あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第二章 迷宮都市ロベリア

071 魔術と魔法

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■椎名誠人 SIDE

「そうか……俺はオルガの穴に落ちちまったんだな」

 ジグガンドさんは落ちてきた場所から、上を見上げながらそう呟いた。

 焚火にくべた小枝が爆ぜ、パチパチと音を立てて火の粉を舞い上げる。
 チラチラと炎が揺れるたびに、俺とジグガンドさんの顔を赤く照らしていた。

 出口の穴は、その辺に生えていた木の葉や枝で塞いでいるので、外からは中の灯りは見えていないはずだ。

 しかし、密閉してはいないとはいえ、殆ど密室状態の樹洞の中で焚火をしているのだが、ここは煙がこもることもなく、空気が木の穴の上へ登り続けている。

 まるで、天然の空調設備みたいだ。
 そのおかげで、樹洞の中は快適な空間となっている。



 オルガの大穴を落ちてきた俺は、ジグガンドさんに回復魔法をかけたあと、とりあえずはその場から動けずにいた。

 オルガの大穴を落ちた先は、森の中の遺跡といった感じの場所で、ラノベやアニメでよくある、ダンジョンの中だけど外の様な場所なのか、実際に外なのかはまだわかっていない。

 しかし、ここのそらもダンジョンの外と同じように、時間が過ぎると陽が沈んで、ちゃんと夜になるようで、暗い中で見知らぬ場所を探索するわけにもいかず、とりあえずはジグガンドさんが目を覚ますのを待つことにしたのだ。

 空が夕暮れになったのを見た俺は、完全に暗くなる前に、木のウロの中に付近から薪を集めたりして、野営の準備をしていた。

 ジグガンドさんが目を覚ましたのは、日が暮れて焚火の火を起こし始めた頃で、今はひと通りの事のあらましを説明し終えた後だ。



「悪かったなシーナ、俺たちのミスに巻き込んじまったみたいで」
「いえ、俺が勝手にやったことですから、気にしないでください。それに多数決の最後の一票で、あのPTを助けに行くことを決めたのは俺ですからね」
「いいや、お前は新人なんだから、俺たちが面倒をみないといけなかったんだ。それなのに、俺の我侭の所為でPT壊滅の危機……挙句の果てに、オルガの大穴に落ちるなんてよぉ」

 ジグガンドさんは、焚火の火を見つめながら、盛大な溜息をついた。

「ま、まあまあ、なんだかんだありましたけど、こうしてみんな生きているわけですし。結果オーライってことで、ね?」
「そ、そうだ! マイアは、あいつは無事なのか!?」

 そう言って俺に詰め寄ってくるジグガンドさん。
 焚火を挟んで向き合っていた所為で、蹴飛ばされた燃えさしが盛大に跳ね上がった。

「あぁっ、熱いぃっ! お、落ち着いてください!」
「おぉわっ、す、すまねぇ……」

 俺は急いで服の上に撥ねてきた火の粉を払い落した。

 ふぅ、どうやら火傷にはなってないようだ。
 いや、どうなんだ? LvMaxなのに、この程度で火傷になるのか?
 ま、まぁ、もう一度火の粉を浴びて確かめる気にはならないけど……。

「お、おいシーナ! どうなんだよ? マイアは無事なのか?」

 火傷の確認をしていた俺に、ジグガンドさんが問い詰めてくる。
 まったく……気持ちはわかるが、もうちょっと落ち着いて欲しい。

「大丈夫だと思いますよ。オークに振り回されたせいで、多少気分が悪くはなってるみたいでしたけど、大きな怪我はありませんでしたからね。それに念のため俺が穴に落ちる前に、回復魔法を全員にかけてきましたから」
「そ、そうか……良かった」
「マイアさん以外の皆さんも無事ですよ。ラウニさんも魔法の使い過ぎで、少し辛そうにはしてましたけど、マジックポーションを何本か渡してきましたから。帰り道で魔力切れってことにはならないと思いますよ」

 立ち上がって、服に穴が開いてないかどうかを調べていた俺は、特に問題がないことが確認できたので、焚火の前の自分の椅子(拾ってきた大きめの木材)に腰を下ろした。

 そんな俺の様子を、ジグガンドさんは口を開けたままで、ぼーっと見ている。

「どうかしました?」

 俺が話しかけると、ハッと気が付いた様子で、こちらに話しかけてきた。

「い、いやな……改めて考えると、お前、結構とんでもないヤツだよな」
「な、なんですか? 急に……」
「いいか? お前は気付いていない様なんで教えてやるが、これは探索者をやるような人間の間では常識なんだぞ?」

