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7章 中年は色々頑張ってみる

第66話 ほぼ最弱な中年って話

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これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

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神殿を後にして、一人で冒険者ギルドに向かう。
数刻前にご飯を食べにいったがその際にリースがいなかったことで
結局神殿に先に行くことになった。

神殿では『洗礼』を受けることができず、その原因が何なのかはわかっていない。
私自身は『この世界にもう一人の私がいるから』と何となく思っている。
でもそれが原因であれば、リリスからもう一人の自分が転移させられた後で『洗礼』を受けるか。
もう一人の私を何らかの方法でこの世界から消せばいいのだが、
明日ルマンの町に到着し、『分解』の能力を覚えてしまった私は、
今の私がどんなに頑張っても太刀打ちできないほどのステータスを手に入れてしまう。

まずは、ギルドカードを手に入れ、今の自分のステータスを確認することで、
この後の行動を考えようと思っていた。
私が社会人になって経験したいろいろなことの結果。
『考えても仕方ないことは考えない。』という半ば省エネな性分も持ち合わせている。

記憶に懐かしい街並みを歩き、冒険者ギルドに到着した。
窓口の近くにはリーアがいた。

「あらシュウさん。しばらく旅に出られると伺ってましたが、
どうしたんですか?」

「いろいろあって身ぐるみはがされて、またチェスターに戻ってきた。」

「えっ?盗賊ですか?それならすぐにでも討伐依頼を・・・」

「いやいや、盗賊ではないし、トルネも無事だから問題ないんだけど、
ギルドカードやお金を全部なくしてしまって困ってるんだ。」

「なるほど、じゃぁとりあえずギルドカードを再発行しましょう。」

「えっ?私お金持ってないけど再発行できるの?」

「冒険者ギルドでは救済策の一環で、横の食堂を含め冒険者には『ツケ』ができるんですよ。
後ほど、討伐依頼などをこなしていただきその代金から差し引かせていただきます。」

「なるほど、『ツケ』かぁ。それは助かる。」

私はリーアに早速冒険者ギルドの制度を利用して、ギルドカードの再発行をお願いした。
自分よりかなり年下のリーアに『ツケ』させてもらうことにちょっと違和感を覚えながらも
手続きは粛々と進んだ。

中年の特権ともいえる『ツケ』が使えるのはうれしい。
といってもこの世界では冒険者であればツケができるのだから、
中年の特権というわけでもないのだろうけど・・・。

「なっ!なんなんですかーーーー!これは!」

リーアの叫び声が聞こえて慌ててそちらを見た。
リーアが出来上がったばかりのギルドカードを見ながら驚いている。
やはり、転送以前のスキルはまさにチート性能だったので、
それがばれてしまったのだろう。

リーアが少し困惑した表情のままこちらに戻ってくる。

「一応守秘義務がありますので、大きな声では何も言いませんが、
こちらが新しいシュウさんのギルドカードになりますす。」

私は転送前にギルドカードをそれほど確認していなかった。
一体どんな数値になっているのか?
私は恐る恐るそのギルドカードを眺めた。

  シュウイチ・サカイ
  役職:村人 Lv.2
  HP:18/20  MP: 6/8  PW:17  SP:11  CL:---- HL:10  LC: 71
  特技:特になし

<ん?Lv2>

「シュウさん。今はおばあちゃんがいないので、また後程来てください。
何があったのかを色々お聞きすることになると思います。
まず、なぜLvが下がっているのか?後はCL(知力)のこの表示は測定不能です!
私も初めて見ました。」

私自身、このギルドカードを見て、思ったこと。
肉体はほぼ初期化されている。スキルも魔法も。
しかし、知力だけ異常に高いのは、現代に転送された影響としては、
精神というか知力だけは引き継がれているのだろう。
まぁ確かに本を読んだ知識や魔法を使った知識だけは残っているのだから
当然なのかもしれない。転送前の私のステータスは一体どういう状態になっていたのかが不安になる。

確かにリリスから『バインド』をかけられた時にほとんど拘束された感じはなかった。
どちらかといえば状況把握が追い付かず、とっさに動けなかったといった感じが否めない。
当時に状況から考えれば力づくであの場を打開できたのかもしれないが、
リリスの狙いがわかり、『リターン』と唱えられるその瞬間まで、
自分に何が起こっているのかをよく理解していなかった。

私はリーアに後程来ることを約束し、冒険者ギルドに保管してある初期装備を貸してもらえるように頼んだ。
こういう厚かましさも中年らしいのかなとも思ったりもした。

私は初期装備に身を包み、セシアたちに与えてもらった荷物を持ち、
とりあえずFランク冒険者が受けることができる採取系の依頼を数枚持ち、
チェスターの町から外に出た。

まずはLvが2なので、まずは森にいるトテ鳥なんかを狙いながら、
少しでも体力をつけなければならない。

『できないことは最初からやらない。』
『考えても仕方ないことは考えない。』
とい考え方は、言い換えれば。
『できることをコツコツやる。』
『考えて分かる危険性には近づかない。』
という意味でもある。

この街を出たもう一人の私はLv20くらい。
しかし、王都についた頃の私はLv40過ぎ。
その後は、はっきり言って常人には届かないLv。
そんなもう一人の自分を今の私がどうこうできるはずがない。

まずは策を練りつつ、最低限の策が実行できる程度の体力が必要である。
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