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第10話
禁域の祝祭
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1軒目のバーを出た後、厳の独占欲は収まるどころか、さらに火がついたようだった。
「飲み足りん。」
そう短く吐き捨てた厳に連れられ、俺たちは二軒目のゲイバーへ向かった。新宿2丁目の奥まった雑居ビルにある、古馴染みのママがやっている店だ。
「あら厳さん! 今日はまた、とびきりのいい男を連れて……」
店に入るなり、派手な着物姿のママが目を丸くした。
店内には数人の客がいたが、厳が俺の腰を抱き寄せ、カウンターに座らせるなり、店内の空気が一変した。厳から放たれる、獲物を威嚇するような、それでいて色気を含んだ凄まじい圧。
「ママ、こいつは俺の連れだ。……最高の酒を頼む。」
勧められるままに強いカクテルを煽ると、一気に血の巡りが早くなった。
厳は隣で、俺の太ももに手を置き、指先でなぞるように愛撫を続けている。人前だというのに、隠す気さえないその大胆な振る舞いに、俺の理性が少しずつ溶けていく。
「厳……、みんな見てるよ?」
「見たい奴には見せておけ。お前が誰のものか、骨の髄まで分からせてやる。」
厳の瞳は、もう完全に据わっていた。
俺の首筋に顔を寄せ、深く息を吸い込む。その唇が耳たぶを甘噛みするたび、俺の肩が小さく跳ねた。
その時だった。ママがパチン、と扇子を鳴らした。
「はいはい! みんな、今日の営業はここまでよ! 悪いけどお代はいいから、さっさと河岸を変えてちょうだい!」
ママが他のお客たちを鮮やかな手つきで追い出し始めた。客たちは苦笑いしながらも、厳の殺気にも似た色気に気圧され、早々に店を出ていく。
最後にママが店の入り口に『閉店』の看板を掲げ、カチャリと鍵をかけた。
「厳さん、あんまり店を壊さないでよ? あとは……若いお2人さんでご自由に。」
ママは茶目っ気たっぷりにウィンクすると、奥の控室へと引っ込んでいった。
静まり返った店内に、ジャズのレコードだけが静かに回っている。
貸し切りの空間。オレンジ色の照明。鏡張りの壁。
そこら中に俺と厳の姿が映り込み、逃げ場を失わせる。
「……湊。」
厳が俺を椅子から引き寄せ、カウンターの上に座らせた。
広げられた俺の両足の間に、厳の大きな体が割り込んでくる。
「っ、厳……本当に、いいの?」
「ママの厚意だ。無駄にするな。」
厳の手が俺の首筋を掴み、強引に引き寄せて唇を奪った。
1軒目の時よりも深く、激しい口づけ。アルコールの熱と、互いへの渇望が爆発する。
厳の掌が俺のシャツの中に滑り込み、熱い肌を直接、力強く愛撫していく。
「あ……っ、厳……」
俺は厳の広い肩に縋り付き、その首筋に顔を埋めた。
カウンターの冷たさと、厳の体の熱さ。そのコントラストが、俺の感覚を狂わせていく。
鏡に映る自分たちの姿が視界に入る。厳に貪られ、蕩けたような表情をしている自分の顔。それが、どうしようもなく背徳的で、さらに熱を煽った。
「湊……お前は、俺の宝だ。誰にも、一瞬だって渡したくない。」
厳の声が、耳元で掠れる。
彼は俺のネクタイを解き、それを俺の手首に緩く巻き付けた。
「……今日は、お前を縛っておきたい気分だ。明日の地獄に、お前を連れていくための……俺なりの『まじない』だ。」
俺はその縛られた手を厳の首に回し、自ら深く、その熱を迎え入れた。
貸し切りのゲイバーで、俺たちは時間の許す限り、互いの存在を確かめ合った。
外の世界では、明日から始まる凄惨な戦争が牙を剥いて待っている。
けれど、この閉じられた城の中だけは、俺たちの愛だけが支配する聖域だった。
明け方。
ママに感謝の言葉を(厳が多すぎるチップと共に)残し、俺たちは店を出た。
新宿の街は、何事もなかったかのように青白い朝を迎えている。
手首には、まだ厳のネクタイの感触が残っている気がした。
「……行こう。厳。」
「ああ。……俺たちの、勝利を掴みにな。」
