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8章 中年は平和を望んでみる

第80話 思い出に残る1日って話

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これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

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みんなに暴露話をしてから1週間ほど経った。
明日、教会で結婚式?をするらしい。

私はというとこの1週間は、カリテの建築ギルドとフェダの鍛冶ギルドを行ったり来たりしていた。

実は黒い山や白い山では最近露天掘り以外の採掘を行っており、その採掘の効率化を図っていた。
私は、トロッコや荷車、簡単な坑道補強方法などを提案し、
カリテがそれを建築メンバーに割り振る。フェダがその坑道の管理を行い。
鉱石の採取などを行っているようだ。最近では少量ではあるがミスリルも採掘できているらしい。
私の場合、魔力でミスリルやオリハルコンの複製を作れるのではあるが、
それでは資源バランスを壊しかねないし、私自身必要以上に魔法を行使しないようにしていた。

そんな折、

-------バターン!!!!------

リーアが建築ギルドに飛び込んできた。

「おばあちゃんが!おばあちゃんが!・・」
かなり気が動転しているようだ。
とにかくリースが大変な状況らしい、今は教会に向かっている。

リーアと共に教会に向かう。
チェスターの街は今ではかなり主要な道が整備されて、一部は下水道の埋設工事まで始めている。

リーアをなだめながら教会に到着した。

普段、懺悔や回復を行っている祭壇の部屋には、リースだけでなく数名の冒険者とキジュまでが大ケガをして運ばれてきている。

「ちょっと失敗しちまったぜ!」
キジュは痛みを押し殺しながら、はにかんで見せる。右足がない。

ニテはリースに回復魔法をかけている。
お腹には大きな穴が開いており、口からは血を吐き出している。
そのそばには数名の冒険者だろうか、シズンデが回復を行っている。

ニテはもう既に魔力がほとんどなくなっているのだろう。
額から汗を流しているが、リースの傷はかなり深い。見た目では完全に致命傷である。

私はまず、キジュの右足を瞬時に止血。
次にニテの元へ行き、『私が代わろう!』といってニテをキジュの傍で休ませた。
リーアが心配そうに眺めている。

私は、特に制限することなく回復魔法を行使する。
『仲間だけは死なせない!』そんな単純な使命感があった。
私が魔力を込めると一瞬!聖堂を光が包んだ。
リースのお腹の穴はふさがっている。これで体力的には完全回復のはずだが血を失いすぎている。
しばらく安静にするべきだろう。

次にキジュの元に向かう。同じく私が魔力を込める。
光りを放ちながら、失ったはずの右足が戻る。キジュに関してもかなりの血を失っている。
私の回復魔法が間に合った。

仮にリースが死んでいたとしても、私は迷わず文献でみた蘇生魔法を行使しただろう。

辺りにいた一同が驚いた表情を見せる。
ハッキリ言って部位欠損を直せる聖魔法使いなど王都でも見当たらない。
ましてや、リースに関してはほぼ瀕死。誰も助かるとは思っていなかったようだ。
ニテは私の聖魔法で回復しスヤスヤと眠るリースを抱きしめる。

「何があったのか聞かせてもらうよ。」
私は傷の回復したキジュに経緯を聞いた。

一昨日、キジュとリースは冒険者ギルドに所属するメンバー数人とダンジョンに向かった。
私があげたマジックバックのおかげで、食料や回復アイテムに不自由することなく下層を目指していた。
探索されている80階層にはほどなくして到着した。しかし、まだ先が存在した。

このチェスターのダンジョンは少なく見ても発見から50年以上経過している。
スタンピードは行ってはいないものの、長い間魔物を生み出し続けている。
そこで、この町に来る冒険者の中で特に後衛職のいい腕の人々もいたため、
調子に乗って最下層を目指そうとしたらしい。
90階層を目前とする89階層で事件は起こった。

前衛のキジュが右足を切り飛ばされたのだ。
すかさずリースがキジュと入れ替わりに前衛に入ると叫んだ。
『キジュを止血!すぐに帰還する!』
そういって切り飛ばされたキジュの右足を拾おうとした瞬間。
リースの腹を魔物の腕が貫通する。

後衛職の冒険者はキジュの治療そこそこに、リースを含め帰還の転送アイテムを行使する。
非常にレアなアイテムらしいが、後衛職の冒険者はそれすらためらわず、仲間ともどもダンジョン入り口まで帰還した。
そのあと、あまりにも傷が大きいため急いで神殿まで運ばれたという状況のようだ。

私が来るのがあと数分遅ければ、ニテは魔力枯渇で倒れていただろう。
仮に蘇生魔法が使えると教えていたとしても、それに甘えるような奴らじゃないことはわかっている。

「俺たちももう少し強くなれると思ったんだがな。」
キジュは悔しそうに今回の反省をしている。
残りの冒険者にも回復魔法を使い、シズンデとニテには休憩をとるように伝えた。
リーアに言って冒険者ギルドから職員を呼んでもらい、リースとキジュを休ませるように言った。

