王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

クリヤ

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第20話 夢見心地

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 だんだんと時間の感覚が無くなってくる。
 場所の感覚さえも。
 いや、そんなはずはない。
 ここは、王宮。
 そんなことは、分かっているはずなのに。

 王子に自分のあふれる気持ちを伝えてしまってから。
 そして、王子が、それを受け入れてくれてから。
 きっと本当は、体の繋がりが出来てから。
 テオの五感は、全てが王子に向かっていた。

 読みたかった本も書かなければならない論文のことも。
 週に一回は、必ず練習をしていた魔導弓のことも。
 昼の家庭教師の仕事さえも。
 全てが、ぼんやりとしていて、やる気が起きない。
 王子が用意してくれる食事をとり、自分を磨く。
 そうして、王子が訪れるのを待つ。
 それだけが、今のテオの生活の全てだった。

 トントン! トントントン!
 扉が叩かれる音は、幸せな時間の始まり。
 主人の留守を待つ忠実なペットのように、テオは耳を澄ます。
 その音が聞こえれば、風のように駆け出して扉を開く。
 王子の開かれた胸に飛び込めば、触れたところからとろけていきそうだ。

 「テオ! 今日は、甘いものを食べに行こう」
 「行こうって、どこにです?」
 「厨房だよ。菓子職人が、テオのためだけに作ったトルテがあるんだ」
 「本当ですか?」
 「もちろんだよ」

 王子は、テオの手を取って部屋から連れ出す。
 廊下には誰もいない。
 王子と手を繋いで、廊下を風のように走り抜ける。
 テオが身に纏う薄い寝巻きが、後ろになびく。
 それは、鳥の滑空のようにも、蝶の羽ばたきのようにも見える。

 「テオ、とても綺麗だ……」
 「ヴィルがいるからです……」

 辿り着いた厨房には、やはり誰もいない。
 王宮の厨房は、一度に多くの食事を用意しなければならない。
 だから、交代制で、いつも誰かがいるはずだった。

 静まり返った厨房の調理台の上には、トルテが置かれていた。
 何段にも重ねられ、テオの身長よりも高いトルテ。
 たっぷりのチョコクリームで、デコレーションされている。

 「すごい! これを私に?」
 「そうだよ。好きなだけ食べて欲しくてね」
 「覚えていたのですか?」
 「もちろんだよ。テオの話は、何ひとつ忘れやしない」

 王子がいれば、それ以上は何も望まない。
 いつもそう言うテオに、王子は困った顔を見せる。

 「私がテオに、何かあげたいんだよ。どうか私の希望を叶えてくれ」
 「ん~、それでは、溺れるくらいトルテを食べてみたいです」

 寝物語に、戯れめいて言ったテオの言葉。
 それを覚えていてくれたことが、テオには嬉しい。

 「おいしい! すっごくふわふわで、甘くて、舌の上でとろけます」
 「ん。私にも味見させてくれ」

 王子の唇がテオに近づいたかと思うと、テオの口内にスルリと舌が入る。

 「んっ、……んむぅ、んんっ! ……んあぁ! ……ぷはぁはぁ」

 甘いクリームと王子の甘い舌にかき混ぜられて、テオの口内は悦びに震える。

 「ヴィル、舌が……。舌が溶けてしまいそうです……」
 「そんなに甘いクリームだったかな?」
 「あ、甘いのは、クリームじゃなくて……」
 「クリームは甘くない? それじゃあ、甘いのはテオかな?」

 ニッコリ笑うと王子は、広く開いたテオの胸元にクリームをのせる。

 「ヴィル、何を……?」
 「だから、味見だよ」

 そう言うと、テオはゆっくりと調理台の上に押し倒される。
 王子の舌が、テオの肌の上のクリームを舐め取る。
 ゾクリ。
 そのゆったりとした舌の動きが、テオの全身に震えを起こさせる。

 「んっ! ヴィル……。こんなところで。……あぁ!」
 「トルテの味見は、厨房で。何かおかしいかい?」
 「で、でも。人が来ちゃう……のでは? ……ンァ、あぁ」

 クリームは、テオの胸の突起にもたっぷりとのせられる。
 パクリと美味しそうに頬張る王子の瞳は、キラリと艶めく。

 「おや? こんなところに、熟した果実が」
 「んあぁ! それは、あぁ! ダメ……」
 「テオの禁断の果実の味、私だけに味わわせて欲しい……」
 「も、もちろんです……。あぁ! でも……。んふぅ、んっ」
 「そろそろ、トルテよりも甘いものが食べたくなってきたなぁ」

 たっぷりのクリームがついた王子の指が、テオの背中をツィーとなぞる。
 テオの背中が、その刺激に、うねるように震える。
 クリームを舐め取る王子の舌は、自由自在に背中を這い回る。
 テオの背中は、グイーッとそり返り、快感を示す。
 自然と腰が揺れて、王子に向かって窪みを差し出すような格好になる。

 「私だけの甘味を味わってもいいかな?」
 「あっ、聞かないでください……。恥ずかしい……から」
 「ふふふ。かわいいなぁ、先生は。まだまだ全てを教えて欲しいよ」
 「んっ、先生と呼ばないで……。イケナイことをしている気分に……」

 王子の指を待つように、窪みはヒクヒクと期待にうごめく。
 指が探り始めると当たり前のように、テオの中は、うねって迎える。
 テオ自身にも王子の手が伸びる。
 前後を押さえられてしまうと、テオはひどく安心する。

 (私の全てを王子が受け取ってくれている……。幸せ……)
 (……あれ? でも、さっき、何かが引っ掛かったような……?)

 王子の言葉に、テオは、忘れている何かを思い出しかける。
 けれど、それも瞬きの間だけ。
 王子自身が、テオの窪みに沈められる。
 今まで足りなかったものを、埋められる感覚に充足感を感じる。
 頭のてっぺんから爪先まで、全ての神経がゾクリゾクリと波打つ。

 「んあぁぁぁ! ヴィル! んくぅぅぅ!」

 耐え切れずに、淫らな声がテオの口から飛び出す。
 厨房に響いた声は、王子の欲を高めるようだ。
 王子の熱い吐息と耐えるような声。
 大きく揺らぐ体が、ますます加速する。
 目の端に、大きな食べかけのトルテが見える。

 (せっかく用意してもらったのに、少ししか食べられなかったな……)

 トルテを惜しいと思う気持ちも、王子の生み出す快楽の前に消える。
 ふわふわキラキラと、頭の中が気持ち良さで満たされていく。

 チャポン、ピシャッ。
 テオが次に意識を取り戻したのは、バスタブの中。
 王子に抱きしめられたまま、たくさんの泡に包まれて。
 窓からは、月明かりが差し込む。
 お湯からは、王子と同じ薔薇の香りが漂う。

 (気持ちいい……。最近、夜が長い……。幸せなのに変だな……)

 ゆっくりと開けられたテオの目に、窓の外の月が映る。

 (上弦の月……。今日も星が綺麗……。ヴィルの瞳みたい)

 自分のいる王宮の違和感に、テオが気づくのはもう少しだけあとになる。
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