死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

夢乃アイム

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第二章:魔界式スローライフ

第四十二話:明け方の寝室

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 襲撃の余韻がまだ館の空気に残っていた。
 戦いの喧騒が去ったとはいえ、完全な静寂ではない。遠くで魔族たちが瓦礫を片付ける音が微かに響いていた。
 そんな中、セリオは寝室の椅子に座り、上半身の服を脱いでいた。リゼリアはベッドの端に腰を下ろし、淡々と手当てを進めている。

「大した傷ではないわね」

 そう言いつつも、リゼリアの手つきはいつもより慎重だった。セリオの肩口に残る浅い切り傷に薬を塗りながら、その指がほんの少し震えているようにも見える。
 セリオはその様子に気づいていたが、何も言わなかった。
 リゼリアが包帯を巻きながら続ける。

「お前はもう少し自分を大事にしなさい。前みたいに死なれたら困るのよ」

 淡々とした口調だったが、その言葉の端々に滲むのは焦燥だった。

「前みたいに……か」

 セリオはぼんやりと天井を見上げながら呟いた。
 一度目の復活の時、彼はリゼリアを庇って死んだという。たとえ記憶を失っても、魂にはその痕跡が刻まれているのかもしれない。

「今回の戦いで、何か思い出したの?」

 リゼリアが包帯を結びながら、ちらりと彼を見上げる。

「いや。相変わらずぼんやりとした感覚だけだ」

 セリオは肩を軽く回しながら答えた。

「だが……お前があまり気を張りすぎないようにとは思うな」

 リゼリアはふっと目を細めた。

「……心配されるのは悪くないけれど、私の役目はお前を支えることよ」
「なら、俺の役目は?」
「お前には魔王になってもらうわ」
「いや、そういう意味で聞いてるんじゃない」

 セリオはリゼリアの赤い瞳を覗き込む。
 リゼリアの手が一瞬、止まった。しかしすぐに、包帯の結び目を整え直す。

「……それは、お前自身が決めることよ」

 リゼリアは包帯を整え終えると、満足そうに小さく頷いた。

「もういいわ。あまり動かさなければすぐ治るでしょう」
「そうか」

 セリオが立ち上がろうとしたその瞬間、リゼリアの指がそっと彼の胸元に触れた。

「……まだ少し、触れていてもいいかしら」

 セリオは少し驚いたが、拒む理由もなかった。
 リゼリアの指先は冷たく、しかしどこか確かめるように彼の肌をなぞる。

「お前はいつも、こうして私に手当てされるのを許してくれたのよ」

 リゼリアの言葉に、セリオは微かな違和感を覚えた。それが真実かどうかは分からない。だが、彼女の表情はどこか懐かしさを帯びていた。
 セリオは静かに息を吐き、何も言わずにそれを受け入れた。

 夜明けの光が、窓の向こうで少しずつ強さを増していく。
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