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第31話
北へ向かう誓約
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王城を発ったのは、3日後の朝だった。
正式な任命を受けたとはいえ、行動の自由は完全ではない。
国家協力者――それは、客でもあり、同時に観測対象でもある。
それでも。
「……旅、ですね。」
王都の城門を抜けながら、レオが言った。
背中には、軽装の荷。
剣は持たない。
だが、隣にいる騎士は違う。
「遠征だ。」
カイルは短く答えた。
鎧は最小限だが、剣はいつも通り腰にある。
その姿は、王城を出たときと同じで――
そして、少し違っていた。
「怖いか?」
不意に問われる。
レオは、少し考えた。
「……前は、怖かったです。」
正直に答える。
「追われてるときは、どこに行っても敵がいる気がして…」
刻印が、穏やかに脈打つ。
「でも、今は違う。」
カイルを見る。
「一緒に“向かってる”感じです。」
逃げるのではなく、進む。
その違いは、大きかった。
カイルは、わずかに目を細めた。
「……そうだな。」
馬車は使わない。
今回は、騎士団の小規模な先遣隊と共に移動する。
ただし、距離は取られている。
監視ではない。
だが、完全な自由でもない。
「北境までは、約10日。」
カイルが言う。
「途中で補給を挟む。」
「遠いですね…」
「ああ…」
短い返答。
だが、その声に緊張はない。
王城を出た直後とは、違う。
(……変わった)
レオは、ふと気づく。
誓約は、変わっていない。
だが、その“在り方”が変わった。
前は…守られるためのものだった。
今は…
「……使うためのもの、なんですね。」
小さく呟く。
カイルが、視線だけで問う。
「誓約。」
レオは続ける。
「俺たちのためだけじゃなくて、世界のためにも…」
沈黙。
やがて、カイルは言った。
「それでも…」
低く、はっきりと。
「優先順位は変わらない。」
「え?」
「誓約は…」
レオを見る。
「世界のためにあるのではない。俺たちが選んだ結果として、世界に影響するだけだ。」
その言葉に、胸が静かに温かくなる。
刻印が、小さく光った。
(……そうだ)
これは、義務じゃない。
選択だ。
昼を過ぎ、街道を外れた森へ入る。
北へ進むほど、空気が変わる。
冷たい。
乾いている。
そして。
「……感じるか?」
カイルが言う。
「はい。」
レオも、頷く。
刻印が、微かに反応している。
警戒ではない。
“歪み”。
空間そのものが、不安定だ。
「まだ北境ではない。」
カイルは低く言う。
「だが、影響は始まっている。」
100年前に張られた結界。
それが、崩れ始めている。
完全に壊れれば…魔族領と、人間領の境界が消える。
戦争になる。
その可能性を、今、2人は止めに行こうとしている。
「……責任、重いですね。」
レオが苦笑する。
カイルは、即答した。
「背負うな。」
「え?」
「誓約は、責任で結ばれたものではない。だから…」
歩みを止める。
レオの肩に、手を置く。
「壊せなくても、お前の価値は変わらない。」
「……」
言葉が出ない。
(……この人は)
本当に。
誓約を、“力”として見ていない。
「……はい。」
それだけ答える。
刻印が、穏やかに共鳴する。
夕暮れ。
先遣隊が、野営の準備を始める。
焚き火が灯る。
その光を見ながら、レオは座っていた。
「……レオ。」
カイルが、隣に座る。
「疲れたか?」
「少し。」
正直に答える。
肉体ではなく、精神の疲れ。
だが、不思議と嫌ではない。
「……北境に着けば…」
カイルは、静かに言う。
「結界の中心へ向かう。そこが、最も不安定だ。」
「危険ですか?」
「ああ。」
迷いのない答え。
「だが…」
手が、そっと重なる。
「1人では行かない。」
レオは、少し笑った。
「当然です。」
刻印が、静かに光る。
焚き火の音。
夜の風。
逃げていた頃にはなかった、静かな時間。
だが。
北の空は、暗かった。
星の間に、見えない“裂け目”があるような感覚。
誓約が、それを感じている。
(……待ってる)
何かが。
結界の向こうで。
そしてレオは、まだ知らない。
