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6章 中年は領主になる

第51話 とりあえずベガスに行くって話

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フランシスの内政をサーシャとビィンチ一家に任せた。
今後、色々と動きも活発になるであろうことと、私が他人を信じきれないため、
念の為、ビィンチ一家にも隷属魔法による契約を行った。

ビィンチ一家は『ブラディング家のためになるのなら』と快諾してくれた。
そして一人の使用人に関してはしばらく様子を見るように伝えた。

ブラディング家に戻ってきた使用人サルバトである。

彼女は私の鑑定眼にハッキリ、『役職:スパイ』と出ていたからだ。
他の使用人たちは、『役職:使用人』といった形だったのに彼女だけ役職が違っていた。
まぁ仮にスパイといっても、誰から送り込まれたのかすら分かっていない。

かといって使用人全員に隷属魔法を施すのはまだしばらく待ちたい、
そのためにビィンチに密命を与えたのである。
サレムに任せようとも思ったのだが、サーシャに気取られてもいけないので、ビィンチにお願いした。

街の警備を任せている守備隊の内部も本当はきちんとしておきたかったが、
そこはビィレムに任せることにした。

当面、フランシスで大きな問題になりそうなことには対策を打ち、
私はユーリナと二人でベガスへ向かった。



フランシスからベガスへは馬車で1日ほど。
風魔法であれば数時間で到着できるだろう。
今回、ベガスに来たのはウィリー・ダットンに釘を刺しておくためである。
王の密命は徐々に調査していこうと思う。

ベガスは広さ的にはフランシスと変わらぬほどにもかかわらず、
とにかく人の出入りが激しい。
別の領地からなのか貴族風の馬車や商人風の馬車が結構な数、出入りしている。

門番に『ブラディング領新当主が挨拶に来た。』と告げると、
しばらく確認に時間がかかったが、ダットン卿の屋敷へと案内された。

街にある建物はそれほど古くもなく、人通りも多い。にぎわっている感じである。
昼からお酒を飲んで酔っ払っている人や、数人の女性を侍らせている男など、
いかにもカジノと商業の街らしい雰囲気である。

商店にはダンジョン産なのか魔物の素材なども多数扱われていて、
武器防具やに家具屋、薬屋や飲食店などもかなりの数出店している。

しばらく大通りを進むと見るからに成金っぽいというか豪華絢爛な邸宅が見えてきた。
ベガスの街の中心にその邸宅があり、大きさはかなり大きい。

とりあえず応接間に通されたが、よくわからない調度品の数々が所狭しと並べられており、
正直、『騒々しい部屋』といった感じである。

しばらくすると小太りの男が入ってきた。

「おっお前は!」

王都で会った小太りの男である。

「お久しぶりといった方がいいかなダットン卿。」

「お前!何しに来た!」

「門番にはきちんと要件を告げたつもりだけど、ブランディング領の領主を拝命したので一応挨拶に来た。」

小太りの男はかなり驚いている。
それもそのはず、彼が王都から自分の街に戻ってきたのは4日ほど前、
私とオークション会場であってからは1か月も経っていない。

一応、王都を経つ寸前に、新たな貴族申請がでたとの話を聞き、『審議』の時間稼ぎをしていたはずだが、
瞬く間にどこの誰とも知らないやつが王の拝命を受けて襲来したのだからかなりの驚きである。

<まぁ私の場合、転移や風魔法があるから移動にそれほどの時間はかからないのだけど。>

「領主だと!?そんな知らせは受けていない!」

小太りは信じられないといった感じで私に啖呵を切ってきた。
私は懐から、王直々の拝命書を出し、男の前に見せた。

「ぐぬぬぬ。」

実際の書面を見て何とも言えないような感じだ。
私がサーシャを購入したことは知っている。しかしあまりにも早いというか、
自分が狙っていたことを他の誰かがやられるとやっぱりムカ着くのだろう。

額には青筋が浮かんでいるが王の書状を破るわけにもいかず、
悔しそうに反対の手を握りしめている。

「とりあえず隣同士だし、仲良くやりましょう。」

こう見えて私も中年だ。こういった場合でもいきなり喧嘩腰というわけではない。
一応友好なフリをして握手を求めてみたが、その手を握り返されることはなかった。

「覚えておけ!この街は私の街だ!いくら近隣の領主でもこの中では一般人と何ら変わりはない!」

小太りの男は王の勅命書を私につき返して、そういって部屋を出ていった。

<ガキか。>

ユーリナと二人で応接室に取り残される形になったため、やれやれといった感じで、とりあえず屋敷を出た。

馬車にユーリナだけを乗せて、フランシスに戻るように伝えると、
私は用意していたローブを羽織り、フードで顔を覆いながら街の様子を見てから街を見にいった。
密命の件があったこともあるが、この町に入ったときに感じた違和感を確かめるためである。

大通りにある雑貨店や商店をいくつか見た後、宿屋には止まらずに街を出た。

私が街を見ている間、ずっと何者かが付け回していることに気づいたので、
このまま宿に泊まればきっと『暗殺者にでも狙われるな。』と思ったからである。

街を出る時に、門番が。
「今からお帰りですか?既に夕刻、外は暗くなりますので是非街で泊っていってください。」
と勧められたが、領地での急ぎの用があると伝えて無理やり街を出た。

街を出てしばらく街道沿いを歩いていたが、追手が付いていたので、
森に入り込むフリをして異空間に入り込むと、案の定帯剣した冒険者風の数名が私が居なくなった辺りでウロウロ私を探していた。

異空間から転移を発動し、フランシスの屋敷に戻った時、まだユーリナは帰ってきてはいなかった。
御者には『野営せずに戻って来てほしい』と伝えていたため、ユーリナも夜中になって無事帰宅した。

私はフランシスの屋敷に付き次第、ビィンチにあるお触れを出してもらうように指示した。


翌日、フランシス邸宅の前には一枚のお触書が張り出されていた。

『明後日から3か月間、ダンジョンへの道の整備およびダンジョン周辺整備の為、ダンジョンを閉鎖する!』

王都へは昨日の夜に早馬を走らせて簡易的な報告書を送っておいた。

無事ブランディング領に到着したこと、ベガスに挨拶に行ったこと、
そしてそこで感じた違和感とそれを確認するために一時的にダンジョンを閉鎖すること、
などをしたためた書状であった。
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