真似をしている。
 無視するな、半分以上お前のせいだろ。

「若い頃は男性に現を抜かしていては立派なメイドになれないと思って、必死に剣に作法に打ち込んできたんです。それが悪かったのでしょうか……この歳になるまで一度も男性とお付き合いしたこともないような、おぼこいオバサンなんて気持ち悪いですよね。そうですよね、どんどん結婚していく部下の仲人の挨拶ばかり上手くなっている女なんて、女として終わっていますよね……わかっていたんですそんなことは。だいたい……」

 どんどん暗黒面ダークサイドに落ちていくエマさん。
 なんとか引き留めなくては。

「あの、エマさん?」
「はい、なんでしょうか? この哀れな年増女になにか御用でしょうか? 掃除でしょうか? この部屋の掃除をせよということでしょうか? お前は掃除だけしていれば良いと、女としては何も求めていないと、そういうことでしょうか?」

 やばい、これはかなり拗らせているな。
 エマさんの荒んだ目がちょっと怖いが、俺がなんとかフォローせねばなるまい。



「あの、俺はエマさんは魅力的な女性だと思いますよ」

 びくりと震えて、さっきまでぶつぶつと呟いていた呪いの言葉はとりあえず止まった。
 それでもまだこちらに目を合わせようとしないエマさん。

「そんな…お世辞はやめてください。私なんて……」
「お世辞なもんですか、そんなに自分を卑下しないでください。エマさんは美人だしスタイルもいいし、初対面でラヴィちゃんみたいな問題児の面倒をみてあげようとしていた心の優しい女性じゃないですか」

 ちょとずつエマさんの視線が上にあがってくる。もうちょっとだ、がんばれ俺!

「そんな、貴方みたいな若い男の人は私みたいなオバサンは嫌でしょう?」

 若い? あ、そうか今の俺は17歳だったな。

「そんなことないですよ、エマさんはまだまだ全然お綺麗じゃないですか。エマさんが自分をオバサンだなんて言ったら、本当のオバサンから怒られてしまいますよ」
「そ、そうかしら? 私もまだ大丈夫なのかしら?」

 ちょっとずつ表情が明るくなっているエマさん。もう一押しか?

「それに俺が召喚される前にいた場所だとエマさんくらいの年齢の方が丁度結婚適齢期でしたからね。結婚適齢期というのは一番魅力的な年齢だということですよ。つまりエマさんは一番魅力的だということですよ!」
「まぁ、そんな理想郷が存在したなんて!」



そう言って、顔を上げたエマさんの目はキラキラ輝いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...