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第二章 迷宮都市ロベリア
070 ハチノスと豆のトマト煮込み
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■リコット SIDE
長屋"銀の盃"の台所では、グツグツと鍋が煮込まれていた。
「そろそろかな?」
沸騰していた鍋を火から引き上げて、脇の流しに置いたザルの上に中身を取り上げる。
「あちちっ」
少しお湯が跳ねて手にかかってしまった。
私は汲み置きの瓶の水で手を冷やしながら、下処理をしている食材の匂いを確認する。
「う~ん……もう一回くらいやっといたほうがいいかなぁ? この匂いが苦手な人もいるらしいし」
瓶から手を引き抜いて確認してみる。
良かった、火傷にはなってないみたいだ。
ザルに取り出しておいたものを再度鍋に戻して、そこに水を注いでいく。
これで3度目の下茹でだが、ここで手を抜くと折角手間暇かけて作った料理が台無しになってしまう。この料理は根気が必要なのだ。
たっぷりと水を入れた鍋を持ち上げて、かまどの上に戻してやる。
かまどの中の火は勢いよく燃え上がっており、まだ薪を足したりする必要はなさそうだ。
「よし、乾燥豆はもう水につけこんで戻してあるし……あとは、今のうちに野菜の準備をしておこうかな」
かまどにかけた鍋の水が沸騰するまでの時間で、野菜を切ってしまおう。
買い物かごに入っている野菜を取り出していると、バタバタと誰かが玄関から走り込んでくる音が聞こえてきた。
「ただいま~」
どうやらラヴィちゃんが帰ってきたらしい。
いつもは日暮れ前まで遊んでいるラヴィちゃんだが、今日はちょっと早めに帰ってきたようだ。
「あ、リコットさん、ただいま~」
「お帰りなさい、ラヴィちゃん。今日も楽しかった?」
「はい、今日はみんなで"四角肉弾"をやって遊んだんですけど、ケン君が手加減知らずだから、カトちゃんを突き飛ばして泣かせちゃって……宥めて泣きやませるのが大変でしたよ~」
「へ、へぇ~……そっかぁ~」
死角? ニクダン? なんだかとても物騒な名前だけど、大丈夫なのだろうか? カトリーヌちゃんがケントン君に泣かされちゃうのは、いつものことらしいんだけど……あの兄妹、仲はいいんだけど、お兄ちゃんのケントン君が元気良すぎるみたいなんだよね。
「えっと……それって、どんな遊びなの?」
一応危ないことをしていないかどうか、探りを入れてみる。
「えっとぉ、四角い二つの陣地とそこに入るための通路を地面に書くんですよ。これが丸いと"Sケン"になるんですけど……」
ラヴィちゃんが"シカクニクダン"について細かく説明してくれる。
ふむふむ、特に危ないことはやってないみたいだ。
まあ、ラヴィちゃんは小さな見た目の割に、かなりしっかりしているので、そこまで心配はしていないのだけど……遠方出身の所為か、所々で大きな常識のズレがあるからなあ。
「へぇ~、楽しそうな遊びだね。ラヴィちゃんは本当に色々な遊びを知ってるんだね~」
「ええ、僕は子供の頃は田舎に住んでたんで、家のまわりに遊ぶ場所なんて広場くらいしかなかったんですよ」
「あはは、子供の頃ってラヴィちゃんいくつなのよ」
「え? あ、あはは……そうですね、まだまだ僕は子供でした」
背伸びをしたい年頃なのか、ラヴィちゃんは大人のフリをして、こういうことをよく言っている。
まだ8~9歳くらいだと思うんだけど、喋り方も敬語を使っているし……私のまわりには居なかったタイプの不思議な子だ。
「そ、そうだ! 今日は何を作ってるんですか?」
そう言って火にかけた鍋の中を覗き込むラヴィちゃん。