他の回復待ちの冒険者は全て私が対応した。

私があのバックを渡さなければ、私のステータスを開示しなければ、
キジュたちはあんな無茶をしなかったのだろうか?
そんなことも考えたりもしたのだが、それはキジュ達が決めること。
キジュもリースも目覚めればニテのキツーイ説教が待っているだろう。

<私が居る間は誰も仲間は死なせない!>
そんな勝手な思い込みを私はしてしまっていた。

その日の夜。明日は結婚式である。
私の家にはニテと私の二人きりである。ニテは夕方には完全回復していた。
ただし、というかやはり、『あいつら目覚めたら説教!』とニテの別人格がうなっていた。
ちなみに今私の前にいるニテはいつものニテである。
ちょっとだけリースとキジュが可哀そうになった。まぁそれで怪我したら無償で私が治してあげよう。
ニテからは「ありがとう!」と最高の笑顔をもらえたので私個人は満足なのではあるが、
『二人に無茶をさせてしまった責任の一端は私にあるんだろうか?』と私が愚痴ると、
『それは本人たちがやったことだから、シュウは何も気にすることはない!』とニテに一蹴された。

その夜、ちょっとだけニテと大事な話をして、
ニテの承諾の元、私の魔法で少しだけ余計な事?をした。

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翌日、教会。
私は正装をさせられて聖堂にいる。
目の前にはウカンデ神殿長。

客席には昨日血だらけで倒れていたキジュやリースもいる。
というか起きて大丈夫なのだろうか?
カリテとウリテは今、ニテの衣装替えに付き合っている。

ゆっくりと聖堂のドアが開かれる。

私から見て左側にカリテ、右側にウリテ、真ん中には綺麗な純白のドレスを着たニテがいる。
私の後ろではシズンデさんが讃美歌らしきものを謳ってくれている。
すごく幻想的な風景だ。
ニテに傷を癒されたことのある冒険者達や、カリテ・ウリテと共に働く建築ギルドの面々。
フェダやチェスター開拓民の面々。みんなが教会に集まってくれている。
ゆっくりと私の元にニテが歩いてきている。

実は昨晩。ニテの承諾を得てしばらく催眠魔法で眠ってもらっていた。
空間魔法で若返りの魔法陣を使った。ニテからしてみれば寝て起きてみたら、若返っていた。
私としてみては異空間で彼女を見守って、魔道具の製造やレベル上げをしていた。
その期間、約10年。外の世界では数時間の出来事ではあるのだか。

ニテと話したのは子供の事。
既にニテは40歳。ウリテの後の子供を作るとしても肉体年齢的要因で正直厳しい。
今日の結婚式で綺麗に輝いてほしいという意味もあり、10歳だけ若返ることに同意してもらった。
一応肉体年齢的には30代前半。これならまだ次の子供を望める。
回りから見ても若く見えるがまだ許容範囲。ドレスと相まって最高に美しい。

カリテとウリテは朝、少し若返っている母を見て驚いていたが、
『『これが幸せってやつなのか~』』と変に納得していた。

二人の手を引かれてニテが私の傍までやってくる。

カリテとウリテから促され、私がニテの手を取る。
二人でウカンデ神殿長の方へ向き直り、跪く。
ウカンデ神殿長が何やら呪文のような言葉を述べると、私とニテを光の柱が包む。

私とニテは夫婦になった。

儀式を終え、私とニテは聖堂の入り口でみんなに言葉をかけてもらった。
サーシャと入籍したときは本当に何の儀式もなかったのだが、
教会での式は非常に簡素なものであった。現世での披露宴のようなものはないようである。

ちなみに、ドレスを作ってくれたソシアにも、儀式を行ってくれたウカンデ神殿長にも
ちゃんと必要経費はお渡ししている。
といっても全部で金貨10枚程度だったので、かなり安くしてくれているのだろう。
ニテのドレスにしても総シルクなのか、光が反射するほどの光沢がある。

これは、契約の儀式。生涯を共にすることをお互いに誓い合う。
何か制約があるわけではないが、どちらかが死ぬその時まで、共に過ごそうという約束。

ニテは、今まで見た中で最高の笑みで私に微笑んでくれた。

その後、純白のドレスのまま、ニテのもう一人の人格が出てきて、
キジュとリースが追いかけられ、ボコボコにされていた。

レベル60オーバーの二人をボコボコにできるニテって、実はレベル30じゃないんじゃないかと正直思った。
レベルでは10倍以上の差がある私ではあるが、2倍の差がある二人がボコボコにされているのを見て、
正直もう少しだけレベル上げしておいた方がよさそうな気がしていた。

私の生涯で初めての結婚式はそんな1日だった。
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