蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第23話

世界が、それを奇跡と呼ぶ夜

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鐘の音が、王城全体に鳴り響いていた。

低く、重く、止まらない。
非常事態を告げる音。

「……想像以上に早いな。」

カイルが、短く呟く。

地下通路を抜け、2人は城の内壁沿いを進んでいた。
警備兵の足音が、複数、反響している。

包囲は、確実に狭まっている。

「右だ。」

レオが、迷いなく言った。

「階段を上がった先、礼拝堂の裏に抜けられます。」

カイルが、一瞬だけこちらを見る。

「……見取り図は?」

「見てません。」

即答。

「誓約が、そう言ってます。」

一拍の沈黙。

そして、低い笑い。

「……信じる。」

2人は、同時に動いた。

階段を駆け上がる途中、前方から近衛騎士が現れる。

「止まれ!」

剣が抜かれる。

その瞬間、レオの胸の刻印が、はっきりと光った。

(……今だ)

「通してください。」

静かな声。

だが、その言葉には、拒絶できない力があった。

近衛騎士の動きが、一瞬、止まる。

(……え?)

彼自身も理解できていない。

剣を握る手が、下がる。

「……どう、して…」

答えは、ない。

誓約は、命令ではない。
洗脳でも、支配でもない。

――“選択を促した”だけだ。

「感謝します。」

レオは、一礼する。

2人は、走り抜けた。

礼拝堂に出ると、高い天井とステンドグラスが目に入る。

月明かりが、色とりどりの光を落としていた。

だが、その中央に。

――待っていた。

聖庁の司祭団。
そして、王権側の重臣。

逃げ道を塞ぐ、完璧な布陣。

「……ここまでか…」

カイルが、低く言う。

剣を抜く気配。

だが、レオは、首を振った。

「いいえ。」

1歩、前に出る。

「ここが、終点です」

司祭の1人が、声を張り上げる。

「誓約者レオ!」

「国家反逆の罪で――」

「違います。」

レオは、遮った。

「逃げていません。」

静かな声なのに、礼拝堂全体に、はっきりと響いた。

「俺たちは…」

カイルの手を、握る。

「選んで、出て行くだけです。」

ざわめき。

「選択?」

重臣が、嘲るように言う。

「王命を拒み、拘束を破り、それを“選択”と呼ぶか?」

「はい。」

迷いなく、答える。

「誓約は、国家の所有物じゃない。」

「神殿の管理対象でもない。」

「俺たちが、一緒に生きると決めた関係です。」

その瞬間。

刻印が、これまでで最大に輝いた。

蒼い光が、2人を包む。

床に、円環のような光が広がる。

(……これは)

カイルが、息を呑む。

「……完全顕現」

誓約が、“現象”として世界に現れた。

司祭たちが、後ずさる。

「ば……馬鹿な…」

「こんな規模の顕現は、神代でも――」

「神のものじゃない。」

レオは、はっきりと言った。

「俺たちのです。」

光が、天井へ伸びる。

ステンドグラスが、音もなく割れ、夜空が露わになる。

だが、破壊ではない。

破片は、宙で止まり、光に溶けるように消えていく。

(……守ってる)

レオは、理解した。

この誓約は、壊すための力じゃない。

通すための力だ。

「下がれ!」

司祭が叫ぶ。

「これ以上、刺激するな!」

だが、もう遅い。

光の道が、礼拝堂の中央から、夜空へと伸びた。

まるで、世界が“出口”を用意したかのように。

「……行け、レオ。」

カイルが、低く言う。

「後ろは、俺が――」

「一緒です。」

レオは、握った手を離さない。

「誓約、ですから。」

一瞬、カイルの表情が崩れた。

それから、はっきりと頷く。

「……そうだったな。」

2人は、光の道を踏み出す。

誰も、追えなかった。

剣も、魔術も、触れることすらできない。

誓約が、拒絶している。

夜風が、頬を打つ。

王城の外壁を越え、
2人は空へと出た。

足元には、王都の灯り。
遠くで、鐘の音が止まる。

「……見て。」

レオが、息を呑む。

空に、誓約の紋が浮かんでいた。

一瞬だけ。
だが、確かに。

世界が、目撃した。

国家よりも、神殿よりも、強い選択を。

「……これで」

カイルが、静かに言う。

「もう、戻れない。」

「戻りません。」

レオは、即答した。

「ここが、始まりです。」

2人は、夜の向こうへ進む。

追われる者ではない。

逃亡者でもない。

選び続ける者として。

その夜、王城は知ることになる。

誓約は、鎖ではなく。

世界を越える、奇跡そのものだということを。
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