奈落より還る 〜元Sランク覚醒者、ダンジョン最下層からの逆襲〜

夢乃アイム

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【#98】地上・第三話:境界の門

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 ──敵の咆哮が、空間そのものを揺らす。

 クロイツ。エルゴスの処刑人。
 肉体は既に人のものではない。
 骨と金属、魔核と瘴気を溶かし合わせて生まれた融合兵器。
 それが、俺に襲いかかる。

「来い……ッ!」

 全身の筋肉を叩き起こし、ミスティを構える。
 鉄をも砕く腕が振り下ろされる前に、カウンターで一閃。
 だが──効かない。

「硬すぎる……!」

 クロイツの肉体は、ただの防御ではない。
 魔力そのものを吸収・変質させる呪構造を持っている。
 一太刀では通じない。ならば──。

「削るしかねぇな……!」

 俺は踏み込み、連撃を叩き込む。
 ミスティの刃が異形の皮膚を裂き、黒い液体が飛び散る。
 だが、奴は痛みを感じていない。
 口の無い顔で、ただ俺を見つめている。

『蓮、後ろ!』

 ミスティの警告。
 身を捻り、背後から伸びる触手を斬る。
 その隙を突いて、奴の拳が俺の腹にめり込んだ。

「ぐっ……!」

 肋骨が軋む音。視界が一瞬、白くなる。
 けれど、倒れられない。ここで負けたら──。

「……こっちだって、タダじゃねえぞ」

 立ち上がる。剣を構える。
 クロイツの動きが一瞬、鈍った。

 その瞬間を、俺は見逃さなかった。

「ミスティ……!」
『任せて!』

 刃が燃える。
 斬撃に乗せて、力を喰らい尽くす意志を込める。

 ──喰らえ。

 全身全霊の一撃が、クロイツの胸を貫いた。
 奥にあった魔核が、バチバチと音を立てて砕ける。
 断末魔を上げる間もなく、奴は崩れ落ちた。

 静寂。

 俺は肩で息をしながら、目の前の扉を見上げた。
 そこが──本当の最奥。
 だが、扉が開くよりも早く、影が滑り出てきた。

「お見事だ、蓮。君はやはり、“観察に値する”」

 ツェムルス。
 エルゴスの頭脳にして、最も危険な策士。
 全身を黒衣で包み、仮面をつけたその男は、静かに俺を見下ろしていた。

「……観察だと? ふざけるな。お前らがやってることは、ただの虐殺だ」
「違う。淘汰だ。優れた者を残し、劣った者を捨てる。我々はそのために、ダンジョンという“自然”を作った」
「それで人間を魔物にして、街を喰らわせるのか……!」

 握りしめたミスティが震える。

「君たちも同じだよ。何かを犠牲に、力を得た。違いは、我々の支配に従うか、逆らうかだけだ」
「……くだらねぇ理屈で、全部を壊すなッ!」

 怒りが爆発する。
 体が勝手に動き、ミスティを振り抜いていた。
 ツェムルスは軽やかに後退し、腕を振る。
 空間がねじれた。
 直後、周囲の壁が剥がれ、幾つもの触手と魔法陣が顕れる。

「さあ、実験を続けようか──君が“どこまで喰らえるか”見せてもらおう」

 ツェムルス。
 言葉遊びと悪意の体現。

 だが、もう聞き飽きた。

「ミスティ、行くぞ。こいつを超えて、全部終わらせる」
『……ええ。一緒に、終わらせましょう』

 刃が共鳴する。
 ツェムルスとの死闘が、始まった。
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