蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第32話

結界の果てで、世界は歪む

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北境へ近づくにつれ、風が変わった。

冷たい。
ただ寒いのではなく、空気そのものが“薄い”。

「……ここから先だ。」

カイルが足を止めた。

森は途切れ、視界が開ける。
岩と土の荒野。
生命の気配が、極端に少ない。

先遣隊の騎士たちも、言葉を失っていた。

「これが……境界。」

誰かが、低く呟く。

レオは、1歩前へ出た。

その瞬間。

――ぞわり。

刻印が、これまでにない反応を示した。

「……っ」

思わず、胸を押さえる。

痛みではない。

拒絶。

「レオ。」

カイルが、すぐ隣に立つ。

「大丈夫か?」

「はい……でも…」

視線を上げる。

そこに、“それ”はあった。

何もない空間。

だが。

空気が、歪んでいる。

熱気のように揺らぎ、空間がわずかにずれて見える。

「……見えるか?」

カイルが問う。

「はい。」

レオは、はっきり答えた。

「何もないのに、何かある…」

それが、結界だった。

100年前。

人間と魔族の戦争を終わらせるため、大魔術師たちが築いた境界。

本来なら、完全に不可視。

だが今は。

“歪み”として露出している。

「劣化が、ここまでとは…」

先遣隊長が、険しい顔で言う。

「魔術団の報告より、深刻だ。」

カイルは、ゆっくりと結界へ近づいた。

レオも、隣に並ぶ。

1歩。

また1歩。

刻印の鼓動が、強くなる。

(……呼ばれてる)

拒絶と同時に、奇妙な“共鳴”がある。

「触れるな。」

カイルが低く言う。

「まだ、調査が――」

だが。

その瞬間。

結界が、微かに揺れた。

風もないのに。

空間が、波打つ。

「……反応した。」

先遣隊の騎士が、息を呑む。

レオは、ゆっくりと手を伸ばした。

「待て!」

カイルが制止する。

だが、刻印が――

(……大丈夫)

そう、伝えてくる。

指先が、歪みに触れた。

冷たい。

氷のような感触。

同時に。

――映像が、流れ込む。

「……っ!」

膝が、揺れる。

カイルが支える。

「レオ!」

「見える……」

レオは、息を荒げながら言う。

「戦争……」

荒野。
炎。
血。

そして。

巨大な影。

人ではない。
だが、完全な怪物でもない。

「……魔族。」

言葉が、自然に出た。

映像は、一瞬で消えた。

結界の歪みが、わずかに収まる。

「……今のは?」

カイルが、低く問う。

「記憶です。」

レオは答えた。

「結界に、残ってた…」

沈黙。

先遣隊が、ざわめく。

「記憶だと?」

「結界は、魔術構造体だ。」

「記録機能など――」

「あります。」

レオは、はっきり言った。

「誓約が、共鳴した。」

胸の刻印が、穏やかに光る。

「結界は、“封じる”だけじゃない。“覚えてる”。」

カイルは、歪みを見つめた。

「……なら、修復は可能か?」

レオは、少し考えた。

そして。

「……壊れてません。」

「え?」

「壊れてるんじゃない。」

視線を上げる。

「弱ってるだけです。」

その瞬間。

結界の奥で。

何かが、動いた。

「……っ!」

レオが、息を呑む。

歪みの向こう。

影。

「何かいる…」

カイルの剣が、抜かれる。

先遣隊も、構える。

歪みが、広がる。

そして。

――“それ”は、現れた。

完全な実体ではない。

半透明の影。

人型。

だが、目が――

光っている。

「後退!」

隊長が叫ぶ。

騎士たちが、1歩下がる。

だが、レオは動けなかった。

刻印が、激しく共鳴している。

(……敵じゃない)

影は、こちらを見ている。

攻撃しない。

ただ。

――観察している。

「……誓約者…」

声が、直接頭に響いた。

誰も、発していない。

だが、確かに聞こえる。

「……誰だ?」

カイルが、低く問う。

影が、答える。

「境界の、残滓ざんし…」

「守る者」

100年前の結界。

その一部が、意識を保っている。

「……なぜ、現れた?」

カイルが問う。

影は、レオを見る。

「共鳴。誓約が、境界に触れた。ゆえに…応答した。」

刻印が、強く光る。

レオは、理解した。

この結界は、死んでいない。

まだ、生きている。

「……修復できますか?」

レオが、静かに問う。

影は、答える。

「可能。だが…」

空気が、重くなる。

「代償が必要。」

カイルの瞳が、鋭くなる。

「何だ。」

影は、静かに言った。

「誓約の、真価…」

その言葉が。

北境の空に、重く落ちた。
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