そう言って人目も憚らず、厳が俺にキスをした。
最愛の暴君と、1歩も引かない決意を宿した従者。
雨鴉の2人は、決戦の地、料亭「紅月」へと向かう。
「飲み足りん。」
そう短く吐き捨てた厳に連れられ、俺たちは二軒目のゲイバーへ向かった。新宿2丁目の奥まった雑居ビルにある、古馴染みのママがやっている店だ。
「あら厳さん! 今日はまた、とびきりのいい男を連れて……」
店に入るなり、派手な着物姿のママが目を丸くした。
店内には数人の客がいたが、厳が俺の腰を抱き寄せ、カウンターに座らせるなり、店内の空気が一変した。厳から放たれる、獲物を威嚇するような、それでいて色気を含んだ凄まじい圧。
「ママ、こいつは俺の連れだ。……最高の酒を頼む。」
勧められるままに強いカクテルを煽ると、一気に血の巡りが早くなった。
厳は隣で、俺の太ももに手を置き、指先でなぞるように愛撫を続けている。人前だというのに、隠す気さえないその大胆な振る舞いに、俺の理性が少しずつ溶けていく。
「厳……、みんな見てるよ?」
「見たい奴には見せておけ。お前が誰のものか、骨の髄まで分からせてやる。」
厳の瞳は、もう完全に据わっていた。
俺の首筋に顔を寄せ、深く息を吸い込む。その唇が耳たぶを甘噛みするたび、俺の肩が小さく跳ねた。
その時だった。ママがパチン、と扇子を鳴らした。
「はいはい! みんな、今日の営業はここまでよ! 悪いけどお代はいいから、さっさと河岸を変えてちょうだい!」
ママが他のお客たちを鮮やかな手つきで追い出し始めた。客たちは苦笑いしながらも、厳の殺気にも似た色気に気圧され、早々に店を出ていく。
最後にママが店の入り口に『閉店』の看板を掲げ、カチャリと鍵をかけた。
「厳さん、あんまり店を壊さないでよ? あとは……若いお2人さんでご自由に。」
ママは茶目っ気たっぷりにウィンクすると、奥の控室へと引っ込んでいった。
静まり返った店内に、ジャズのレコードだけが静かに回っている。
貸し切りの空間。オレンジ色の照明。鏡張りの壁。
そこら中に俺と厳の姿が映り込み、逃げ場を失わせる。
「……湊。」
厳が俺を椅子から引き寄せ、カウンターの上に座らせた。
広げられた俺の両足の間に、厳の大きな体が割り込んでくる。
「っ、厳……本当に、いいの?」
「ママの厚意だ。無駄にするな。」
厳の手が俺の首筋を掴み、強引に引き寄せて唇を奪った。
1軒目の時よりも深く、激しい口づけ。アルコールの熱と、互いへの渇望が爆発する。
厳の掌が俺のシャツの中に滑り込み、熱い肌を直接、力強く愛撫していく。
「あ……っ、厳……」
俺は厳の広い肩に縋り付き、その首筋に顔を埋めた。
カウンターの冷たさと、厳の体の熱さ。そのコントラストが、俺の感覚を狂わせていく。
鏡に映る自分たちの姿が視界に入る。厳に貪られ、蕩けたような表情をしている自分の顔。それが、どうしようもなく背徳的で、さらに熱を煽った。
「湊……お前は、俺の宝だ。誰にも、一瞬だって渡したくない。」
厳の声が、耳元で掠れる。
彼は俺のネクタイを解き、それを俺の手首に緩く巻き付けた。
「……今日は、お前を縛っておきたい気分だ。明日の地獄に、お前を連れていくための……俺なりの『まじない』だ。」
俺はその縛られた手を厳の首に回し、自ら深く、その熱を迎え入れた。
貸し切りのゲイバーで、俺たちは時間の許す限り、互いの存在を確かめ合った。
外の世界では、明日から始まる凄惨な戦争が牙を剥いて待っている。
けれど、この閉じられた城の中だけは、俺たちの愛だけが支配する聖域だった。
明け方。
ママに感謝の言葉を(厳が多すぎるチップと共に)残し、俺たちは店を出た。
新宿の街は、何事もなかったかのように青白い朝を迎えている。
手首には、まだ厳のネクタイの感触が残っている気がした。
「……行こう。厳。」
「ああ。……俺たちの、勝利を掴みにな。」
そう言って人目も憚らず、厳が俺にキスをした。
最愛の暴君と、1歩も引かない決意を宿した従者。
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