蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第33話

誓約の真価

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境界の残滓ざんしは、静かにそこに立っていた。

半透明の輪郭。
空間の歪みに重なり、存在しているのか、していないのか曖昧な影。

だが、その視線だけは、確かにレオへ向けられていた。

「代償が必要。」

その言葉が、まだ胸に残っている。

「……何を、要求する?」

カイルが、低く問う。

影は、すぐには答えなかった。

代わりに、結界の歪みが広がる。

空間が、裂け目のように揺れる。

そして――

レオの刻印が、激しく反応した。

「……っ」

膝が、わずかに揺れる。

「レオ!」

カイルの手が、肩を支える。

「大丈夫です。」

そう答えるが、呼吸が浅い。

これは、魔術ではない。

もっと根源こんげん的な――

存在そのものへの干渉。

「誓約者…」

影が、再び語りかける。

「境界は、崩れてはいない。支える力が、失われている。」

「支える力……?」

レオが、繰り返す。

「意志…」

影は言った。

「100年前、境界は、“意志”によって築かれた。守るという意志。隔てるという意志。だが、時が過ぎ、その意志は、薄れた。」

刻印が、共鳴する。

理解できる。

これは、単なる魔術構造ではない。

誓いだ。

「……だから…」

レオは、静かに言う。

「新しい“意志”が必要。」

影は、肯定した。

「誓約は、意志の結晶。ゆえに、境界を、支え得る。」

カイルの手が、わずかに強くなる。

「……代償とは…」

影は、はっきりと告げた。

「誓約の一部を、境界へ結びつける。」

沈黙。

それは。

「……どういう意味だ?」

カイルの声が、低くなる。

影は、淡々と答えた。

「誓約は、完全な“閉じた循環”。2者の間で、完結している。だが、境界に結びつければ、一部は、常に外界を支えるために使われる。」

レオの胸が、ひやりと冷えた。

(……誓約が)

(完全な“2人だけのもの”じゃなくなる)

カイルも、理解していた。

「拒否する。」

即答だった。

「誓約は、譲らない。」

影は、否定しなかった。

「それも、選択。だが…」

歪みが、わずかに広がる。

遠くで、低い振動音。

「境界は、いずれ崩壊する。その時、人間領は、侵食される。」

先遣隊の騎士たちが、息を呑む。

これは、脅しではない。

事実だ。

「……レオ…」

カイルが、低く呼ぶ。

その声には。

迷いがあった。

初めて。

レオは、ゆっくりと顔を上げた。

刻印は、静かに脈打っている。

弱くもなく、強くもなく。

ただ。

待っている。

「……カイル。」

名前を呼ぶ。

蒼い瞳が、まっすぐに返る。

「誓約は…」

レオは、ゆっくりと言う。

「2人だけのもの、ですよね?」

「ああ…」

迷いのない答え。

「なら…」

1歩、結界へ近づく。

「それを、“選んで使う”のも…」

刻印が、光る。

「誓約の一部です。」

「レオ…」

カイルの手が、腕を掴む。

「無理をする必要はない。」

「義務じゃありません。」

レオは、静かに笑った。

「選択です。」

その言葉に。

カイルは、何も言えなかった。

刻印が、強く光る。

「条件があります。」

レオは、影へ言った。

「誓約を、奪わないこと。“結びつける”だけ。」

影は、即答した。

「保証する。誓約は、依然として2者のもの。境界は、共鳴するのみ。」

レオは、頷いた。

そして。

カイルを見る。

「一緒に、やります。」

沈黙。

長い、沈黙。

やがて。

カイルは、深く息を吐いた。

「……誓約は…」

低く、言う。

「1人で使うものではない。」

手を、伸ばす。

レオの手を、取る。

「共に…」

刻印が、爆発的に光った。

境界が、共鳴する。

空間が、震える。

先遣隊が、思わず後退する。

「始まる…」

影の声。

光が、2人を包む。

刻印から、細い光の糸が伸びる。

結界へ。

触れる。

冷たい。

だが。

拒絶ではない。

受け入れられている。

(……温かい)

結界の奥に。

意志がある。

100年前の誓い。

守ろうとした者たちの意志。

それに。

誓約が、重なる。

カイルの手が、強く握られる。

「レオ。」

「はい。」

「離れるな。」

「はい。」

光が、広がる。

歪みが、収束する。

裂け目が、閉じていく。

そして――

境界が、安定した。

静寂。

風が、戻る。

歪みは、消えていた。

完全に。

影が、静かに言う。

「……完了。境界は、再び支えられた。」

レオは、息を吐いた。

刻印は、変わらずそこにある。

消えていない。

弱まってもいない。

ただ――

少しだけ。

広がった気がした。

「……成功、ですか?」

影は、頷いた。

「誓約は、境界と共にある。」

カイルが、レオを引き寄せた。

強く。

「……無事か?」

「はい。何も、失ってません。」

刻印が、穏やかに光る。

誓約は、壊れていない。

むしろ。

強くなっている。

影が、最後に言った。

「誓約者よ。お前たちは、境界を守る者となった。」

その言葉は。

重く。

そして、確かだった。

誓約は、もう。

2人だけのものではない。

だが。

2人が選んだものだ。

それは、変わらない。

北境の空は、静かだった。

だが世界は、この瞬間。

確かに変わった。

誓約は――

世界を守る力となった。
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