12 / 51
第11話
惹かれ合う理由は、名付ける前から
しおりを挟む
それは、誓約を結ぶよりもずっと前のことだった。
まだ「契り」も、「刻印の暴走」もない頃。
レオがこの世界で目覚めてから、数か月が過ぎた頃の記憶。
騎士団の訓練場の片隅で、レオは剣を握りしめていた。
剣術など、前世では触れたこともない。
動きは鈍く、重心も定まらない。
「……そこだ。力を抜け。」
背後から飛んできた低い声に、思わず肩が跳ねる。
「握りすぎだ。剣は、敵を斬る前に、持ち主を裏切る。」
振り向くと、カイルが立っていた。
鎧は着ていない。訓練用の軽装。
それだけで、場の空気が引き締まる。
「す、すみません。」
反射的に謝ると、カイルは首を振った。
「謝る必要はない。」
そう言って、レオの背後に回り、そっと手首に触れた。
「こうだ。」
距離が、近い。
男同士だから、意識する理由などないはずだった。
――なのに。
呼吸が、乱れた。
(……なんでだ…)
カイルの手は大きく、硬い。
だが、動きは驚くほど丁寧だった。
「恐怖が先に立つと、剣は振れない。」
「……怖いの、分かるんですか?」
ぽつりと零すと、カイルは少しだけ間を置いた。
「分かる。」
短い答え。
「俺も、最初はそうだった」
その言葉に、胸の奥が不思議と軽くなる。
(この人も、怖かったんだ…)
強い騎士。
完璧な守護者。
そう思っていた存在が、同じ場所を通ってきたと知った瞬間。
距離が、静かに縮んだ。
それから、2人は言葉を交わすようになった。
訓練の合間。
夜警の休憩。
他愛ない話――この世界の常識、レオの元いた世界の話。
「男同士で、手を繋ぐのは普通じゃないのか?」
ある夜、唐突に聞かれた。
「え?」
「お前の世界では、どうだった?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……まあ、普通ではないですね」
「嫌悪される?」
正直な問い。
「人によります…」
レオは、少し考えてから答えた。
「でも……好きなら、いいんじゃないかって思う人も、いました…」
カイルは黙り込んだ。
しばらくして、ぽつりと言う。
「この世界でも、珍しい。だが、禁じられてはいない」
「……そうなんですね…」
それだけの会話だった。
それ以上、踏み込むことはなかった。
それでも。
夜回りの途中、並んで歩く距離が自然と近くなった。
肩が触れても、離れなかった。
触れていない時間のほうが、落ち着かなくなっていった。
恋、という言葉を使う前から。
欲望、という自覚を持つ前から。
ただ――
「この人の隣が、落ち着く…」
それだけが、確かだった。
ある夜、レオは熱に浮かされて倒れた。
目を覚ましたとき、見えたのは蒼い瞳。
「……カイル?」
「動くな。」
額に、ひんやりとした手。
「お前が弱ると、胸がざわつく。」
それは、騎士の義務でも、刻印の命令でもない。
「理由は、分からない…」
正直な声。
「だが……放っておけない。」
その瞬間、レオは悟った。
――ああ、この人も同じだ。
男だから。
同性愛だから。
そんな理由は、後付けだった。
名前を持たない感情が、先にあった。
それを否定しなかったから、ここまで来ただけだ。
誓約を結んだ今なら、はっきり分かる。
レオとカイルは、
「同性愛になった」のではない。
ただ、
互いを選んだ相手が、たまたま同じ性別だっただけなのだ。
そして、それは――
最初から、変えようのない必然だった。
まだ「契り」も、「刻印の暴走」もない頃。
レオがこの世界で目覚めてから、数か月が過ぎた頃の記憶。
騎士団の訓練場の片隅で、レオは剣を握りしめていた。
剣術など、前世では触れたこともない。
動きは鈍く、重心も定まらない。
「……そこだ。力を抜け。」
背後から飛んできた低い声に、思わず肩が跳ねる。
「握りすぎだ。剣は、敵を斬る前に、持ち主を裏切る。」
振り向くと、カイルが立っていた。
鎧は着ていない。訓練用の軽装。
それだけで、場の空気が引き締まる。
「す、すみません。」
反射的に謝ると、カイルは首を振った。
「謝る必要はない。」
そう言って、レオの背後に回り、そっと手首に触れた。
「こうだ。」
距離が、近い。
男同士だから、意識する理由などないはずだった。
――なのに。
呼吸が、乱れた。
(……なんでだ…)
カイルの手は大きく、硬い。
だが、動きは驚くほど丁寧だった。
「恐怖が先に立つと、剣は振れない。」
「……怖いの、分かるんですか?」
ぽつりと零すと、カイルは少しだけ間を置いた。
「分かる。」
短い答え。
「俺も、最初はそうだった」
その言葉に、胸の奥が不思議と軽くなる。
(この人も、怖かったんだ…)
強い騎士。
完璧な守護者。
そう思っていた存在が、同じ場所を通ってきたと知った瞬間。
距離が、静かに縮んだ。
それから、2人は言葉を交わすようになった。
訓練の合間。
夜警の休憩。
他愛ない話――この世界の常識、レオの元いた世界の話。
「男同士で、手を繋ぐのは普通じゃないのか?」
ある夜、唐突に聞かれた。
「え?」
「お前の世界では、どうだった?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……まあ、普通ではないですね」
「嫌悪される?」
正直な問い。
「人によります…」
レオは、少し考えてから答えた。
「でも……好きなら、いいんじゃないかって思う人も、いました…」
カイルは黙り込んだ。
しばらくして、ぽつりと言う。
「この世界でも、珍しい。だが、禁じられてはいない」
「……そうなんですね…」
それだけの会話だった。
それ以上、踏み込むことはなかった。
それでも。
夜回りの途中、並んで歩く距離が自然と近くなった。
肩が触れても、離れなかった。
触れていない時間のほうが、落ち着かなくなっていった。
恋、という言葉を使う前から。
欲望、という自覚を持つ前から。
ただ――
「この人の隣が、落ち着く…」
それだけが、確かだった。
ある夜、レオは熱に浮かされて倒れた。
目を覚ましたとき、見えたのは蒼い瞳。
「……カイル?」
「動くな。」
額に、ひんやりとした手。
「お前が弱ると、胸がざわつく。」
それは、騎士の義務でも、刻印の命令でもない。
「理由は、分からない…」
正直な声。
「だが……放っておけない。」
その瞬間、レオは悟った。
――ああ、この人も同じだ。
男だから。
同性愛だから。
そんな理由は、後付けだった。
名前を持たない感情が、先にあった。
それを否定しなかったから、ここまで来ただけだ。
誓約を結んだ今なら、はっきり分かる。
レオとカイルは、
「同性愛になった」のではない。
ただ、
互いを選んだ相手が、たまたま同じ性別だっただけなのだ。
そして、それは――
最初から、変えようのない必然だった。
11
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる