24 / 46
第3話 悲喜と犬薔薇
(3)縁のある手紙
しおりを挟む
「すぐにお読みになりますか?」
またしても光る箱に見入ってしまっていたタマキは、その声に驚いて振り返る。
「……」
なんと答えていいのか分からずに、黙ってしまったタマキの様子を察したのだろうか。
家の中から運んできたらしいお盆をテーブルに置いて、その人はお茶の準備をし始めた。
「わたしはヒイラギと申します。ここで代書屋をやっています」
自己紹介をしながらも、テキパキとテーブルの上ではお茶が淹れられていく。
ティポットからガラスのティカップに移されたお茶は、赤く透き通って輝いていた。
「どうぞ。ローズヒップティです。こちらもよろしければ」
そう言ってタマキの前に差し出されたのは、ティカップとシンプルなシフォンケーキ。
お礼を言って受け取ったタマキに向かって、少しだけ口角を上げてヒイラギは頷く。
タマキも自己紹介をして、先ほどから気になっていることを聞こうとした。
だが、「冷めないうちにどうぞ」と言われて、お茶とケーキをいただくことになった。
薄く粉砂糖がかけられたシンプルなシフォンケーキは、口に入れた直後はほのかに甘く、そのあとで卵と小麦の味わいが追いかけてくる。
その余韻が消えないうちに、ローズヒップティを口に含む。
すっきりとした酸味が口に広がると、ケーキの余韻はさらりと消えていく。
「美味しい……」
自然とタマキの口から言葉がこぼれる。
お茶を楽しめたのはルカがいなくなってから初めてだ、とタマキは気がついた。
「この文箱に入っている手紙は、あなたに縁のあるかたからだと思います」
お茶をいただきながら、タマキはヒイラギからこの不思議な代書屋の仕組みについて説明を受けた。
比較的、いつものタマキは警戒心の強いほうだと思うのに、ヒイラギの話はスッとタマキの心に届くから不思議だ。
だけれど、今のタマキは誰のことにもあまり興味を持てないでいる。
ルカのことばかりを一日中、ぐるぐる考えてしまうからだ。
(その手紙とやらが、ルカからだったら喜んで読むのに)
そんなことを考えてしまい、またジワリと目尻に涙が出てこようとするのを感じる。
スッと鼻から息を吸い、顔を斜め上に上げて涙をこらえる。
「だけど、ペットからの手紙なんてことは無いでしょう?」
自分でもバカなことを言葉にしてしまったなとタマキは思いつつも、出た言葉は戻せない。
「いえ、あり得ます。以前、代書させていただいたことがありますので」
意外な返答をヒイラギが返したので、タマキは驚いてさらに聞いた。
「で、でも。あの子たちは、文字なんて書けないですよね?」
「そうですね。だからこそ、この代書屋の本領発揮といったところでしょうか。
文字を書けなくても、言葉を話せなくても。
人であろうと人でなかろうとも、伝えたい思いはあると思います。
伝えたい思いさえあれば、代書屋はその気持ちを代書することができるのです」
(それならルカからの手紙かも知れない!)
先ほどまでの無関心は無かったかのように、タマキはいそいそと読む心づもりを始めた。
またしても光る箱に見入ってしまっていたタマキは、その声に驚いて振り返る。
「……」
なんと答えていいのか分からずに、黙ってしまったタマキの様子を察したのだろうか。
家の中から運んできたらしいお盆をテーブルに置いて、その人はお茶の準備をし始めた。
「わたしはヒイラギと申します。ここで代書屋をやっています」
自己紹介をしながらも、テキパキとテーブルの上ではお茶が淹れられていく。
ティポットからガラスのティカップに移されたお茶は、赤く透き通って輝いていた。
「どうぞ。ローズヒップティです。こちらもよろしければ」
そう言ってタマキの前に差し出されたのは、ティカップとシンプルなシフォンケーキ。
お礼を言って受け取ったタマキに向かって、少しだけ口角を上げてヒイラギは頷く。
タマキも自己紹介をして、先ほどから気になっていることを聞こうとした。
だが、「冷めないうちにどうぞ」と言われて、お茶とケーキをいただくことになった。
薄く粉砂糖がかけられたシンプルなシフォンケーキは、口に入れた直後はほのかに甘く、そのあとで卵と小麦の味わいが追いかけてくる。
その余韻が消えないうちに、ローズヒップティを口に含む。
すっきりとした酸味が口に広がると、ケーキの余韻はさらりと消えていく。
「美味しい……」
自然とタマキの口から言葉がこぼれる。
お茶を楽しめたのはルカがいなくなってから初めてだ、とタマキは気がついた。
「この文箱に入っている手紙は、あなたに縁のあるかたからだと思います」
お茶をいただきながら、タマキはヒイラギからこの不思議な代書屋の仕組みについて説明を受けた。
比較的、いつものタマキは警戒心の強いほうだと思うのに、ヒイラギの話はスッとタマキの心に届くから不思議だ。
だけれど、今のタマキは誰のことにもあまり興味を持てないでいる。
ルカのことばかりを一日中、ぐるぐる考えてしまうからだ。
(その手紙とやらが、ルカからだったら喜んで読むのに)
そんなことを考えてしまい、またジワリと目尻に涙が出てこようとするのを感じる。
スッと鼻から息を吸い、顔を斜め上に上げて涙をこらえる。
「だけど、ペットからの手紙なんてことは無いでしょう?」
自分でもバカなことを言葉にしてしまったなとタマキは思いつつも、出た言葉は戻せない。
「いえ、あり得ます。以前、代書させていただいたことがありますので」
意外な返答をヒイラギが返したので、タマキは驚いてさらに聞いた。
「で、でも。あの子たちは、文字なんて書けないですよね?」
「そうですね。だからこそ、この代書屋の本領発揮といったところでしょうか。
文字を書けなくても、言葉を話せなくても。
人であろうと人でなかろうとも、伝えたい思いはあると思います。
伝えたい思いさえあれば、代書屋はその気持ちを代書することができるのです」
(それならルカからの手紙かも知れない!)
先ほどまでの無関心は無かったかのように、タマキはいそいそと読む心づもりを始めた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
秋月の鬼
凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる