代書屋ヒイラギと花言葉

クリヤ

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第3話 悲喜と犬薔薇

(3)縁のある手紙

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 「すぐにお読みになりますか?」
 またしても光る箱に見入ってしまっていたタマキは、その声に驚いて振り返る。
 「……」
 なんと答えていいのか分からずに、黙ってしまったタマキの様子を察したのだろうか。
 家の中から運んできたらしいお盆をテーブルに置いて、その人はお茶の準備をし始めた。
 「わたしはヒイラギと申します。ここで代書屋をやっています」
 自己紹介をしながらも、テキパキとテーブルの上ではお茶が淹れられていく。
 ティポットからガラスのティカップに移されたお茶は、赤く透き通って輝いていた。
 「どうぞ。ローズヒップティです。こちらもよろしければ」
 そう言ってタマキの前に差し出されたのは、ティカップとシンプルなシフォンケーキ。
 お礼を言って受け取ったタマキに向かって、少しだけ口角を上げてヒイラギは頷く。
 タマキも自己紹介をして、先ほどから気になっていることを聞こうとした。
 だが、「冷めないうちにどうぞ」と言われて、お茶とケーキをいただくことになった。
 薄く粉砂糖がかけられたシンプルなシフォンケーキは、口に入れた直後はほのかに甘く、そのあとで卵と小麦の味わいが追いかけてくる。
 その余韻が消えないうちに、ローズヒップティを口に含む。
 すっきりとした酸味が口に広がると、ケーキの余韻はさらりと消えていく。
 「美味しい……」
 自然とタマキの口から言葉がこぼれる。
 お茶を楽しめたのはルカがいなくなってから初めてだ、とタマキは気がついた。

 「この文箱に入っている手紙は、あなたに縁のあるかたからだと思います」
 お茶をいただきながら、タマキはヒイラギからこの不思議な代書屋の仕組みについて説明を受けた。
 比較的、いつものタマキは警戒心の強いほうだと思うのに、ヒイラギの話はスッとタマキの心に届くから不思議だ。
 だけれど、今のタマキは誰のことにもあまり興味を持てないでいる。
 ルカのことばかりを一日中、ぐるぐる考えてしまうからだ。
 (その手紙とやらが、ルカからだったら喜んで読むのに)
 そんなことを考えてしまい、またジワリと目尻に涙が出てこようとするのを感じる。
 スッと鼻から息を吸い、顔を斜め上に上げて涙をこらえる。
 「だけど、ペットからの手紙なんてことは無いでしょう?」
 自分でもバカなことを言葉にしてしまったなとタマキは思いつつも、出た言葉は戻せない。
 「いえ、あり得ます。以前、代書させていただいたことがありますので」
 意外な返答をヒイラギが返したので、タマキは驚いてさらに聞いた。
 「で、でも。あの子たちは、文字なんて書けないですよね?」
 「そうですね。だからこそ、この代書屋の本領発揮といったところでしょうか。
  文字を書けなくても、言葉を話せなくても。
  人であろうと人でなかろうとも、伝えたい思いはあると思います。
  伝えたい思いさえあれば、代書屋はその気持ちを代書することができるのです」
 (それならルカからの手紙かも知れない!)
 先ほどまでの無関心は無かったかのように、タマキはいそいそと読む心づもりを始めた。
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