欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A

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18話

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「ここ計算間違っているわ。もう一度やり直してみなさい」

「本当だ。なんでこんなミスしたんだろ」

「注意しろよな」

「ジョニーもここ間違っているわよ」

「あ、やっべ」

 あの事件の後、エリーゼの提案で勉強を教えてもらうことになった。エリーゼ自身は大学に通っていないが、堕天使化していた間に蓄えた知識のお陰で大学教授を圧倒できるレベルだった。

 ここで判明したことだけど、僕の実家に届いていた謎の問題集の数々はエリーゼお手製の物だったらしい。

 大学に合格してもらえばノウドルの近辺に住むことになるから接触できると踏んだようだ。

 どうやって作ったのかを聞いたら、過去問と心理学の見地から傾向を完全に読み切ってそのまま書いたらしい。最初はそれだけを送ろうと考えたけれど、授業についていけなかったら駄目だからとダミーを増やしてあの量になったらしい。

「そういやアリエル、武道とかは教えられないのか?」

「正直怪しいわね。あの時は身体能力が強化されていたから出来ただけ」

「それなら仕方ないな。今後に向けて自衛の手段を持っておきたかったが」

「力に慣れなくてごめんなさいね」

 申し訳なさそうに謝るエリーゼ。

「勉強を教えてもらうだけでも十分力になっているよ。そもそも戦闘はルーシーさんに丸投げすれば良いことだし」

「それもそうだな。俺たちはあくまでも手伝いなんだからな」

 僕達が戦闘員になる未来は訪れず、非戦闘員として活躍する未来が確定した瞬間だった。

「あらもうこんな時間。今日はここまでね」

「ありがとう」

「またな」

 僕は二人に別れを告げ、家に戻ることに。

「おい、離せ!」

 帰宅中、道端で何やら騒ぎになっていた。

「犯罪者をのさばらせるわけにはいかない」

 騎士に取り押さえられている男はその場から逃れようともがいていた。

 別にこの街の治安が悪いわけでは無いが、こういうことは別に珍しいことではない。

 けれど、周囲を取り囲む光景が珍しかった。

「流石ヘルド騎士団だ!」

「街を守ってくれてありがとう!」

 周囲で見ていた市民が過剰なほどに騎士団を持ち上げていたのだ。

 一人の騎士団員がただひったくり犯を捕まえただけで、通り魔のような凶悪犯を取り押さえたわけでもない。だからその光景が不思議でならなかった。

 その後市民が連れてきた警察に犯人を引き渡し、騎士は市民に感謝の言葉を受けつつ去っていった。

「みたいな話があったんですよ」

 そのことをルーシーさんとランセットさんに話してみた。

「ヘルド騎士団ね。ペトロ君が入学する2カ月前くらいにミカ騎士団から独立して出来たんだけど、市民に寄り添って悪を挫く徹底した正義を貫く姿勢が人気なのよ」

 すると、ランセットさんが知っていたようで答えてくれた。

「それでそこまで人気になるんですね」

 別に正義を掲げる団体はいくらでもある。何ならアグネス商会もそれに近い団体と言ってもおかしくは無い。けれど、そういった団体が宗教的人気を誇るかと言えばそういうわけでは無い。

「純粋にカッコいいというのもあるけど、さっきも言った通り徹底して市民に寄り添う姿勢が人気なのよ。有名なもので言えば多方面への寄付とか、騎士になりたい子供たちのために剣の教室を定期的に開いているあたりかしらね」

