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最終話
雨鴉の夜明け
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降りしきる雨が、料亭「紅月」の瓦屋根を叩いている。
静寂が支配する離れの一室。そこには、血と硝煙、そして圧倒的な威圧感が渦巻いていた。
「……さすがだな、久藤。本家を敵に回して、ここまで辿り着くとは。」
部屋の中央。本家若頭補佐・鏑木が、鞘から抜かれた日本刀を手に立ち塞がっていた。傍らには、すでに厳の手によって沈められた護衛たちが転がっている。
「鏑木。……引導を渡しに来たぞ。」
厳が2丁の拳銃を構える。その背後には、俺――朝霧湊が、震える手で銃を握り、厳の死角を完璧にカバーしていた。
「ハッ、無粋な鉄砲玉どもが! 日本極道の魂、その身に刻め!」
鏑木が地を蹴った。
速い。銃声が響くより先に、鋭い白刃が厳の肩口を掠める。
厳は至近距離から発砲するが、鏑木は最小限の動きでそれを躱し、間髪入れずに次の斬撃を繰り出す。
「厳……っ!」
俺の叫びが響く。厳が防戦一方になっている。鏑木の剣筋は、銃の間合いを完全に潰していた。
その時、廊下から怒号が聞こえた。
「親父! 外は片付けたぜ!」
霧島だ。彼は血塗れのナイフを手に、数人の手下を引き連れて現れた。だが、彼は加勢するのではなく、少し離れた位置で冷笑を浮かべ、戦いを見物している。
「霧島……! 助けてよ!」
「ハハッ、湊くん。これは親父の『禊』だ。俺が手を出したら興醒めだろう?」
霧島の裏切りか、あるいは静観か。
鏑木の刀が厳の銃を弾き飛ばした。厳の胸元に、冷たい刃が迫る。
(――今だ!)
俺は呼吸を止めた。昨夜、新宿のバーで見せつけられた「支配」の感覚を思い出す。俺は厳のものだ。厳を守るのは、俺の特権だ。
ダンッ!!
迷いのない1発。
俺が放った弾丸は、鏑木の右膝を正確に撃ち抜いた。
鏑木の体勢が大きく崩れる。
「……何ッ!?」
「隙ありだ、鏑木。」
厳が予備の銃を引き抜き、膝をついた鏑木の眉間に銃口を突きつけた。
「……見事だ。……久藤、お前には過ぎた相棒だな。」
鏑木が自嘲気味に笑った瞬間、厳の指が動いた。
乾いた銃声が一度だけ響き、関西の処刑人はその場に崩れ落ちた。
静寂が戻る。
俺は膝から崩れ落ち、熱を持った銃を床に落とした。厳が歩み寄り、俺の体を強く抱きしめる。
「……湊。お前が、俺を救った。」
「……うん。約束、守ったよ。」
その時、霧島がゆっくりと近づいてきた。
「見事なコンビネーションだ。……だが、親父。これで終わりじゃない。」
霧島がスマートフォンを放り投げる。そこには、海外のニュース映像が流れていた。
『日本の巨大組織、海外マフィアとの提携を発表』
そして、その映像の端に映っていたのは、本家のトップと握手をする、現職の有力政治家の姿だった。
「本家は、お前たちを消すために『外』の力を引き込んだ。……これから来るのは、ヤクザの抗争なんて可愛いもんじゃない。本物の『戦争』だ。」
霧島はそれだけ言うと、背を向けた。
「俺は一度、海外に高跳びする。……次に会う時は敵か味方か、楽しみにしてるぜ。達者でな。」
霧島の影が雨の中に消えていく。
厳は俺を抱き上げたまま、夜明けの空を見上げた。
「……湊。もっと深い地獄が待っているようだが、ついて来れるか?」
「当たり前だよ、厳。……俺は、厳の背中を守るって決めたんだから。」
雨鴉の2人は、壊滅した料亭を後にした。
