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第9話
嵐の前の祝杯
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決戦を翌日に控えた夜。
霧島との作戦会議を終えた俺たちは、厳の提案で新宿の街にいた。
向かったのは、厳が馴染みにしているという、看板のない会員制のゲイバーだ。
「……厳、本当にいいの? こんな時に。」
「ああ。明日からは、まともに酒を飲む余裕もなくなるだろうからな?」
厳はそう言って、重厚な扉を開けた。
店内はジャズが流れ、落とされた照明が琥珀色のグラスを照らしている。倉庫の爆発や銃撃戦が嘘のような、静謐で大人な空間だ。
「いらっしゃい。……あら、厳さん。お連れの方は?」
カウンターの奥から、上品なスーツを着こなした初老のマスターが微笑みかけてくる。
「俺の、1番大切な相手だ。」
厳が迷いなくそう告げると、俺の胸の奥が熱くなった。
俺たちはカウンターの端に座り、厳はウイスキー、俺はカクテルを注文した。
酒が運ばれてくると、厳はふっと息を吐いて肩の力を抜いた。
その時、反対側の席に座っていた常連客らしい男が、こちらを振り返った。モデルのように整った顔立ちの、知的な雰囲気の男だ。
「こんばんは。……失礼ですが、お隣の方、すごく素敵な瞳をされていますね。」
男が俺に向かってグラスを傾け、柔らかく微笑んだ。
以前の俺なら、それだけで顔を赤くして、厳の背中に隠れていただろう。でも、修羅場をくぐり抜けた今の俺は、自然に微笑み返すことができた。
「ありがとうございます。……嬉しいです。」
「凛としているのに、どこか危うい色気がある。……もしよければ、1杯おごらせてもらえませんか?」
男の視線が、熱を帯びて俺を追う。
その瞬間、隣に座っていた厳の空気が一変した。
ガチャン、と重々しい音を立てて厳がグラスを置く。それだけで、店内の温度が数度下がったような気がした。
「……悪いが、こいつの酒は俺が一生分用意してある。余計な世話だ。」
厳が俺の肩に腕を回し、力強く引き寄せた。
男は厳の放つ凄まじい威圧感に一瞬気圧されたようだったが、苦笑いして手を上げた。
「おっと、これは失礼。……独占欲の強い旦那様をお持ちのようで。」
男が去った後も、厳の機嫌は直らなかった。
彼は不機嫌そうにウイスキーを煽り、俺の耳元で低く唸った。
「湊。……お前、自覚がないのか?」
「えっ、何が?」
「今の俺を見ろ。……人を撃って、覚悟を決めた男の顔だ。その顔でそんな風に笑えば、寄ってくる馬鹿が絶えんぞ?」
厳の大きな手が、俺の頬を強く撫でる。その目は、嫉妬と情欲が混ざり合った、昏い色をしていた。
「厳……嫉妬してるの?」
「……悪いか?」
厳が俺の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「明日、もし死ぬならお前と一緒だ。……だが、それまでは、1秒だってお前を誰の視線にも触れさせたくない。」
俺は厳の背中に手を回し、その広い肩に顔を寄せた。
嫉妬されることが、こんなにも愛おしく、誇らしく感じるなんて。
「大丈夫だよ、厳。……俺の目は、厳しか映してないから。」
俺が囁くと、厳は俺の唇を貪るように奪った。
酒の香りと、独占欲に満ちた熱い口づけ。
これから向かう地獄の前の、最高に甘い贅沢。
「帰るぞ、湊。……今夜は寝かせん。」
厳は代金を叩きつけるように置くと、俺の手を引いて店を出た。
霧島との作戦会議を終えた俺たちは、厳の提案で新宿の街にいた。
向かったのは、厳が馴染みにしているという、看板のない会員制のゲイバーだ。
「……厳、本当にいいの? こんな時に。」
「ああ。明日からは、まともに酒を飲む余裕もなくなるだろうからな?」
厳はそう言って、重厚な扉を開けた。
店内はジャズが流れ、落とされた照明が琥珀色のグラスを照らしている。倉庫の爆発や銃撃戦が嘘のような、静謐で大人な空間だ。
「いらっしゃい。……あら、厳さん。お連れの方は?」
カウンターの奥から、上品なスーツを着こなした初老のマスターが微笑みかけてくる。
「俺の、1番大切な相手だ。」
厳が迷いなくそう告げると、俺の胸の奥が熱くなった。
俺たちはカウンターの端に座り、厳はウイスキー、俺はカクテルを注文した。
酒が運ばれてくると、厳はふっと息を吐いて肩の力を抜いた。
その時、反対側の席に座っていた常連客らしい男が、こちらを振り返った。モデルのように整った顔立ちの、知的な雰囲気の男だ。
「こんばんは。……失礼ですが、お隣の方、すごく素敵な瞳をされていますね。」
男が俺に向かってグラスを傾け、柔らかく微笑んだ。
以前の俺なら、それだけで顔を赤くして、厳の背中に隠れていただろう。でも、修羅場をくぐり抜けた今の俺は、自然に微笑み返すことができた。
「ありがとうございます。……嬉しいです。」
「凛としているのに、どこか危うい色気がある。……もしよければ、1杯おごらせてもらえませんか?」
男の視線が、熱を帯びて俺を追う。
その瞬間、隣に座っていた厳の空気が一変した。
ガチャン、と重々しい音を立てて厳がグラスを置く。それだけで、店内の温度が数度下がったような気がした。
「……悪いが、こいつの酒は俺が一生分用意してある。余計な世話だ。」
厳が俺の肩に腕を回し、力強く引き寄せた。
男は厳の放つ凄まじい威圧感に一瞬気圧されたようだったが、苦笑いして手を上げた。
「おっと、これは失礼。……独占欲の強い旦那様をお持ちのようで。」
男が去った後も、厳の機嫌は直らなかった。
彼は不機嫌そうにウイスキーを煽り、俺の耳元で低く唸った。
「湊。……お前、自覚がないのか?」
「えっ、何が?」
「今の俺を見ろ。……人を撃って、覚悟を決めた男の顔だ。その顔でそんな風に笑えば、寄ってくる馬鹿が絶えんぞ?」
厳の大きな手が、俺の頬を強く撫でる。その目は、嫉妬と情欲が混ざり合った、昏い色をしていた。
「厳……嫉妬してるの?」
「……悪いか?」
厳が俺の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「明日、もし死ぬならお前と一緒だ。……だが、それまでは、1秒だってお前を誰の視線にも触れさせたくない。」
俺は厳の背中に手を回し、その広い肩に顔を寄せた。
嫉妬されることが、こんなにも愛おしく、誇らしく感じるなんて。
「大丈夫だよ、厳。……俺の目は、厳しか映してないから。」
俺が囁くと、厳は俺の唇を貪るように奪った。
酒の香りと、独占欲に満ちた熱い口づけ。
これから向かう地獄の前の、最高に甘い贅沢。
「帰るぞ、湊。……今夜は寝かせん。」
厳は代金を叩きつけるように置くと、俺の手を引いて店を出た。
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