あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第一章 異世界召喚と旅立ち

017 やっと来ました異世界の街並み

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 その後、城からの脱出は簡単に成功した。

 廊下を下りてきたのはやはり見張りの交代の兵士だったが、そいつらとは難なくすれ違い、階段を登った先の窓からの脱出といった感じだった。
 窓から脱出するときに5~6mの高さから飛び降りるために魔法の道具を使ったのだが、そのときはちょっと怖かった……田仲君は半泣きだった。

 城は小高い丘の上に建てられており、その周りを小さな森が囲んでいた。
 その森から少し離れた位置から大きな屋敷が何件も建てられている、おそらくその辺りは貴族の屋敷なのだろう。
 それぞれの屋敷を囲う立派な塀も備わっているし、前の道も大きく綺麗に整備されている。

 そこから1kmほど離れたあたりからは様子がガラリと変わり、大きい道はきれいに整備されているのだが、細い道が増えている。
 それに、貴族の邸宅のエリアに比べると明らかに小さな建物が、間隔狭く乱立している。あの辺りからきっと平民が住んでいるのだろう。

 まずはそこを目指すということで、俺たちは再度隠ぺい魔法を掛けなおして、暗がりをコソコソとゴキブリのように移動していくのだった。



「先輩、そろそろ魔法を解いてもいいんじゃないですか? 人が行き来してるのが見えてきましたし」

 俺たちが隠れている塀の影から見える大通りには、荷馬車を引く商人や、店の前の掃除をしている店員風の人たちがチラホラと見えていた。
 城から慎重に移動していたので、結構な時間が過ぎていたようだ。
 そろそろ空が白み始めてきた。

「そうだね、空も明るくなってきたしそろそろかな。今なら誰からも見られてないだろうし、魔法を解こうか」

 俺が提案を受け入れると、田仲君が近寄ってくる。
 黒い影が近づいてくるのはちょっとしたホラーだ。

「じゃ、魔法を解いてください」
「………」
「先輩?」

 あれ? 魔法ってどうやって解くんだろ?

 ゲーム中だったら、キャラクターの状態を表すアイコンが目の前に表示されていたので、それをタッチして消していたのだが……そうだ、冒険の書にキャラの状態が出てるんじゃないか?

 そう思い、本を開き、キャラクター情報から魔法を解除する。
 俺の体に纏わりついていた黒い影が霧散し、麻の服と皮の靴が見えてきた。

「お~、影が消えましたね。じゃあ僕もお願いします」
「え?」
「え? 僕の魔法解けないんですか?」

 そういえば、田仲君が冒険の書を持っているところは見たことがないな……

「田仲君、こういう冒険の書っていう本があるんだけど、持ってない?」

 そう言って俺は、冒険の書を田仲君に見せる。

「あぁ、なんか最初に貰った気がするんですけど……色々あってどっかにいっちゃいました」

 なんと、それをなくすなんてとんでもない!

「あれ? それってそんなに大事なものなんですか?」

 まだ田仲君は魔法が切れていないので黒い影の姿なのだが、明らかに焦っているのがわかって、ちょっと面白い。

「と、とりあえず、魔法を先に解こうか」

 そう言って田仲君の肩を触り、魔法のターゲットに指定する。

「魔法詠唱:ディスペル」

 キャラにかかっている魔法効果を解除する黒魔導士のディスペルを発動させる。

 田仲君の足元に魔法陣が現れ、全身が一瞬明るく光る。
 すると身体を覆っていた影が霧散して、フード姿の可愛いウサ耳幼女が現れた。

「へぇ~。脱出するときはいっぱいいっぱいで見てませんでしたけど、そうやって魔法を使うんですか」
「ソーウィザは殆どターン制のバトルみたいな感じだったんだ。だからターゲットの指定は敵とか味方の名前がこのへんに表示されてて、それをタッチで選ぶ感じだったんだよね」

 そう言って、俺は右手の前の辺りを指さす。

「なるほど、アクション性があんまり無いRPGだったんですね」
「でも、この世界だとそれが表示されないから、相手に触って魔法のターゲットに指定するタッチターゲットか……冒険の書に近くにいる敵と味方のネームリストが出るから、そこから指定して発動させないといけないんだよね」

 ふむふむと頷いていた田仲君だったが、ことの重大性に気付いたようだ。
 とても顔色が悪い。

「それって、今の僕は敵に触れないと魔法を使えないってことですか?」
「そうだね、でも初期設定だと触っての魔法の発動は出来ないんだよ」

プルプルと震えだすウサ耳幼女。

「そ、そんな、ひどい!……かみさま」

 幼女は神に祈り始めた。
 あまりいじめるのも可愛そうなので助け舟を出そう。

「冒険の書と魔法の鞄は一定時間経過か一定距離を持ち主から離れると、手元に召喚されるようになってるから。ゲームの仕様が生きてたら、そろそろ来てもおかしくないんじゃない?」

 そう言い終わるかどうかのタイミングで、城の方から光る物体がこちらに飛んでくる。
 ヤバイ、せっかく隠れながら移動してきたのに滅茶苦茶目立ってる。

 飛んできた光は田仲君の前で弾けて、鞄と本になって地面に落ちた。
 鞄はピンク色に白の水玉の柄で、リボンをつけたウサギのアップリケが縫いつけられているショルダーバッグ。
 本はウサギの絵の表紙で、ひらがなで"ぼうけんのしょ"と書かれていた。

 田仲君、結構細かいところにこだわってるな。
 俺がゲームを始めた十年以上前には、そんな面白グッズはなかったので少し羨ましい。

 いや、今は羨ましがっている場合じゃないな、周りの人間がこちらを見て騒ぎ始めている。
 早くここから移動しないと! そう思い田仲君を見ると、田仲君は目の前に現れた冒険の書と魔法の鞄を抱きしめてうずくまっていた。

「よ、良かったよぉ。魔法が使えない魔導士になるところだったぁ……」
「ちょっと、田仲君! 目立ってる、目立ってるよ! 早く移動しないと!」



 薄暗い街中で、幼女を泣かせている(ように見える)青い髪の男がそこにはいた。というか俺だった。

 田仲君の復活を待っていたらどんどん人が集まりそうだったので、俺は田仲君を担いで人気が無い方向に走って逃げるのだった。
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