あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第二章 迷宮都市ロベリア

069 ???階層

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 ガイアの大穴に飛び込んだ俺は、落下傘(フォーリングアンブレラ)を使って、フワリフワリと暗闇の中をゆっくり落下していく。

 しばらくすると、下の方にぼんやりと明かりが見えてきた。

 あれは……地面かな?
 壁に開いた穴から光が入ってきて、茶色い土の地面を明るく照らしている。

 なんだ、ちゃんと地面も明りもあるじゃないか。
 落ちたら誰も帰ってこないなんていうから、何があるのか身構えていたというのに、実際に来てみたらなんてことはないな。

 俺は、ゆっくりと地面に降り立ち、落下傘を閉じると光りの射し込む方へと目を向けた。
 20階層までの壁に備え付けられていた、青や黄色の魔道具の灯りとは違う自然な光だ。

 もしかして、この穴の外は屋外なのか?
 確かめるために、穴の外へと踏み出そうとした俺の背後から、かすかなうめき声が聞こえた。

 "うぅ……"

 何かいる!

 咄嗟に、手に持っていた傘を構えて振り向くが、穴の中は暗くてよく見えない。
 しばらくじっと目を凝らしていたのだが、特に動くものは見当たらない。

「もしかして……ジグガンドさんですか?」

 暗闇に向かって声をかけてみる。

 "……ぁぅ"

「ジグガンドさん?」

 俺は魔法の鞄から、初心者七つ道具の"魔法のカンテラ"を取り出して辺りを照らす。
 奥の方の壁際に倒れている人がいる!

 俺は倒れている人影に走り寄り、膝をついて顔を覗き込んだ。

「ジグガンドさん! 大丈夫ですか!?」

 間違いない。
 全身血だらけで、ボロボロになっているが、この人は間違いなくジグガンドさんだ。

 地面に血だまりが出来ている。
 尋常じゃない量の血だ。
 この出血量はまずいんじゃないか?

「ジグガンドさん、俺がわかりますか!?」

 ダメだ、全然反応が無い。
 とにかく急いで回復魔法をかけよう。

「魔法詠唱:ハイヒール!」

 回復魔法が発動して、ジグガンドさんの怪我を癒していく。
 念のため、容体をチェックする。
 脈拍も安定しているし呼吸も穏やかだ。
 今にも死にそうだった真っ青な顔に、少しずつ赤みが差してきた。

 ふぅ……どうやら間に合ったみたいだな。



 なんとか落ち着いたので、穴の中を見回してみる。

 ジグガンドさんの近くには、斧と盾、ひしゃげてはじけ飛んだ鉄の肩当が転がっている。
 他にもジグガンドさんがいつも背負っていたリュックが破けて中身をまき散らしていた。

 もしかして、ポーションの小瓶の欠片だろうか?
 リュックの近くには、魔法のカンテラの光に照らされて、キラキラと光るガラスの破片が周囲に散らばっている。

 落下した衝撃で割れたポーションの中身が、運良くジグガンドさんに降りかかったのかもしれない……。

 そうか……いくらこっちの世界の人たちが、元の世界の人間に比べて丈夫だといっても、普通の人はあの高さから落ちた時点で、死んでしまってもおかしくないのだ。

 オルガの大穴の中ということで、特殊な状況ばかりを想像していたが……なるほど、落ちただけで大抵の人は死んでしまうから帰ってこれないという単純明快な理由だったのかもしれない。

 さてと、とりあえずはどうにかなったかな。

 今いる穴の中は、ジグガンドさんと俺以外には何もないようだし、ジグガンドさんの目が覚めるのを待つ間に、少し外を確認しておこう。

 俺は、暗い穴の中から、明るい光の射し込む外へと歩き出した。



 壁の穴から外に出てみると、そこは木々に囲まれた森の中だった。

「おお、やっぱり外なのか?」

 よく見ると、木の隙間や根っこの下から見える岩は、苔むした白い煉瓦造りの建造物の一部の様だ。

 アユタヤ遺跡みたいな感じだろうか?
 樹木に浸食された古代遺跡……すごいな、ロマンを感じる。

 振り向いて俺が今出てきた穴を確認すると、その穴は見上げるような大樹のウロだった。

 この大樹の中に転移魔法が仕込んであったのだろうか?
 外側からこの木を登っても、みんなのところへは戻れそうにない。

 空を見上げると、太陽は既に夕方と言っていいくらいの高さまで落ちてきており、石造りの壁とその上に根を張り、遺跡をまさに飲み込まんとする大樹達を照らしていた。

 ダンジョンの外の時間と同じくらいか?
 冒険の書を使って現在時刻を確認してみると、表示された時計の時刻は夕方の5時を過ぎていた。

 こちらの世界に来てから、特に冒険の書の時計の設定を変更したりはしていないのだが、どういうわけか、そのまま違和感なく日本時間のままで時計は使用できている。

 6時になったらいつも、リコットちゃんが迷宮の出口にある素材買取所まで迎えに来るのだが……今日は流石に帰れないだろうな。



 あの子のことだから、きっととても心配してしまうんだろう。
 はぁ……居候の分際で、また彼女に迷惑をかけてしまう。
 なんとかして早く帰らなくては。
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