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18話
しおりを挟むその話が私達のもとに来たのは突然のことだった。
「他国のギルドと手を組むことになった?」
それはある日ギルドマスターのロキシーさんに呼び出された時に出てきた話題
だが、その前にここでギルドについて勉強しておく必要がある。
この世界では国ごとにギルドが設立されているのだがルールが国によって多少の違いがあり、今私が持っている冒険者カードを他の国で使っても入国時に効果があるくらいでそれ以外は効果が全くといっていいほどない。
簡単に言えば母国の硬貨を別の国で使おうとしても効果を発揮しないような感じだ。
もし別の国で冒険者として活動したい場合、その国の冒険者ギルドでまた冒険者登録をしなければならないのだ。
だからこの世界ではほとんどの冒険者が国内で活動するし、それは別の国でもそうなのだろう。
そして今、そのギルドの歴史が変わろうとしているのだ。
はい説明終わりだ
「実は先日各国のギルドマスターが集まって会議をすることになったんだ。
例えば各国の冒険者達の実力がどんなものかとかモンスターについての情報交換とかね…」
なるほどだがそれってギルド同士が手を取り合ってもなんら変わらないのでは?
「そして来月からこの冒険者ギルドは変わるんだ!
今までとは違って他の国から実力のある冒険者がやってくることもあるし、逆にこの国の冒険者が他の国に行ってクエストを受けることも出来るんだ!」
それは確かにすごいことかもしれない
もし予定通り来月からギルドが変われば今持っている冒険者カードが他国のギルドでも使えるということになりいちいちその国で登録しなくて済むのだ。
それにしても他国でもクエストを受けられるのか…
「色んな国に行ってモンスターを狩って見たいですね
色んな食材を料理してみたいです」
「それはまた新たな料理が食べれるということか?」
後ろから聞こえてくる声に驚き振り向くとそこにはヨダレを拭き取ることを食べ物で頭がいっぱいになっているツキカゲがいた。
というかずっと私のそばにいたのね気づかなかったよ
「まあ…考えは人それぞれだからね
色んな国を旅して経験を積むのも良い冒険者になるための近道と言えるから
来月から他国を旅するのもいいかもよ。」
ロキシーさんにそう言われたなら行くしかないだろう
「わかりました他国に行ってみようと思います
そこでこの国の冒険者がどれほどの実力があるかみせつけてやりますよ!」
「俺様はカナの料理を広めたい」
目的がズレているツキカゲの言葉に反応するようにズッコケるとため息をついた。
「そうだね…うん。
ツキカゲの言う通りカナの料理を他国に広めるのはいいかもしれないな!」
あんたもかいっ!!
私に料理を広めてくれと言ったロキシーさんは目をキラキラと輝かせていた。
食ったんだな…前に私がリグレさんに教えたオークカツ丼
結局他国を旅して経験を積むという目的の他に私が考案したということになってる料理を広めるという目的が増えてしまった。
「(不安だ……)」
先程よりも深く溜息をつきながら1人クッキーをつまんだのだった。
人々がごった返している市場には笑顔が溢れかえっている
それは本物の笑顔かそれとも偽物か
なんて皮肉にまみれた考えは今だけはやめよう
とにかく今はこの人しかいない場所で限られた時間の中で息抜きをするのが先決だ。
それにしてもここら辺は人が多すぎる気がして足元がおぼつかなくなってしまいそうだ。
一瞬でも気を抜いてしまえばこうやってほら…
「ごめんなさい!怪我しませんでしたか!?」
何も悪くないのにぶつかってきた小さな少女が謝ってくるのだから。
「いえ…私こそごめんなさいね」
それにしてもこんなに礼儀正しい子供は初めて見た
一目見たいだけでまだよくはわからないが見た目と中身が違うように感じられるのは私の気の所為だろうか。
この小さな少女は1人でこんな人混みの中歩いていたのだろうか少しだけ興味が湧いてしまった。
「あなた1人?保護者は?」
私からの質問に答えようとするが人が多すぎるのもあって離れてしまいそうになり咄嗟に少女の手を掴んだ。
ここではなく広場や座れる場所などに行こうということになり少女は私の手を引いて案内してくれた。
こんなに子供がしっかりしているなんて違和感しか感じない…だから怖い。
「ここは冒険者でもそうじゃない人でも利用出来る場所なの!
