The Doomsday

Sagami

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Ox Head

15:逢魔6

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嘗てそこには小さな町があった、女は土煙の中静かに立っていた。
英雄の放った雷は化け物を貫き、肉の焦げる異臭が辺りに漂っている。
「もう少し、調整は効かなかったのですか」
大きくため息を付く、気が抜けたせいか全身に痛みが走る。
ちょっと・・・いや大分、無茶をしすぎた
自身の体を客観的に観察する。骨折数箇所、打ち身無数、痕になるだろう傷もちらほらと、今は亡き幼な馴染みが見たらまた怒られそうだ、どこか他人事のように苦笑する。
視界の片隅に動く影、少女達が憧れた英雄の姿がある。
「無茶を言うな、この何年かただの農家やってたんだぞ」
片腕の男はそう言って、笑みを浮かべた。


「綺麗」
レフィは思わず呟いていた、純粋な力の奔流、万物を貫く雷が目の前を通り過ぎていった。少女の唯一の従者は、化け物と共に少女の目の前で雷に呑まれた。父に連れられて初めて訪れた戦場、母が繰り出した雷の雨を思い出す。
「シロウ」
肉の焦げる臭い、崩れ落ちる化け物。従者の名前を叫ぶ。辺りを包む土煙の中、焼け爛れた皮膚、半分吹き飛んだ頭が一瞬見える。駆け寄ろうとした足が一瞬止まる。カチカチという音が聞こえる、振るて鳴る自身の奥歯の音、それが自身によるものだと気づくのに一瞬の間があった。凄惨なその姿に怯えたのだろうか、自問し否定する。

シロウは生きている

足音が聞こえる、土煙の中こちらに向かって足音が近づいてくる。

シロウが生きている

頭を半分吹き飛ばされて生きている、頼もしい従者がこちらに近づいてくる。

何故、シロウは生きている

根本的に自身と違う生き物、違うことわりの中に在るモノ

「レフィ、申し訳ない。折角貰った服だが駄目にしてしまった」
上半身裸になった従者が、本当に申し訳なさそうに言う。噛み砕けるのではないかと思うほど奥歯を強く噛み締め震えを止める。
「まったくだ、下賜したものはもうちょっと大事に使って欲しいところだな」
目の前で従者が血にまみれた頭を申し訳なさそうに掻いている、血の痕はあるものの傷口は既に塞がっている。果たして私の声は震えていなかっただろうか。
「ところで、頭を吹き飛ばされて大丈夫なものなのか」
どこか場違いな気もしたが、思わず口に出た。
「生き物だからな、死ぬこともある。あとは・・・記憶が飛ぶこともある」
真面目な顔で、どこか惚けた答えが返ってきた。
「なら、もう少し体を大事にしろ」
レフィの声に、従者は困ったような表情を浮かべた。


「まったく、世の中化け物ばかりだ」
雷の余波で吹き飛ばされた先でハヌは呟く、口の中一杯に鉄の味が広がっている。胸元を見ると、木の枝が体を貫いているのが見える。
「ありゃ・・・これはもう無理だな」
どこか他人事のようにその光景を見る、右腕に力を入れ引き抜こうとするも力が入らない。
「血を流しすぎたかな」
視界に映る右手は血に塗れ、既に人狼の姿から人の腕に戻っている。
「大丈夫・・・ではなさそうだな」
痩せた男が横に立つ、その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。
「そんな顔をしてくれるな。らしくないことをしたツケだよ」
精一杯の強がりで笑みを浮かべる。
「エイダが悲しむな」
行動を共にしている物好きな人間の女、間接的にエイダが俺を殺したともいえる。
「あんな化け物と戦えば、まっとうな生き物は死ぬしかないだろ」
諦めにも似た呟き、気づくとゼスも傍に立っている。
「止め」
友の慈悲に首を振る。どうせ助からない命ならやるべきことがある。
「止めはいい、やることがあるからな。ただ、途中までは肩を貸してくれ」
両側から友たちに肩を支えられ、町の跡から離れていく。1度だけ、痛む体を動かして土煙の方を振り返る。土煙の彼方にエイダの姿が一瞬見えた。
「拝み倒してでも1口ぐらい、齧らせてもらうんだったか」
ハヌの言葉に、痩せた男とゼスが苦笑を浮かべた。


