始まりと菖蒲

クリヤ

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(7)身分違い

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 「おめぇよう、お嬢さんと関わっているってのは本当かい?」
 「関わっているっていうほどじゃあ……」
 「もしな、本当に関わりがあるってんなら、やめときな」
 「それは、どういう……?」
 「分かってるとは思うが、身分違いってやつだよ」
 「そんな大層な話じゃ……」
 「ねぇってのかい? だったら、たやすいことだよな?」
 「どうして親方がそんな話をするんです?」
 「ここのお屋敷の使用人頭によぅ、それとなく言われたんだよ」
 「お嬢さんに近づけさせるなって?」
 「まぁ、簡単に言やぁ、そういうことだ」
 「……分かりました」
 「何かありゃあよ、こっちのせいになっちまうからな」
 「……はい」

 どこから知ったのか、ショウタは親方から釘を刺された。
 身分違い。
 それは、十分に分かっているつもりだった。
 けれど、お嬢さんはショウタを『人』だと言った。
 それをいつしか、ショウタまで当たり前のように思っていた。

 (オレは、いつからこんなに調子に乗っていたんだか……)

 改めて考えてみれば、なんというおっかないことだ。
 お屋敷の主人にバレれば、ショウタのクビなどたやすく吹っ飛ぶ。
 それどころか、ほかの仕事をさせないことだってできるのだろう。

 そんなことを考えているうちに、ショウタは腹がたってきていた。

 (オレがやりたいって言ったわけじゃねぇのに!)

 一方的に叱られる自分の立場が、悔しくて。
 そして、なんだかとっても寂しかった。

 「もう心配は要りませんので」
 「おぅ、悪りぃな。ショウタよ」
 「いえ、オレが間違えていました」
 「う、うん。まぁ、あんまり深く考えんなよ」
 「……はい」

 その日を境に、ショウタは手紙を書くのをやめた。
 用具入れの中に置かれた文箱には、やはりチラリと目をやってしまう。
 けれど、絶対に文箱を開けることはしなかった。

 そのまま、半月が過ぎた。
 お嬢さんとも顔を合わせていないし、文箱に目をやる回数も減った。

 (もう平気だな、やっぱり浮かれてただけだったみてぇだ)

 良かった。
 ショウタは、自分に言い聞かせるように思っている。
 そのことを、自分だけが分かっていない。

 だがこの日、ショウタは思い知らされることになった。
 いつものように、庭仕事の道具を取りに庭の緑色の小屋に向かう。
 習慣のように、チラリと文箱を見る。
 いつもなら、目を逸らして道具を抱える。
 ……はずだった。

 文箱の上に何か置いてある!
 確かめずにはいられなかった。

 雪うさぎ。
 折りたたまれた紙の上に、雪うさぎが置かれていた。
 なぜ、こんなところに? 恐る恐る触ってみるショウタ。
 それは、雪うさぎのかたちをした粘土細工だった。

 白い粘土で作られたうさぎは、少しかたちが悪いようだ。
 不器用な人が、懸命に作ったような。
 そんなかたちをしていた。

 紙を開いてみる。
 『文箱を開けないと呪われます』
 そう、ひとことだけ書いてあった。
 その筆跡は、たしかにお嬢さんのものだった。

 ふふふっと、ショウタは、ひとり笑ってしまう。
 意固地になっていた自分が、バカみたいに思えた。
 
 文箱をためらうことなく開ける。
 バサバサバサッと大量の便箋がこぼれ落ちる。
 まるで文箱からふき出したかのように。
 『だから、早く開ければいいのに!』
 そう言われているような気がした。

 すべての便箋を拾い終わると、ぽつんと落ちているものに気づく。
 どうやら、お守り袋のようだ。
 首からさげられるように、長い紐がついている。
 中をのぞいてみる。
 小さな紙に、ツバキの花で作られた押し花が貼られていた。
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