雨鴉(あめがらす)の隠れ家 Season2

遊羽(ゆう)

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第6話

傷跡と口付け

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「硝子の城」に戻った頃には、朝日が街を照らしていた。
けれど、俺たちの部屋の遮光カーテンは閉ざされたままで、室内は薄暗い。
俺は洗面所で、何度も何度も手を洗っていた。
石鹸の泡で指をこする。お湯で流す。それでも、硝煙しょうえんの匂いと、銃の反動の感触が消えない気がした。

人を撃った。二人も。
正当防衛だとしても、その事実は俺の魂にこびりついて離れない。

「……落ちないよ……」

呟いた声が震える。
その時、背後から温かい体温に包まれた。
厳だ。
大きな手が、俺の濡れた手を優しく掴み、蛇口を閉める。

「もういい。……十分に綺麗だ。」
「でも、厳……俺、撃っちゃった。人の体に穴を開けちゃったんだよ……」

鏡越しに見た俺の顔は、酷く青ざめていた。
厳は俺を後ろから抱きしめたまま、耳元に唇を寄せた。

「お前は俺を守った。梅さんを守った。……それは罪じゃない。愛だ。」

厳の言葉が、凍りついた心に染み渡る。
俺は厳の方へ向き直り、その胸に顔を埋めた。タバコと、微かな血の匂い。それがどうしようもなく落ち着く。

「怖かった……。手が、まだ震えてるんだ。」
「ああ、分かってる。」

厳がいきなり俺の体を抱き上げた。
俺は驚いて厳の首に腕を回す。そのまま寝室へと運ばれ、キングサイズのベッドに降ろされた。

「厳……?」
「震えが止まるまで、俺が温めてやる。……余計なことは考えるな。」

厳が覆いかぶさる。
そのキスは、いつもの荒々しいものとは違い、傷口を舐めるように優しく、甘かった。
服を脱がされ、肌が触れ合う。厳の体温が高く、熱い。
その熱が、俺の中にある「死」の恐怖を、「生」の実感へと変えていく。

「んっ……厳、もっと……」

俺は厳の背中に爪を立てた。そこには無数の古傷がある。彼がこれまで一人で背負ってきた修羅場の証だ。
これからは、俺もその一部を背負うんだ。

「湊、愛してる。」

行為の最中、厳がかすれた声で何度も俺の名前を呼んだ。
その瞳は、獲物を狙う獣の目ではなく、ただ一人の愛しい半身はんしんを見つめる男の目だった。

「俺も……愛してるよ、厳。」

快感の波にのまれながら、俺は涙を流した。
悲しい涙じゃない。
俺たちは共犯者だ。血と罪で汚れた手で、それでも強く抱きしめ合う。
この熱だけが、今の俺たちに残された唯一の真実だった。


情事の後、厳の腕の中で微睡まどろみながら、俺は思った。


もう、後戻りはできない。


でも、この男が隣にいるなら、どんな地獄でも天国に変えられる気がする。
窓の外では、新しい朝が始まっていた。
だが、俺たちの戦争は、まだ始まったばかりだ。
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