 ジグガンドさんは、小枝を手で折りながら焚火にくべていたのだが、そのウチの手頃な一本を右手に持ち、棒の先を俺につきつけてきた。
 教師が使う差し棒の代わりだろうか? 「大事なことを言うからしっかりと聞け」ということだろう。

「まず最初に、お前がマイアに使った回復魔術……あれがすでにおかしい」
「え? 回復の魔法は結構メジャーなんじゃないんですか? ウチの長屋の大家さんだって使えるそうですよ?」

 俺はビックリして聞き返すが、ジグガンドさんは大きく息を吐き出した後、こちらを睨んできた。
 なんだろうか? 俺は変なことを言ったのだろうか?

「オークに足を掴まれた時点で、マイアは足が完璧に折れていた。だが、お前の魔術が発動したあと、すぐに元気にぎゃーぎゃー騒ぎ始めた。あんなに即効性のある回復魔術やポーションなんて、俺は知らねぇ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、とりあえず、そのへんの探索者には無理な芸当だな。ウチのクランは魔術師が特に多いってわけじゃあないが、それでもロベリアでは1,2を争う探索者クランなんだ。それでもウチの回復魔術師ヒーラーの中には、お前の回復魔術の半分の力すら、あるヤツはいねぇだろうな」
「…………」
「普通はもっとゆっくり回復するもんなんだよ、人間の回復力を促進するとかなんとか……ラウニも少しは使えるから、説明してもらったことがあるんだが……骨折なんてしたら2~3日、回復魔術を掛け続けないと治らねぇんだ」

 なんと……やはり、カンスト魔導士の魔法は異常だったらしい。
 比較的に地味な魔法を使ってたつもりなんだけどな……。

「メーヴ皇国の聖女さんなら、骨折くらいはすぐに治せるし、無くなった手足だって生えてくる~なんて噂だが……正直、眉唾モンだな」
「そうですか……」

 思ったよりも、俺の回復魔法はチートだった模様だ。

 しかし、聖女か……やっぱりいるんだな。
 メーヴ皇国はエルフが統治する国らしいが、人間も沢山住んでいるそうだ。
 聖女さんは人間とエルフ、どっちなんだろうか?
 機会があれば、行ってみたいものだ。

「それに、あのオークを拘束した光の鎖……あんなはっきりとした物質を作り出す魔術なんて、俺は聞いた事すらない。普通は魔術で作るのは、火の玉や風の刃、良くても氷や石の槍ってところだな……あんなに細かくてちゃんとした形を魔術で再現するなんて、魔力と精神力の無駄だ。生死をかけた場所で戦う探索者は、絶対にそんな馬鹿なことやらねぇ」

 ジグガンドさんは、お前の魔法は異常だと、はっきりとそう言い切った。

「大道芸人や研究者みたいな奴等なら、もしかしたらそういう技術の開発もやってるかもしれねぇが、そういうのは詳しくねえからわからねぇな」
「はぁ、そうですか……」

 どうやら俺の魔法は、見た目も効果も異常らしい。
 気軽に魔法を使って回る気は元々なかったけど、今後はもっと使用に注意をしなければならないみたいだな。

「あと、これが一番大きな違いかもしれねぇんだが……」

 まだあるのかよ……溜息をつきたい気持ちをぐっと抑えて、ジグガンドさんに話の先をうながす。

「なんでしょうか?」
「お前はずっと"魔法"って言葉を使ってるけど……普通の魔術師は自分の魔術を"魔法"なんて大それた言い方はしないもんだ」
「え……?」
「俺も細かい括りはわからねぇんだけどよ、魔法ってのは普通、迷宮の転移魔法陣みたいなスゲェもののことを指して使う言葉なはずだぜ? まぁ、たまに周りの奴らが魔術師を持ち上げるのに使ったり、自分を大きく見せるために使ったりする場合もあるんだが……」
「つまり?」
「つまり、魔法が使えるって言いふらすようなヤツは、どこの大魔導士様だよ!って突っ込まれてもしょうがないってことだな。まぁ、お前の場合はそう言っていい実力があるんだろうけど、目立ちたくないんだったら、止めておくんだな」

 なんと、まだ探索者見習いのポーターの分際で、自分は大魔導士だとアピールをしていたらしい。
 これでは、きっと俺は周りからアホの子だと思われていたに違いない……。

「あ、あははは……以後気を付けます……マジで」



 樹洞内には、焚火の枝が爆ぜる音と、俺の乾いた笑い声た響いていた。
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