 更にこの騎士団は国から支援金を貰っておらず、訓練の一環で行う狩りや、騎士を目指す成人への指導によって収益を得ているらしい。

「そこまで聞くと人気なのはよく分かるな。ただ、本当にそいつら真っ直ぐに正義なのか?」

 ルーシーさんは人気に納得しつつも、疑いの視線を向けていた。

「一応騎士団の本部に行けば誰でも金の流れを見られるらしいわよ。話によると不自然な点は一切無いらしいわ」

 本当に清廉潔白な騎士団だった。

「物好きも居たもんだ」

 ルーシーさんも流石に納得したらしく、そう悪態をついていた。



「ちっ、救えなかったか」

 ルーシーさんは暴走した堕天使を目の前に、悔しそうに言った。

 今回暴走している堕天使は、正体不明だ。剣と盾を装備しているので、それ関係の欲望を持った天使だということだけが分かる。

 堕天使には判別方法が無い以上、救えない天使が多いことは知っているが目の前の光景を見ると悲しい気持ちになる。

「とりあえず倒してしまわねえとな。ペトロ、下がってろ」

「はい」

 僕は攻撃を受けないように距離を取り様子を見守ることに。

「え?」

 その下がった先に騎士団がいた。全員が胸に見たことの無いエンブレムを付けていた。つまり、

「我々はヘルド騎士団だ。化け物が暴れまわっていると市民からの通報を受けてやってきた」

 ヘルド騎士団。昨日見た騎士の所属する所だ。10人で来たところを見るに、本気で討伐をするつもりなのだろう。

「アレは危険です。普通の方が相手をしてどうにかなる相手じゃありません」

 騎士団と言っても、超人的な力を持っているわけでは無い。そんな方々を化け物に挑ませるわけにはいかない。

「大丈夫だ。我々はあの程度で倒れるほどやわではない。それに、ただの市民に戦わせて逃げる騎士団はあってはいけない」

 僕の制止も空しく、ヘルド騎士団は堕天使に向かっていった。

「何の用だ。ここは危ないから下がってろ!」

「我々は正義を掲げるヘルド騎士団だ。市民に危険を冒せたまま下がっていられるか!」

 ヘルド騎士団はルーシーさんの制止を無視し、戦闘に参加し始めた。

「ちっ。どうなっても仕方ねえからな!」

 あの人数と共闘することが難しいと判断したのか、一旦僕の所まで引いてきた。

「大丈夫なんですか?」

「分からねえ。あいつらの訓練次第だ」

 犠牲が出ないように祈りつつ見守ることに。

「この化け物の攻撃力は異常だ。一撃も食らわないように注意して立ち回れ!」

「「「はい!」」」

 一人の司令塔を軸に、統率の取れた動きで堕天使を取り囲んでいく。

 理性の無い堕天使はそれを突破することは叶わず、あっという間に体が削られていった。

「なかなかやるな。どうやら口だけではないみたいだ」

 ルーシーさんはヘルド騎士団の戦いぶりを見て認めたらしい。

 それから左程時が経たずして堕天使の討伐を完了した。

「少し話してみるか。行くぞ」

 僕はルーシーさんに連れられ、ヘルド騎士団の元へ向かった。

「お疲れ様です」

「先程の方達か。我々が駆け付けるまで被害を食い止めてくれて非常に助かった。感謝する」

 リーダーと思われる騎士が頭を下げ、それに合わせて部下の騎士達も深々と頭を下げた。

「お前らはアイツのことを知っているのか?」

「いや、正体は分からない。まさか知っているのか?」

「一応な」

「教えてはいただけないだろうか」

「アレは元々市民だ」

「市民?どういうことだ?」

 明らかに天使とはかけ離れた姿をしていたので信じられないようだ。

「何かしらの手段で暴走した結果らしい」

 ルーシーさんは情報をかなりぼかして話した。まだ完全には信用しきれていないようだ。

「そうだったのか……ならばきちんと埋葬せねば。回収してくれ」

「「「はい」」」

 話を聞いた騎士団の人たちはリーダーの指示に従い、死体を回収してどこかへ持って行った。

「どうするつもりだ?」

「丁重に火葬を執り行う予定だ。身元は分からないから騎士団内となってしまうが」

「そうか。どうするかは自由だ。好きにするんだな」

「我々もそうさせてもらう。それでは」

「さようなら」

 騎士団は僕達に別れを告げた後、走り去っていった。

「全部話しても良かったんじゃないですか?」

 騎士団の方々が全員去っていった後、僕はルーシーさんに聞いてみた。

「あの集団はどうも気に入らなくてな」

「どこがですか?とてもいい方々だったじゃないですか」

 言葉の節々から人々を大切にする気持ちがひしひしと伝わってきていた。もし正直に話したら強い味方になってくれると思う。

「良い奴すぎるからだよ。ああいう輩は気付くことなく間違いに進んでいくって昔から決まっているんだ」

 そう答えたルーシーさんの表情は少し悲しそうだった。
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