背が低いせいで、背伸びをしながらになってしまうのがなんとも可愛らしいが、危なっかしくて見ているとソワソワしてしまう。
「あ、これってハチノスでしたっけ? 牛の何番目かの胃だったような?」
「へぇ~、ラヴィちゃんの地元だとハチノスって言うんだね」
面白い表現だ。
そっか、言われてみれば蜂の巣に似てるかも……。
「先輩さんは苦手な食べ物とかあったりするかな? 今日はモツ料理にしようと思ってるんだけど」
「どうだったかな~? あんまり好き嫌いは無いような感じだったけど……」
アゴに人差し指を当てて、天井の方を見ながらウーンと唸りながら考えているラヴィちゃん。
あらやだ、可愛い♪
「とんでもなく辛かったり苦かったりしないなら、基本的には大丈夫だと思いますよ。それより、何か僕に手伝えることありますか?」
ラヴィちゃんは柄杓で瓶の水を汲み取って、手を洗いながらお手伝いを申し出てくれる。
今日はちょっと時間がかかる料理を作るので、お手伝いはありがたい。
「そうだね……じゃあ、お鍋のアク取りをお願いしようかな」
「りょーかい、こう見えてアク取りは得意なんです。任せてくださいよ!」
「ふふっ、そっか。じゃあこのオタマでお願いね」
壁の食器かけに吊るしてあったオタマを取って、ラヴィちゃんに渡してあげる。
「あ、この踏み台使っていいですか?」
そう言ってラヴィちゃんが持ってきたのは、古くて小さな踏み台だった。
あぁ、懐かしい。
この踏み台、まだ残ってたんだなぁ。
「何か書いてあるな。えっと、り……"りこのいす"って書いてあるのかな? あとは、だ……だり……"だりら"?」
「ダリアだよ。すごいねラヴィちゃん、もうそんなに文字が読めるようになったんだね」
「"ダリア"か~、惜しかった。この"リコ"ってリコットさんのことですか?」
ラヴィちゃんは、かまどの前に置いた踏み台に乗って、お鍋の中をオタマでつつきながらそう聞いてきた。
まだすぐには沸騰しないから、アクも出ていないが、きっと手持無沙汰なのだろう。お鍋の中の具材をつんつんやってお湯に沈めたりしている。
「そうだよ~、それは私が小さいときに使ってた踏み台なんだ。まだ小さくて"踏み台"よりも椅子に丁度いい大きさだったんだよね」
「へぇ~、なんとも可愛らしいですね」
「え~? ラヴィちゃんのほうが可愛らしいよ」
「そ、そうですか? え、えへへへ♪」
まな板の上で野菜をみじん切りにしながら、ラヴィちゃんとおしゃべりをする。
誰かと一緒に料理をするなんて、本当に久しぶりだ。
懐かしいな……昔は私がラヴィちゃんの立場だったんだけど。
「じゃあこの"ダリア"さんっていうのは?」
「それはね~、私のお母さんの名前だよ。その踏み台は、私のお母さんが小さい頃におじいちゃん……お母さんのお父さんだね。その、おじいちゃんに作ってもらったものなんだ~それを私が貰ったの」
「へ、へぇ~……そ、そうなんですね」
お母さんの名前だと言った瞬間に、ラヴィちゃんがビクリと身体を硬くして、視線もキョロキョロとし始めた。
きっと私の家庭環境に気を使って、言葉を選んでいるのだろう。
ラヴィちゃんに比べたら大人ではあるけれど、まだ私だって胸を張って大人だとは言い難いような歳なのだ。
長屋を切り盛りするには、まだ不安が残るような歳で、一人で生活していることを、詮索して良いのか悩んでいるのかもしれない。
「え、えっと……も、物持ちがいいですね!」
「あはは、そうだね~。ラヴィちゃんでその踏み台を使う女の子は三代目になるね」
どうしようか迷ったあげく、当たり障り無い話題にしたらしい。
ほんとに、子供らしくない気の使い方をする女の子だ。
これは先輩さんの影響だろうか?
それとも、ロベリアにたどり着くまでの過酷な旅路のせい?
「あ、アクが出てきましたよ、これを取れば良いんですよね!」
そう言って、鍋の中のアクをすくい始めたラヴィちゃん。
私としては、ラヴィちゃんくらいの女の子には、もう少し子供らしくあって欲しいなんて思ってしまうけど、きっとそれが許されないような生活を送ってきたのだろうな。
この子はこの子で、きっと私では想像もできない様な苦労をしてきたに違いない……それでも、周囲には全くそんな素振りを見せないのだから、本当に出来た子だ。
きっと大きくなったら良い女になるだろう……シーナさんは果報者だね。
そんな事をぼーっと考えていた私は、じっとラヴィちゃんの顔をみつめていたらしい。
「ん? 僕の顔に何か付いてます?」
ラヴィちゃんは、そう言ってペタペタ顔を触って、何かゴミでも付いていないかどうか確認を始めた。
「ごめんごめん、なんでもないよ。今日は先輩さんのお仕事が終わる日だから、PTの人からお給料を貰って帰ってくるんだよ。ラヴィちゃん、何か欲しいモノを買って貰ったら?」
こんなにいい子にしているラヴィちゃんに、先輩さんは何かご褒美を買ってあげるべきだ。
そう思って話を振ってみたのだが、ラヴィちゃんはやはり大人びた対応だ。
「え~っと、先輩とも相談して、最初の給料は全部リコットさんに渡そうって決めてあるんですよ。それに、欲しいモノなんて特にないし……」
「そうなの? そんなの別にいつでもいいのに……」
「ダメですよ、そういうのはちゃんとしなきゃ! ここまで良くしてもらっておいて、お金を払わなかったら先輩はタダのヒモじゃないですか!」
僕はちゃんとお仕事のお手伝いをしてますけどね! そう言って小さな胸を張るラヴィちゃん。
あ~っもう! ホントに可愛くていい子だよぉ~こんな妹が欲しかった!
「そっかぁ~、じゃあ、先輩さんが探索者として稼げるようになったら、沢山買ってもらおうね♪」
「そうですね~、そのときはリコットさんも沢山買ってもらいましょうね」
そんなことを話しながら、ラヴィちゃんと一緒に料理する時間はとっても楽しかった。
あっという間に時間は過ぎて、あとは弱火でゆっくりと煮込むだけになったところで、いつも通りに先輩さんを迎えに出る時間になった。
「じゃあ、あとはお願いね。たまに中身をかき混ぜるくらいでいいから、薪の追加もしなくていいからね」
「はい、あとはこのラヴィちゃんに任せてください! 気を付けて行ってきてくださいね」
「うん、すぐ帰ってくるから、ちょっとだけ待っててね」
そう言って私はシーナさんを迎えに行くために家を出たのだった。
でも結局、二人で頑張って作ったその料理が、シーナさんの口に入ることは無かった。
この日、シーナさんは迷宮から帰ってこなかったのだから……。
長屋"銀の盃"の台所では、グツグツと鍋が煮込まれていた。
「そろそろかな?」
沸騰していた鍋を火から引き上げて、脇の流しに置いたザルの上に中身を取り上げる。
「あちちっ」
少しお湯が跳ねて手にかかってしまった。
私は汲み置きの瓶の水で手を冷やしながら、下処理をしている食材の匂いを確認する。
「う~ん……もう一回くらいやっといたほうがいいかなぁ? この匂いが苦手な人もいるらしいし」
瓶から手を引き抜いて確認してみる。
良かった、火傷にはなってないみたいだ。
ザルに取り出しておいたものを再度鍋に戻して、そこに水を注いでいく。
これで3度目の下茹でだが、ここで手を抜くと折角手間暇かけて作った料理が台無しになってしまう。この料理は根気が必要なのだ。
たっぷりと水を入れた鍋を持ち上げて、かまどの上に戻してやる。
かまどの中の火は勢いよく燃え上がっており、まだ薪を足したりする必要はなさそうだ。
「よし、乾燥豆はもう水につけこんで戻してあるし……あとは、今のうちに野菜の準備をしておこうかな」
かまどにかけた鍋の水が沸騰するまでの時間で、野菜を切ってしまおう。
買い物かごに入っている野菜を取り出していると、バタバタと誰かが玄関から走り込んでくる音が聞こえてきた。
「ただいま~」
どうやらラヴィちゃんが帰ってきたらしい。
いつもは日暮れ前まで遊んでいるラヴィちゃんだが、今日はちょっと早めに帰ってきたようだ。
「あ、リコットさん、ただいま~」
「お帰りなさい、ラヴィちゃん。今日も楽しかった?」
「はい、今日はみんなで"四角肉弾"をやって遊んだんですけど、ケン君が手加減知らずだから、カトちゃんを突き飛ばして泣かせちゃって……宥めて泣きやませるのが大変でしたよ~」
「へ、へぇ~……そっかぁ~」
死角? ニクダン? なんだかとても物騒な名前だけど、大丈夫なのだろうか? カトリーヌちゃんがケントン君に泣かされちゃうのは、いつものことらしいんだけど……あの兄妹、仲はいいんだけど、お兄ちゃんのケントン君が元気良すぎるみたいなんだよね。
「えっと……それって、どんな遊びなの?」
一応危ないことをしていないかどうか、探りを入れてみる。
「えっとぉ、四角い二つの陣地とそこに入るための通路を地面に書くんですよ。これが丸いと"Sケン"になるんですけど……」
ラヴィちゃんが"シカクニクダン"について細かく説明してくれる。
ふむふむ、特に危ないことはやってないみたいだ。
まあ、ラヴィちゃんは小さな見た目の割に、かなりしっかりしているので、そこまで心配はしていないのだけど……遠方出身の所為か、所々で大きな常識のズレがあるからなあ。
「へぇ~、楽しそうな遊びだね。ラヴィちゃんは本当に色々な遊びを知ってるんだね~」
「ええ、僕は子供の頃は田舎に住んでたんで、家のまわりに遊ぶ場所なんて広場くらいしかなかったんですよ」
「あはは、子供の頃ってラヴィちゃんいくつなのよ」
「え? あ、あはは……そうですね、まだまだ僕は子供でした」
背伸びをしたい年頃なのか、ラヴィちゃんは大人のフリをして、こういうことをよく言っている。
まだ8~9歳くらいだと思うんだけど、喋り方も敬語を使っているし……私のまわりには居なかったタイプの不思議な子だ。
「そ、そうだ! 今日は何を作ってるんですか?」
そう言って火にかけた鍋の中を覗き込むラヴィちゃん。
背が低いせいで、背伸びをしながらになってしまうのがなんとも可愛らしいが、危なっかしくて見ているとソワソワしてしまう。
「あ、これってハチノスでしたっけ? 牛の何番目かの胃だったような?」
「へぇ~、ラヴィちゃんの地元だとハチノスって言うんだね」
面白い表現だ。
そっか、言われてみれば蜂の巣に似てるかも……。
「先輩さんは苦手な食べ物とかあったりするかな? 今日はモツ料理にしようと思ってるんだけど」
「どうだったかな~? あんまり好き嫌いは無いような感じだったけど……」
アゴに人差し指を当てて、天井の方を見ながらウーンと唸りながら考えているラヴィちゃん。
あらやだ、可愛い♪
「とんでもなく辛かったり苦かったりしないなら、基本的には大丈夫だと思いますよ。それより、何か僕に手伝えることありますか?」
ラヴィちゃんは柄杓で瓶の水を汲み取って、手を洗いながらお手伝いを申し出てくれる。
今日はちょっと時間がかかる料理を作るので、お手伝いはありがたい。
「そうだね……じゃあ、お鍋のアク取りをお願いしようかな」
「りょーかい、こう見えてアク取りは得意なんです。任せてくださいよ!」
「ふふっ、そっか。じゃあこのオタマでお願いね」
壁の食器かけに吊るしてあったオタマを取って、ラヴィちゃんに渡してあげる。
「あ、この踏み台使っていいですか?」
そう言ってラヴィちゃんが持ってきたのは、古くて小さな踏み台だった。
あぁ、懐かしい。
この踏み台、まだ残ってたんだなぁ。
「何か書いてあるな。えっと、り……"りこのいす"って書いてあるのかな? あとは、だ……だり……"だりら"?」
「ダリアだよ。すごいねラヴィちゃん、もうそんなに文字が読めるようになったんだね」
「"ダリア"か~、惜しかった。この"リコ"ってリコットさんのことですか?」
ラヴィちゃんは、かまどの前に置いた踏み台に乗って、お鍋の中をオタマでつつきながらそう聞いてきた。
まだすぐには沸騰しないから、アクも出ていないが、きっと手持無沙汰なのだろう。お鍋の中の具材をつんつんやってお湯に沈めたりしている。
「そうだよ~、それは私が小さいときに使ってた踏み台なんだ。まだ小さくて"踏み台"よりも椅子に丁度いい大きさだったんだよね」
「へぇ~、なんとも可愛らしいですね」
「え~? ラヴィちゃんのほうが可愛らしいよ」
「そ、そうですか? え、えへへへ♪」
まな板の上で野菜をみじん切りにしながら、ラヴィちゃんとおしゃべりをする。
誰かと一緒に料理をするなんて、本当に久しぶりだ。
懐かしいな……昔は私がラヴィちゃんの立場だったんだけど。
「じゃあこの"ダリア"さんっていうのは?」
「それはね~、私のお母さんの名前だよ。その踏み台は、私のお母さんが小さい頃におじいちゃん……お母さんのお父さんだね。その、おじいちゃんに作ってもらったものなんだ~それを私が貰ったの」
「へ、へぇ~……そ、そうなんですね」
お母さんの名前だと言った瞬間に、ラヴィちゃんがビクリと身体を硬くして、視線もキョロキョロとし始めた。
きっと私の家庭環境に気を使って、言葉を選んでいるのだろう。
ラヴィちゃんに比べたら大人ではあるけれど、まだ私だって胸を張って大人だとは言い難いような歳なのだ。
長屋を切り盛りするには、まだ不安が残るような歳で、一人で生活していることを、詮索して良いのか悩んでいるのかもしれない。
「え、えっと……も、物持ちがいいですね!」
「あはは、そうだね~。ラヴィちゃんでその踏み台を使う女の子は三代目になるね」
どうしようか迷ったあげく、当たり障り無い話題にしたらしい。
ほんとに、子供らしくない気の使い方をする女の子だ。
これは先輩さんの影響だろうか?
それとも、ロベリアにたどり着くまでの過酷な旅路のせい?
「あ、アクが出てきましたよ、これを取れば良いんですよね!」
そう言って、鍋の中のアクをすくい始めたラヴィちゃん。
私としては、ラヴィちゃんくらいの女の子には、もう少し子供らしくあって欲しいなんて思ってしまうけど、きっとそれが許されないような生活を送ってきたのだろうな。
この子はこの子で、きっと私では想像もできない様な苦労をしてきたに違いない……それでも、周囲には全くそんな素振りを見せないのだから、本当に出来た子だ。
きっと大きくなったら良い女になるだろう……シーナさんは果報者だね。
そんな事をぼーっと考えていた私は、じっとラヴィちゃんの顔をみつめていたらしい。
「ん? 僕の顔に何か付いてます?」
ラヴィちゃんは、そう言ってペタペタ顔を触って、何かゴミでも付いていないかどうか確認を始めた。
「ごめんごめん、なんでもないよ。今日は先輩さんのお仕事が終わる日だから、PTの人からお給料を貰って帰ってくるんだよ。ラヴィちゃん、何か欲しいモノを買って貰ったら?」
こんなにいい子にしているラヴィちゃんに、先輩さんは何かご褒美を買ってあげるべきだ。
そう思って話を振ってみたのだが、ラヴィちゃんはやはり大人びた対応だ。
「え~っと、先輩とも相談して、最初の給料は全部リコットさんに渡そうって決めてあるんですよ。それに、欲しいモノなんて特にないし……」
「そうなの? そんなの別にいつでもいいのに……」
「ダメですよ、そういうのはちゃんとしなきゃ! ここまで良くしてもらっておいて、お金を払わなかったら先輩はタダのヒモじゃないですか!」
僕はちゃんとお仕事のお手伝いをしてますけどね! そう言って小さな胸を張るラヴィちゃん。
あ~っもう! ホントに可愛くていい子だよぉ~こんな妹が欲しかった!
「そっかぁ~、じゃあ、先輩さんが探索者として稼げるようになったら、沢山買ってもらおうね♪」
「そうですね~、そのときはリコットさんも沢山買ってもらいましょうね」
そんなことを話しながら、ラヴィちゃんと一緒に料理する時間はとっても楽しかった。
あっという間に時間は過ぎて、あとは弱火でゆっくりと煮込むだけになったところで、いつも通りに先輩さんを迎えに出る時間になった。
「じゃあ、あとはお願いね。たまに中身をかき混ぜるくらいでいいから、薪の追加もしなくていいからね」
「はい、あとはこのラヴィちゃんに任せてください! 気を付けて行ってきてくださいね」
「うん、すぐ帰ってくるから、ちょっとだけ待っててね」
そう言って私はシーナさんを迎えに行くために家を出たのだった。
でも結局、二人で頑張って作ったその料理が、シーナさんの口に入ることは無かった。
この日、シーナさんは迷宮から帰ってこなかったのだから……。
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