魂の残響 〜冥府の支配者、還暦からのVRMMO成り上がり〜

夢乃アイム

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第四十九話:冥府の選択

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 誠司は静かに目を閉じた。
 現実に戻るか、それとも冥府の支配者としてこの世界に残るか——
 その選択を迫られていた。

 レクシアは冷静なまなざしで彼を見つめ、ただ答えを待っている。

「……もし俺が、現実に戻ることを選んだら?」

 誠司が問いかけると、レクシアは微かに瞳を伏せた。

「その場合、あなたは《Eternal Fantasia Online》に関するすべての記録を抹消されることになります」
「抹消……?」

「はい。この世界の記憶を失うという意味ではありません。あなたというプレイヤーが、ゲームに存在したという事実そのものが消されるのです」

「……つまり、俺のデータは完全に消去されるってことか」
「ええ。そして、あなたの持つ“冥府の力”も完全に消え去ります」

 誠司は苦笑した。

「そんなことになれば……俺のようなネクロマンサーなんて、ただの雑魚だな」
「ですが、現実世界のあなたは正常に戻るでしょう。現実からの消滅という危機は避けられます」
「……なるほど」

 誠司はゆっくりと息を吐いた。

 選択肢は二つ。

 一つは、ゲームを捨て、現実に戻る道。
 もう一つは、現実を捨て、冥府の支配者としてゲームに残る道。

「……ひとつ、聞いてもいいか?」
「何でしょう?」

 誠司はレクシアの青い瞳をまっすぐに見つめた。

「この世界は、本当に“ただのゲーム”なのか?」

 レクシアは目を細めた。

「あなたは……どう思いますか?」
「……俺にはもう、わからなくなってきたよ」

 誠司は苦笑しながら、頭をかいた。
 この世界は、ゲームの世界なのか? それとも、別の何かの世界なのか?

 最初はただの娯楽だった。気晴らしに始めたVRゲーム。
 けれど、ここでの体験はリアルすぎる。
 この世界の住人は、本当にただのNPCなのか?
AIに過ぎないはずのレクシアは——本当に“作られた存在”なのか?

「誠司さん」

 ふいに、レクシアが誠司の本名を口にした。
 驚いて顔を上げると、彼女は静かに微笑んでいた。

「あなたは、この世界で生きる価値があると感じていますか?」
「……生きる価値、か」

 誠司は、これまでの出来事を思い返す。

 俊也にVR機器をプレゼントされ、気軽な気持ちでログインした。
 ネクロマンサーとしてゲームを始め、アンデッドの戦術を極めた。
 レイドボスを討伐し、特別な称号である《冥府の魔王の証》を得た。
 その力が原因で、現実世界での自分が薄れ始めた。

 ——もし、現実に戻ったとして、俺は何をする?

 会社はもう辞めた。妻もこの世にはいない。
 帰る場所があるとすれば、俊也の家くらいだろうか。

 ならば、ゲームに残ったほうがいいのではないか?

 この世界でなら、俺は何かを成せるかもしれない。
 ここでなら、俺にはまだ“役割”がある。

「……」

 だが、誠司はそこで考えを止めた。

 もし、ここに残ることを選べば、それは——

 現実の自分を完全に捨てるということだ。

「……俺は……」

 言葉が詰まる。

 その時——

 ——ピコンッ

 突然、誠司の視界に新たなメッセージが表示された。

《システムアラート:外部干渉検知》
《強制ログアウト処理を開始します》

「なっ……!」
「……そんな、まさか!」

 レクシアの表情が初めて驚きに染まる。

 次の瞬間——

 誠司の意識は、強制的に引き戻された。

          ※

「——ッ!」

 誠司は激しく息を吐きながら、VR機器を外した。
 周囲を見回す。
 そこは、自分の部屋だった。

「……戻ってきたのか?」

 手を握ったり、顔を触ったりしてみる。
 現実の感触が、ちゃんとある。

「伯父さん!」

 俊也の声がした。

「大丈夫!? 急にログアウトしたから、驚いたんだよ!」
「俺は……戻れたのか……?」

 誠司はまだ混乱していたが、確かに自分は現実世界にいる。

 しかし、スマホの画面を見ると——

 《Eternal Fantasia Online》のアプリが消えていた。

「……」

 ゲームそのものが、跡形もなく消えている。
 俊也もスマホを操作しながら、困惑していた。

「どういうことだよ……! 伯父さん、何があったの?」

 誠司は、しばらく黙っていた。

 そして、ポツリと呟く。

「……俺は、選ばなかった」
「え?」
「俺は、まだ決めていなかった……どちらの世界に残るかを」

 それなのに——

 強制的に、引き戻された。
 レクシアのあの表情。彼女も予想していなかったはずだ。
 ならば、一体誰がこの処理を実行したのか?

「……おかしい」

 誠司は確信した。

 これは、運営の意志ではない。

 《Eternal Fantasia Online》の裏に、何かがある——
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