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第3話 悲喜と犬薔薇
(2)砂利道
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初めて来る場所には、ルカとの思い出が無い。
思い出す悲しみも無いから、ひとりで歩いていても辛さが薄い気がする。
(どこか公園か本屋さんでもないかな……)
そんなことを思いながら歩いていると、目の前の道に小石がひとつ落ちている。
タマキが子どもの頃は、どこにでも転がっていたものだが、最近はあまり見ない。
懐かしさを感じて、つい子どもの頃のように軽く蹴ってみる。
コーンッと少し長く飛んだあとで、コロコロッと転がっていく小石。
その小石を目で追っていると、舗装されていない道らしきところまで転がって止まった。
(砂利道……? こんなところにもあるんだなぁ)
地方育ちのタマキには、砂利道は珍しいものではない。
ただなんとなく懐かしい気持ちがして、そちらにふらりと向かう。
砂利道に入ると、目に飛び込んできたのは薄い桃色の花が咲いた生垣だった。
ふとタマキの脳裏に、子どもの頃に通学路にあった同じ花の記憶がよみがえる。
(そうだ、この花……。名前は知らないけど、子どもの頃に好きだった花だ)
そんな記憶に引っ張られるように、タマキは砂利道を歩き出した。
しばらくその生垣に沿って、花を見ながら歩いていたタマキ。
生垣が途切れたその先に、一軒の家があった。
その家の小さな庭先にテーブルと椅子が置かれている。
テーブルの上には、何か箱らしきものが置いてあって、それが光っているのが見えた。
(あれは……何?)
よその家の庭を勝手に見るなんて失礼なことを、タマキは普段、まったくしない。
けれども、なぜかその箱から目が離せず、というよりも、見ているつもりもなく見入ってしまっていた。
「何かご用でしょうか?」
その家の縁側に面した大きな窓がカラカラと音を立てて開いたかと思うと、住人らしき人物がサンダルを履きながら庭に降りてきた。
「あ、すみません。勝手に……」
謝りながらも、まだ箱を見続けているタマキに気づいたのか、その人はテーブルの上を見ると続けて言った。
「もしかして、何か見えますか?」
「え? あ、はい。どうして、あの箱は光っているんですか?」
つい、質問に質問で返してしまったタマキに、その人は引き続き問いかける。
「何色に見えますか?」
「何色って、桃色。ピンクでしょう? 何かのひっかけですか?」
「いえいえ。とんでもないです。ここに来る前に桃色の花を見ました?」
おかしなことを聞く人だと思いつつも、タマキは答えてしまう。
「ああ、あの生垣の花ですよね? なんという花か、名前は知らないですけど」
「なるほど。こちらへどうぞ。お手紙が届いていますので」
いつものタマキなら、見知らぬ人の家に誘われて入るようなことは決してしない。
だがこの時は不思議なことに、行かなければいけない気がした。
案内された庭は、こぢんまりとしていたが、スッキリと整えられていた。
低木の緑と玉砂利の白色が目を惹き、スゥッと風が通り抜ける気持ちの良い庭だった。
外から見えた椅子をタマキに勧めると、この家の住人はサッと縁側から家に入っていった。
タマキの目の前のテーブルには、いまだ桃色の光を放つ箱が置かれている。
思い出す悲しみも無いから、ひとりで歩いていても辛さが薄い気がする。
(どこか公園か本屋さんでもないかな……)
そんなことを思いながら歩いていると、目の前の道に小石がひとつ落ちている。
タマキが子どもの頃は、どこにでも転がっていたものだが、最近はあまり見ない。
懐かしさを感じて、つい子どもの頃のように軽く蹴ってみる。
コーンッと少し長く飛んだあとで、コロコロッと転がっていく小石。
その小石を目で追っていると、舗装されていない道らしきところまで転がって止まった。
(砂利道……? こんなところにもあるんだなぁ)
地方育ちのタマキには、砂利道は珍しいものではない。
ただなんとなく懐かしい気持ちがして、そちらにふらりと向かう。
砂利道に入ると、目に飛び込んできたのは薄い桃色の花が咲いた生垣だった。
ふとタマキの脳裏に、子どもの頃に通学路にあった同じ花の記憶がよみがえる。
(そうだ、この花……。名前は知らないけど、子どもの頃に好きだった花だ)
そんな記憶に引っ張られるように、タマキは砂利道を歩き出した。
しばらくその生垣に沿って、花を見ながら歩いていたタマキ。
生垣が途切れたその先に、一軒の家があった。
その家の小さな庭先にテーブルと椅子が置かれている。
テーブルの上には、何か箱らしきものが置いてあって、それが光っているのが見えた。
(あれは……何?)
よその家の庭を勝手に見るなんて失礼なことを、タマキは普段、まったくしない。
けれども、なぜかその箱から目が離せず、というよりも、見ているつもりもなく見入ってしまっていた。
「何かご用でしょうか?」
その家の縁側に面した大きな窓がカラカラと音を立てて開いたかと思うと、住人らしき人物がサンダルを履きながら庭に降りてきた。
「あ、すみません。勝手に……」
謝りながらも、まだ箱を見続けているタマキに気づいたのか、その人はテーブルの上を見ると続けて言った。
「もしかして、何か見えますか?」
「え? あ、はい。どうして、あの箱は光っているんですか?」
つい、質問に質問で返してしまったタマキに、その人は引き続き問いかける。
「何色に見えますか?」
「何色って、桃色。ピンクでしょう? 何かのひっかけですか?」
「いえいえ。とんでもないです。ここに来る前に桃色の花を見ました?」
おかしなことを聞く人だと思いつつも、タマキは答えてしまう。
「ああ、あの生垣の花ですよね? なんという花か、名前は知らないですけど」
「なるほど。こちらへどうぞ。お手紙が届いていますので」
いつものタマキなら、見知らぬ人の家に誘われて入るようなことは決してしない。
だがこの時は不思議なことに、行かなければいけない気がした。
案内された庭は、こぢんまりとしていたが、スッキリと整えられていた。
低木の緑と玉砂利の白色が目を惹き、スゥッと風が通り抜ける気持ちの良い庭だった。
外から見えた椅子をタマキに勧めると、この家の住人はサッと縁側から家に入っていった。
タマキの目の前のテーブルには、いまだ桃色の光を放つ箱が置かれている。
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