手首には、まだ昨夜のネクタイの感触が、消えない誓いのように残っていた。
静寂が支配する離れの一室。そこには、血と硝煙、そして圧倒的な威圧感が渦巻いていた。
「……さすがだな、久藤。本家を敵に回して、ここまで辿り着くとは。」
部屋の中央。本家若頭補佐・鏑木が、鞘から抜かれた日本刀を手に立ち塞がっていた。傍らには、すでに厳の手によって沈められた護衛たちが転がっている。
「鏑木。……引導を渡しに来たぞ。」
厳が2丁の拳銃を構える。その背後には、俺――朝霧湊が、震える手で銃を握り、厳の死角を完璧にカバーしていた。
「ハッ、無粋な鉄砲玉どもが! 日本極道の魂、その身に刻め!」
鏑木が地を蹴った。
速い。銃声が響くより先に、鋭い白刃が厳の肩口を掠める。
厳は至近距離から発砲するが、鏑木は最小限の動きでそれを躱し、間髪入れずに次の斬撃を繰り出す。
「厳……っ!」
俺の叫びが響く。厳が防戦一方になっている。鏑木の剣筋は、銃の間合いを完全に潰していた。
その時、廊下から怒号が聞こえた。
「親父! 外は片付けたぜ!」
霧島だ。彼は血塗れのナイフを手に、数人の手下を引き連れて現れた。だが、彼は加勢するのではなく、少し離れた位置で冷笑を浮かべ、戦いを見物している。
「霧島……! 助けてよ!」
「ハハッ、湊くん。これは親父の『禊』だ。俺が手を出したら興醒めだろう?」
霧島の裏切りか、あるいは静観か。
鏑木の刀が厳の銃を弾き飛ばした。厳の胸元に、冷たい刃が迫る。
(――今だ!)
俺は呼吸を止めた。昨夜、新宿のバーで見せつけられた「支配」の感覚を思い出す。俺は厳のものだ。厳を守るのは、俺の特権だ。
ダンッ!!
迷いのない1発。
俺が放った弾丸は、鏑木の右膝を正確に撃ち抜いた。
鏑木の体勢が大きく崩れる。
「……何ッ!?」
「隙ありだ、鏑木。」
厳が予備の銃を引き抜き、膝をついた鏑木の眉間に銃口を突きつけた。
「……見事だ。……久藤、お前には過ぎた相棒だな。」
鏑木が自嘲気味に笑った瞬間、厳の指が動いた。
乾いた銃声が一度だけ響き、関西の処刑人はその場に崩れ落ちた。
静寂が戻る。
俺は膝から崩れ落ち、熱を持った銃を床に落とした。厳が歩み寄り、俺の体を強く抱きしめる。
「……湊。お前が、俺を救った。」
「……うん。約束、守ったよ。」
その時、霧島がゆっくりと近づいてきた。
「見事なコンビネーションだ。……だが、親父。これで終わりじゃない。」
霧島がスマートフォンを放り投げる。そこには、海外のニュース映像が流れていた。
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そして、その映像の端に映っていたのは、本家のトップと握手をする、現職の有力政治家の姿だった。
「本家は、お前たちを消すために『外』の力を引き込んだ。……これから来るのは、ヤクザの抗争なんて可愛いもんじゃない。本物の『戦争』だ。」
霧島はそれだけ言うと、背を向けた。
「俺は一度、海外に高跳びする。……次に会う時は敵か味方か、楽しみにしてるぜ。達者でな。」
霧島の影が雨の中に消えていく。
厳は俺を抱き上げたまま、夜明けの空を見上げた。
「……湊。もっと深い地獄が待っているようだが、ついて来れるか?」
「当たり前だよ、厳。……俺は、厳の背中を守るって決めたんだから。」
雨鴉の2人は、壊滅した料亭を後にした。
手首には、まだ昨夜のネクタイの感触が、消えない誓いのように残っていた。
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