蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第3話

守護という名の囲い込み

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治療院での生活は、想像していたよりも静かだった。

白い石造りの建物は外界からへだてられているようで、窓の外には手入れされた中庭と、穏やかな空が広がっている。
異世界だという実感はあるのに、どこか現実感が追いつかない。

だが、ひとつだけ――
はっきりと現実を突きつけてくる存在がいた。

「水だ。」

差し出されたさかずきを見て、レオは一瞬だけ躊躇ちゅうちょする。
受け取ろうと手を伸ばすと、その動きに合わせるように、カイルの指が自然に重なった。

近い。
距離が、どう考えてもおかしい。

「……自分で持てます。」

そう言うと、カイルは少しだけ眉を寄せた。

「まだ本調子ではない。」

「もう歩けますし。」

「倒れたら意味がない。」

淡々とした口調だが、譲る気配は一切ない。
結局、さかずきは彼の手から離れず、レオは飲ませてもらう形になった。

恥ずかしさで視線を逸らす。
だが、カイルは気にした様子もなく、じっとこちらを見つめている。

「……そんなに見られると…」

「異常がないか確認している。」

「それ、必要以上じゃないですか?」

一瞬の沈黙。
カイルは言葉を探すように、わずかに視線を伏せた。

「刻印が安定するまでは、過剰なくらいでちょうどいい。」

刻印。
そう言われると、何も言い返せなくなる。

実際、胸元に浮かぶ蒼い印は、時折、熱を帯びるように脈打つ。
そのたびに、カイルの視線が鋭くなるのだ。

「……俺、外に出ちゃダメですか?」

中庭を眺めながら、ぽつりと呟く。

「出られる。」

すぐに返事が来た。

「ただし…」

嫌な予感がした。

「俺が同行する。」

やっぱり。

「1人で散歩くらい……」

「不可だ。」

即答だった。

「刻印持ちは狙われる。それに――」

一歩、距離が詰まる。
影が重なり、逃げ場がなくなる。

「お前が視界にいないと、落ち着かない。」

その言葉は、あまりに率直そっちょくだった。

使命だから、責任だから。
そういう理由を想定していたレオは、拍子抜ひょうしぬけする。

「……それ、騎士としてですか?」

問いかけると、カイルは少しだけ考え込むように沈黙した。

「今は、そうだ。」

だが、その“今は”が、妙に引っかかる。

中庭へ出ると、柔らかな風が吹いた。
石畳の上を歩くたび、よろいの音が静かに鳴る。

半歩後ろ。
どこへ行っても、カイルはその位置を崩さない。

「本当に、逃がす気ないですよね。」

冗談めかして言ったつもりだった。

だが、返ってきた声は低く、真剣だった。

「逃がす理由がない。」

その蒼い瞳が、まっすぐに射抜いぬいてくる。

「お前は、俺が守ると決めた。」

胸の奥が、ざわりと揺れた。
それは恐怖ではなく――
もっと別の、熱を伴う感情。

この人は、優しい。
でも同時に、とても危険だ。

守護しゅごという名の囲い込み。
その内側に、自分はもう半分、足を踏み入れている。

そう自覚した瞬間、レオの心臓は、やけに速く脈打っていた。
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