「生き物だからな、死ぬこともある。あとは・・・記憶が飛ぶこともある」
自分で言っておいて、他人事のようだな。そう思う。父と兄曰く、自分は20年前死にかけたらしい、正直その記憶はない。
「シロ、お前よく生きてたよな」
畳の上、白い布団に血に染まった包帯。見下ろす父と兄の視線。障子に空いた穴から覗き込む1対の瞳。双凪市を中心とした大きな争い、それに自分は参加し、完膚なきまでに負けたらしい。
「生きてれば十分だ」
その時、兄はそういって力いっぱい後頭部を殴ってきた。文句を言う自分に、父は笑みを浮かべていた。『丈夫なだけのただの人間』である自分は中々死なない、けれども脳をやられれば記憶そのものが吹き飛ぶことはある。

「もしかすると、今回も大切なことを忘れてしまっている可能性もあるのか」

誰に対してなく呟き、首を振る。仮にあったとしても、それは既に失われたものだ。

「失ったものはどうやっても還らない」

暗い瞳の男が告げた真実、記憶に無い男の幻影を振り払い、レフィとともに男の方へと歩みを進めてゆく。


隻腕の英雄は、残った片手で透明の石を弄んでいる。ほんの数刻前淡く色づいていたその石は透明になり、溜め込んでいた力は残滓すら残っていない。
「英雄殿」
聞きなれた単語、レフィーア公女が従者とともに駆けて来る。俺には立ち上がる気力も体力も既に無い、片腕を上げて答える。手から石が転げ落ち、エイダがそれを拾い上げる。
「助勢感謝する。先の村での事といいシロウには助けてもらってばかりだな」
伸ばされたシロウの手をとり立ち上がる。あのタイミングでよく避けてくれた、正直なところ頭に血が上って、巻き込んでしまったのではないかと思っていた。
「気にする必要は無い。今回は主人の命だ」
視線を向けられた公女はどこか罰が悪そうに見える。
「私は何の役にも立てなかった。申し訳ない」
深々と頭を下げる公女の姿、神殿仕えのときに関わった気位だけの高い貴族達に見せてやりたいところだ。
「従者の功は、主人の功ではないのか」
しれっというシロウの言葉に、公女の方が目を白黒させている。不思議な主従だ。
「シロウの言葉じゃないが、気にする事は無い。これは私闘だからな」
嘗て、石碑のあった方角を見る。そこには深い穴が開いていた。エイダが穴を見下ろしている。痛む体を引きずって、横から穴を見下ろす。
「どうやらこれは、ただの穴ではないようですね」
公女の言葉に頷く、嘗ての石碑の真下に伸びる穴、穴は石造りの壁に覆われており壁には無数の文様が刻まれている。
「これは昔は井戸でした」
エイダの言葉、その顔に表情は無い。
「お父さん、貴方はここで何を」
エイダの呟きに答えるものはいなかった。


ハミルはまどろみの中、その音を聞いた。窓の外が一瞬光り、何かが終わった。
「終わった、みたいですね」
神官長はハミルの手を優しく握ったまま、穏やかな声で告げる。暖かい力が手を通じて流れ込んでくるのが分かる。逆光のせいかその表情はハミルからは見えない。
「貴方のお師匠様が勝たれたようですよ」
口元に薄っすらと浮かんだ笑みだけが見える、神官長の癒しの力のおかげか全身の痛みは少し治まっている。

何と戦っていたのか

その問いは口元まで出掛かって消える。嫌な予感がした。何の根拠もなく、ただの予感。神官長はその様子を見て、笑みを深めてゆく。
「いつか、訊きたくなったら訊きにきてくださいね」
その言葉を最後に、ハミルの意識はゆっくりと止みの中に落ちていった。

「『私達は罪を犯します』、それは誰の言葉だったのでしょうね」

ハミルの頬を流れる液体を手で掬い、神官長は自嘲した。英雄達が小屋に戻ってきた時、1人寝息を立てるハミルの姿だけがあった。
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