蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第21話

地下にて、誓約は沈黙しない

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石の階段は、冷たく、長かった。

1段降りるごとに、地上の気配が薄れていく。
光は減り、空気は重く、湿り気を帯びる。

――王城地下拘束区画。

カイルは、無言のまま歩かされていた。
両腕には魔術抑制の腕輪。
足取りは自由だが、魔力の流れは明確に封じられている。

(……随分と、念入りだ)

だが、苛立ちはなかった。

それよりも――
胸の奥に残る、あの感覚。

引き裂かれる直前。
レオの刻印が悲鳴を上げた、あの瞬間。

(……無事だろうか)

距離ができたことで、誓約の共鳴は弱まっている。
だが、消えてはいない。

確かに、そこにある。

「……入れ」

鉄扉が開き、狭い石室が現れる。

寝台1つ。
机1つ。
小さな明かり。

牢というより、隔離室だ。

「外部との接触は禁止だ。誓約相手との魔術的通信も、遮断している。」

近衛騎士の声。

(……遮断、だと?)

一瞬、胸がざわつく。

だが、すぐに理解した。

――遮断“できると思っている”だけだ。

誓約は、通信ではない。
存在の結びつきだ。

「……好きにしろ。」

カイルは、それだけ答えた。

鉄扉が閉まり、重い音が地下に響く。

1人。

完全な静寂。

カイルは、寝台に腰を下ろし、静かに息を吐いた。

(……まずいな)

自嘲気味に思う。

自分が捕らえられること自体は、想定内だった。
だが――

レオを1人にしたこと。

それだけが、計算違いだった。

(……怖がっているだろう)

あの性格だ。
平然とした顔で送り出したが、内側では不安を溜め込む。

そして――
放っておかない。

誓約を結んでから、それは何度も思い知らされている。

「……無茶をするな。」

誰にともなく、呟く。

その瞬間。

胸の奥が、微かに熱を持った。

(……?)

一瞬の、しかし確かな反応。

距離がある。
魔術も封じられている。

それでも――
誓約が、応えた。

(……まだ、繋がっている)

確信が、静かに胸に広がる。

その事実だけで、呼吸が整った。

「……大したものだ。」

誰にも聞かれない笑みが、零れる。

拘束され、武器を奪われ、政治の渦中に放り込まれても。

誓約だけは、奪われていない。

――それで、十分だ。

しばらくして、足音が近づく。

扉が開き、1人の男が入ってきた。

見覚えがある。

聖庁の“誓約補佐官”、エリオ。

「失礼する。」

穏やかな口調。

「面会許可が下りた。」

「……随分と都合がいいな。」

カイルは、立ち上がらずに答える。

「君がいる限り、誓約相手に直接接触できないのでね。」

エリオは、気にした様子もなく微笑んだ。

「安心してほしい。今日は“交渉”だ。」

「誓約を、解消しろと言いに来たか?」

「いいや。」

エリオは、首を振った。

「解消は不可能だ。」

「それは、我々も理解している。」

(……ほう)

「だから――」

1歩、近づく。

「“管理”する。」

「誓約は、力だ。」

「君のそれは、強すぎる。」

「騎士団長が私的に保持するには、国家的リスクが高い。」

カイルは、鼻で笑った。

「要するに、俺を無力化し、誓約を国家の管理下に置きたい。」

「端的に言えば、そうだ。」

エリオは、否定しない。

「君が罪を被れば、誓約相手は“保護”という名目で引き取れる。」

「……それは」

低く、危険な声音。

「脅しか?」

「忠告だ。」

「誓約相手は、転生者だ。この世界の常識に、
完全に適応しているとは言い難い。」

「孤立すれば――選択を誤る可能性もある。」

その瞬間。

胸の奥で、誓約が、強く反発した。

(……黙れ)

感情が、明確な形を持つ。

怒りではない。
拒絶だ。

「……それ以上、言うな。」

カイルは、ゆっくりと立ち上がった。

「誓約相手を、侮辱するな。彼は、誰かに従って選ぶ人間じゃない。俺が誓約したのは――」

1歩、距離を詰める。

「そういう“強さ”だ。」

エリオは、一瞬だけ目を細めた。

「……やはり…君は、分かっていない。この誓約は、世界にとって“異物”だ。排除される。それでも?」

カイルは、即答した。

「構わない。世界が誓約を拒むなら、俺は世界を拒む。」

静かな言葉。

だが、そこに迷いはない。

エリオは、しばらく沈黙し、
やがて深く息を吐いた。

「……ならば、誓約相手が動く前に、こちらが動くしかない。」

そう言い残し、踵を返す。

扉が閉まる。

再び、静寂。

だが、今度は違った。

(……来るな)

胸の刻印が、はっきりと告げている。

レオが、動こうとしている。

「……頼む」

カイルは、壁に手をついた。

「無茶は、するな。だが――」

目を閉じる。

「信じている。」

誓約は、沈黙しない。

距離も、拘束も、政治も、神も。

――それらすべてより、この繋がりのほうが、深い。

地下にいながら、カイルは確信していた。

この誓約は、必ず、奪還される。

そして、その時。

守られるのは、
自分のほうになるだろう、と。
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