蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

文字の大きさ
35 / 51
第34話

守る者としての重み

しおりを挟む
境界は、静かだった。

あれほど歪んでいた空間は、まるで最初から何もなかったかのように安定している。

風は冷たい。
だが、その冷たさは“自然なもの”だった。

「……本当に、終わったんですね。」

レオが、小さく呟く。

「いや…」

カイルは、空を見上げたまま言った。

「始まった。」

その言葉の意味は、すぐに分かった。

先遣隊の騎士たちが、明らかに距離を取っている。

敵意ではない。

だが――

敬意とおそれ。

「……見られてますね。」

「当然だ。」

カイルは、淡々と答えた。

「彼らは、“奇跡”を目撃した。」

レオは、胸の刻印に触れた。

変わっていない。
だが。

(……少しだけ)

境界と繋がっている感覚がある。

遠くに、もう1つの鼓動。

それでも、不安はなかった。




その夜。

野営地やえいちは、妙な静けさに包まれていた。

騎士たちは、普段通り振る舞おうとしている。
だが、どこかぎこちない。

レオが、焚き火を見つめていると。

「……失礼します。」

1人の騎士が、近づいてきた。

若い。
先遣隊の中でも、最年少だろう。

「何か?」

レオが問うと、騎士は一瞬ためらった。

「……礼を…」

「え?」

騎士は、深く頭を下げた。

「北境は、私の故郷です。結界が崩壊すれば、最初に失われる場所でした。」

レオは、言葉を失う。

「あなたは…」

騎士は続けた。

「故郷を、守ってくれました。」

胸の奥が、静かに震える。

(……守った)

その実感は、今までなかった。

誓約は、自分たちのものだった。

生きるためのものだった。

だが、今は違う。

「……俺だけじゃありません。」

レオは、静かに言った。

「誓約は、2人のものです。」

騎士は、カイルを見る。

そして、再び頭を下げた。

「騎士団長。」

カイルは、短く答えた。

「……礼は不要だ。我々は、選んだだけだ。」

騎士は、それ以上何も言わなかった。

だが、その目は、明らかに変わっていた。

尊敬。

そして――

信頼。

騎士が去った後。

しばらく、沈黙。

「……実感、ないですね。」

レオが言う。

「何がだ?」

「守った、ってこと…」

カイルは、焚き火を見つめたまま答えた。

「実感は、後から来る。」

「……来ましたか?」

「来ていない。」

その即答に、レオは思わず笑った。

「騎士団長なのに…」

「だからこそだ。」

カイルは、横を見る。

「守ることは、日常だ。特別ではない。」

その言葉に、刻印が穏やかに光る。

「……でも…」

レオは、小さく言った。

「今回は、違いました。誓約を使った。世界のために…」

カイルは、しばらく黙っていた。

やがて。

手が、そっとレオの頬に触れる。

「誓約は…」

低く、言う。

「世界のために使ったのではない。」

「え?」

「お前が、“使う”と選んだ。それが、世界を守った。順序を、間違えるな。」

レオは、息を止めた。

(……ああ)

この人は。

どこまでも。

誓約を、“2人のもの”として扱う。

「……はい。」

それだけ答える。

その夜。

眠りにつく直前。

刻印が、静かに共鳴した。

(……大丈夫)

結界は、安定している。

だが同時に。

(……繋がってる)

遠く。

北境の境界と。

誓約が、細く、確かに結ばれている。

不安はない。

ただ。

新しい責任が、そこにある。




翌朝。

王城からの使者が、到着した。

「北境結界の安定を確認。王は、深い感謝を示されている。」

文官は、丁寧に頭を下げた。

「帰還後、正式な謁見えっけんが予定されています。」

レオは、カイルを見る。

「……帰るんですね…」

「ああ…」

カイルは、静かに答えた。

「だが…」

一瞬、言葉を止める。

「もう、以前と同じではない。」

それは、地位の話ではない。

誓約が、変わった。

世界が、それを認めた。

そして。

2人自身も。

変わった。

「……それでも…」

レオは、笑った。

「一緒ですね。」

カイルは、わずかに目を細めた。

「ああ。」

迷いなく。

「誓約は、続いている。」

北境の空は、澄んでいた。

誓約は、もはや。

逃亡者の証ではない。

奇跡でもない。

それは――

世界と並び立つ、誓いとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由

スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。 どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

処理中です...