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エピローグ
夜明けの残響
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料亭「紅月」での血戦から数日。
地上200メートルの「硝子の城」には、以前と変わらぬ静謐な時間が流れているように見えた。
だが、窓の外に広がる東京の景色は、あの日を境にどこか違って見える。
朝霧の中、整然と並ぶビル群。そのどこかに、鏑木をも駒として使っていた「真の巨大な闇」が潜んでいるのだ。
俺はリビングのソファで、霧島が残したSDカードの解析データを眺めていた。
知識を総動員して暗号を解くたび、背筋が凍るような事実が浮き彫りになる。本家と繋がっている政治家の名前、そして「外資」という名目で日本に流入しているロシア系マフィアの資金洗浄ルート。
「……湊。根を詰めすぎるな。」
背後から温かい体温が重なり、厳の大きな手が俺の肩に置かれた。
厳の肩の傷はまだ完治していないが、その眼光は以前よりも鋭く、そして俺に向ける眼差しはどこまでも深い。
「厳。……これ、霧島が言ってた通りだよ。鏑木を倒したのは、巨大なダムに小さな穴を開けただけに過ぎなかったんだ。」
「ああ。……敵はヤクザの論理では動かん。金と権力、そして国家の枠組みさえも利用する怪物だ。」
厳は俺の隣に座り、俺の手からスマホを取り上げると、テーブルに置いた。
そして、俺の手首にそっと指を這わせる。そこには、あの日、厳がネクタイで縛り上げた痕はもう残っていない。けれど、皮膚の奥には消えない「熱」が刻まれている。
「……怖くなったか?」
「ううん。不思議と、そうじゃないんだ。……ただ、もっと強くならなきゃって思ってる。」
俺が厳の瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、厳は少しだけ驚いたように目を見開き、やがて満足そうに口角を上げた。
「……ハッ。俺の自慢の共犯者だな。」
厳が俺を引き寄せ、深い口づけを交わす。
甘く、けれど戦場へ向かう戦士が交わすような、重い誓いを含んだキス。
その時、俺のスマホが、設定していないはずの特殊な着信音を鳴らした。
画面に表示されたのは、海外の国番号。
俺たちが顔を見合わせた瞬間、自動的に音声メッセージが流れ出した。
『……ハロー、親父。湊くん。……無事に生き延びているようで何よりだ。今、シンガポールの空港でこれを入れている。』
霧島の声だ。背後には空港の雑踏の音が混じっている。
『忠告だ。本家の上層部が「掃除屋」を雇った。国内のヤクザじゃない。……元・特殊部隊の連中だ。数日以内に、お前たちの城に「挨拶」が行くはずだ。……じゃあな、また地獄の淵で会おう。』
プツリ、と通信が切れた。
直後、スマホのデータが自己消去を始める。霧島なりの、最後の「情」なのだろうか。
部屋を包む沈黙。
厳がゆっくりと立ち上がり、クローゼットの奥から、これまで使ったこともないようなタクティカルな装備と、大口径の銃器を取り出した。
「……来るか?」
「……うん。行こう、厳。」
俺はジャケットを羽織り、ホルスターの重みを確認した。
窓の外、朝焼けに染まる東京の空を、一羽の黒い鳥が横切っていく。
秘密の恋は終わった。
組織との抗争も、一段落した。
ここから始まるのは、名前も顔も知らない、巨大な「世界」との戦争。
俺と厳、2人の雨鴉は、吹き荒れる嵐の中へと、再び翼を広げた。
地上200メートルの「硝子の城」には、以前と変わらぬ静謐な時間が流れているように見えた。
だが、窓の外に広がる東京の景色は、あの日を境にどこか違って見える。
朝霧の中、整然と並ぶビル群。そのどこかに、鏑木をも駒として使っていた「真の巨大な闇」が潜んでいるのだ。
俺はリビングのソファで、霧島が残したSDカードの解析データを眺めていた。
知識を総動員して暗号を解くたび、背筋が凍るような事実が浮き彫りになる。本家と繋がっている政治家の名前、そして「外資」という名目で日本に流入しているロシア系マフィアの資金洗浄ルート。
「……湊。根を詰めすぎるな。」
背後から温かい体温が重なり、厳の大きな手が俺の肩に置かれた。
厳の肩の傷はまだ完治していないが、その眼光は以前よりも鋭く、そして俺に向ける眼差しはどこまでも深い。
「厳。……これ、霧島が言ってた通りだよ。鏑木を倒したのは、巨大なダムに小さな穴を開けただけに過ぎなかったんだ。」
「ああ。……敵はヤクザの論理では動かん。金と権力、そして国家の枠組みさえも利用する怪物だ。」
厳は俺の隣に座り、俺の手からスマホを取り上げると、テーブルに置いた。
そして、俺の手首にそっと指を這わせる。そこには、あの日、厳がネクタイで縛り上げた痕はもう残っていない。けれど、皮膚の奥には消えない「熱」が刻まれている。
「……怖くなったか?」
「ううん。不思議と、そうじゃないんだ。……ただ、もっと強くならなきゃって思ってる。」
俺が厳の瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、厳は少しだけ驚いたように目を見開き、やがて満足そうに口角を上げた。
「……ハッ。俺の自慢の共犯者だな。」
厳が俺を引き寄せ、深い口づけを交わす。
甘く、けれど戦場へ向かう戦士が交わすような、重い誓いを含んだキス。
その時、俺のスマホが、設定していないはずの特殊な着信音を鳴らした。
画面に表示されたのは、海外の国番号。
俺たちが顔を見合わせた瞬間、自動的に音声メッセージが流れ出した。
『……ハロー、親父。湊くん。……無事に生き延びているようで何よりだ。今、シンガポールの空港でこれを入れている。』
霧島の声だ。背後には空港の雑踏の音が混じっている。
『忠告だ。本家の上層部が「掃除屋」を雇った。国内のヤクザじゃない。……元・特殊部隊の連中だ。数日以内に、お前たちの城に「挨拶」が行くはずだ。……じゃあな、また地獄の淵で会おう。』
プツリ、と通信が切れた。
直後、スマホのデータが自己消去を始める。霧島なりの、最後の「情」なのだろうか。
部屋を包む沈黙。
厳がゆっくりと立ち上がり、クローゼットの奥から、これまで使ったこともないようなタクティカルな装備と、大口径の銃器を取り出した。
「……来るか?」
「……うん。行こう、厳。」
俺はジャケットを羽織り、ホルスターの重みを確認した。
窓の外、朝焼けに染まる東京の空を、一羽の黒い鳥が横切っていく。
秘密の恋は終わった。
組織との抗争も、一段落した。
ここから始まるのは、名前も顔も知らない、巨大な「世界」との戦争。
俺と厳、2人の雨鴉は、吹き荒れる嵐の中へと、再び翼を広げた。
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