ここならお話できるよ!」
元気よくそう言って入った建物はどうやら冒険者ギルドらしい
売店や食堂に受付カウンター…使われている材木などでかなり整っていて手入れもしっかりされている施設だとわかる。
「どうしてここならお話ができるの?」
我ながら最もな意見だと思える…すると少女は無邪気に笑いながら理由を教えてくれた。
ここにいれば保護者もいるし彼女はよくこの施設の清掃をしているので施設内の構造をよく理解しているかららしい。
すると少女は私を食堂に連れて行くとメニュー表を渡してきた。
「なにか食べたいの?悪いけど私はあそこら辺を散歩してただけでお金は…」
なにかご馳走できるようなことはないとメニュー表を返そうとしたその時少女は私の耳元で小さな声で言った。
「お姉さんお忍びでここに来てるんでしょ?私がご馳走するから好きなの選んでよ」
「……!」
まさか気づいていたとは
確かに私はこの国とは違う国から来て息抜きのためにあんな息苦しい場所から抜け出して来たが…
わざわざお忍び用の服も用意してこうやって来ているのだが…やはり無駄だったのか。
バレてしまったものは仕方ないと思い人差し指を口にあてナイショだよと少女にわかりやすいように言うと彼女はにっこりと笑いながら再びメニュー表を渡してきた。
ちゃんとこの食堂のおすすめを教えその通りのメニューを注文すると出てきたものを見て驚愕した。
「これ…カツ丼?」
まさかこの世界でまたカツ丼を見られるなんて…というか米を炊いて食べる文化があったなんて思わなかった。
私が今暮らしている国なんて鶏の餌として与えていたし、人が食べるという考えすらなかった。
久しぶりに食べるその料理は懐かしく目頭が熱くなったが服の袖で少し乱暴に拭うと食事する手を動かした。
美味しい
やはり私の世界にあったカツ丼だ
「美味しいでしょ?この料理をメニューとして出した人がね言ってたのよ
この料理は私の故郷の料理だって…」
耳だけを傾けていただけの私は視線も少女に向けその話を詳しく話してくれとお願いした。
もしかしたら私と同じような人物がいるかもしれない…そう思えるだけで心臓がバクバクと鳴り落ち着くことを知らない
だけど少女の言葉は私が求めていた言葉ではなかった。
「ごめんなさい…私はその人のことを知らないの」
情報というのはそう簡単に手に入れるものでは無い…わかってはいたけど実際にこういうことが起きると辛いものがある。
「そう…ありがとうね
おかげで今日は楽しかったわ」
椅子から立ち上がり少女の頭を撫でお礼を言うと私は冒険者ギルドを出ていった。
「……こんな所にいたのですか
いい加減護衛の人を撒いてどこかへ行くのをお辞めになってください」
ギルドから出てすぐ横から聞こえた声が何者か私は知っている
目だけをその誰かに向ければ予想通りの人物だ。
「私はただ散歩をしていただけです。
それに撒いたなんて言っていますが、護衛からの視線も常に感じていたので撒いた訳では無いのでしょう?」
私が正論を言えば誰かはケラケラと笑い私の負けだと言って私の手を取った。
「とりあえず帰りましょう…あなたにはまだやるべき仕事があるのですから」
耳元で囁くその声はねっとりとしており気味が悪く背筋が凍りそうだ。
私はただの人間では無いらしい
だから護衛も着いてるし隣にいるこいつも私から離れようとしない
それもそうだ
だって私は……
「異世界召喚によって呼び出された聖女様……だもんね」
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