この遠征が――
誓約を、
“奇跡”から
“伝説”へ変える瞬間になることを。
正式な任命を受けたとはいえ、行動の自由は完全ではない。
国家協力者――それは、客でもあり、同時に観測対象でもある。
それでも。
「……旅、ですね。」
王都の城門を抜けながら、レオが言った。
背中には、軽装の荷。
剣は持たない。
だが、隣にいる騎士は違う。
「遠征だ。」
カイルは短く答えた。
鎧は最小限だが、剣はいつも通り腰にある。
その姿は、王城を出たときと同じで――
そして、少し違っていた。
「怖いか?」
不意に問われる。
レオは、少し考えた。
「……前は、怖かったです。」
正直に答える。
「追われてるときは、どこに行っても敵がいる気がして…」
刻印が、穏やかに脈打つ。
「でも、今は違う。」
カイルを見る。
「一緒に“向かってる”感じです。」
逃げるのではなく、進む。
その違いは、大きかった。
カイルは、わずかに目を細めた。
「……そうだな。」
馬車は使わない。
今回は、騎士団の小規模な先遣隊と共に移動する。
ただし、距離は取られている。
監視ではない。
だが、完全な自由でもない。
「北境までは、約10日。」
カイルが言う。
「途中で補給を挟む。」
「遠いですね…」
「ああ…」
短い返答。
だが、その声に緊張はない。
王城を出た直後とは、違う。
(……変わった)
レオは、ふと気づく。
誓約は、変わっていない。
だが、その“在り方”が変わった。
前は…守られるためのものだった。
今は…
「……使うためのもの、なんですね。」
小さく呟く。
カイルが、視線だけで問う。
「誓約。」
レオは続ける。
「俺たちのためだけじゃなくて、世界のためにも…」
沈黙。
やがて、カイルは言った。
「それでも…」
低く、はっきりと。
「優先順位は変わらない。」
「え?」
「誓約は…」
レオを見る。
「世界のためにあるのではない。俺たちが選んだ結果として、世界に影響するだけだ。」
その言葉に、胸が静かに温かくなる。
刻印が、小さく光った。
(……そうだ)
これは、義務じゃない。
選択だ。
昼を過ぎ、街道を外れた森へ入る。
北へ進むほど、空気が変わる。
冷たい。
乾いている。
そして。
「……感じるか?」
カイルが言う。
「はい。」
レオも、頷く。
刻印が、微かに反応している。
警戒ではない。
“歪み”。
空間そのものが、不安定だ。
「まだ北境ではない。」
カイルは低く言う。
「だが、影響は始まっている。」
100年前に張られた結界。
それが、崩れ始めている。
完全に壊れれば…魔族領と、人間領の境界が消える。
戦争になる。
その可能性を、今、2人は止めに行こうとしている。
「……責任、重いですね。」
レオが苦笑する。
カイルは、即答した。
「背負うな。」
「え?」
「誓約は、責任で結ばれたものではない。だから…」
歩みを止める。
レオの肩に、手を置く。
「壊せなくても、お前の価値は変わらない。」
「……」
言葉が出ない。
(……この人は)
本当に。
誓約を、“力”として見ていない。
「……はい。」
それだけ答える。
刻印が、穏やかに共鳴する。
夕暮れ。
先遣隊が、野営の準備を始める。
焚き火が灯る。
その光を見ながら、レオは座っていた。
「……レオ。」
カイルが、隣に座る。
「疲れたか?」
「少し。」
正直に答える。
肉体ではなく、精神の疲れ。
だが、不思議と嫌ではない。
「……北境に着けば…」
カイルは、静かに言う。
「結界の中心へ向かう。そこが、最も不安定だ。」
「危険ですか?」
「ああ。」
迷いのない答え。
「だが…」
手が、そっと重なる。
「1人では行かない。」
レオは、少し笑った。
「当然です。」
刻印が、静かに光る。
焚き火の音。
夜の風。
逃げていた頃にはなかった、静かな時間。
だが。
北の空は、暗かった。
星の間に、見えない“裂け目”があるような感覚。
誓約が、それを感じている。
(……待ってる)
何かが。
結界の向こうで。
そしてレオは、まだ知らない。
この遠征が――
誓約を、
“奇跡”から
“伝説”へ変える瞬間になることを。
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