魅了なんて、オレには効かない

クリヤ

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第1章 王都脱出

(3)騎士道

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 *****

 「王子。残念ですが、あなたの命はここまでです」

 数人の金色のローブを着た者たちが、王子を待ち構えていた。
 全員が同じ金色の仮面をつけていて、顔は分からない。
 しかし、その声は女性のものだった。
 体つきから察するに、全員が女性のようだ。

 そのことに気づいた王子は、たじろぐ。
 女性と剣を交えるなど。
 ましてや、倒すなど。
 騎士道精神に反するもの。

 「わたしは、女性に剣を向けることなどできない。
  このまま去ると言うのなら、見逃してやろう」

 王子が凛とした声で、言う。
 王族には、不思議な力がある。
 『王の声』と呼ばれているものだ。
 その声で語ると、相手は自然と従ってしまう。
 国家をまとめる者として、必要かつ有用な力だった。
 この声を聞けば、相手は引く。
 そのはずだった。

 「バカな王子め! ここで死ぬがいい!」

 『王の声』は効かず、ローブの者のひとりが斬りかかってくる。

 カキン!
 その刃を防いだのは、ティムの剣。

 「王子! 今は仕方がありません! 倒します!」

 勇ましく王子の前に飛び出し、相手を打ち倒す。
 次々と襲いかかる敵も、ティムの前では子どものようだ。

 数人のローブの者たちは、あっという間に倒される。
 王子が手を出すまでもなく。

 ティムが、倒した者たちの剣やローブをはぎ取っていく。

 「ティム? 何をしているのだ。
  そのような死者の尊厳を失わせるようなことを」
 「王子、お許しを。
  今の我々には、金銭を得る手段はこれしか無いのです」
 「金銭? どういうことだ?」
 「それも、のちほど説明致します。今は、急ぎましょう」

 ティムは、ここが王族の避難通路だと言った。
 知る者は少ないとも。
 それなのに、待ちぶせされていたのは、なぜだ?
 王子は、混乱する。
 まさか!
 まさか、あの平和な王都に、いや、身近にか?
 自分を陥れようと画策する者がいるのだろうか?
 王子は、絶望に身を貫かれそうになる。

 「王子、気をしっかりとお持ちください」
 「しかし……」
 「大丈夫、わたしがついています」
 「うん……」
 「この身を賭してでも、必ずや王子をお守り致します」

 ティムの頼もしい言葉に、絶望感が薄れていく。
 そうだ、この背中だ。
 この背中についていけば、大丈夫。
 いつだって、そうしてきたじゃないか。
 愛しいティム。
 おまえがいれば、どこだって、そこが楽園だ。


 ***

 「わたしは、女性に剣を向けることなどできない。
  このまま去ると言うのなら、見逃してやろう」

 王子が、いかにも王子らしく胸を張って凛とした声を出す。

 (いや、バカなの? 暗殺者が、そんなんで引くわけねぇだろ)
 (そもそも、ここ『BLの世界』だから!)
 (なんなら、敵が全部、女性だからね!)

 王子の能天気さに、つい心の中でツッコんでしまう。
 案の定、敵は王子の声など無視して斬りかかってくる。
 オレは、すかさず王子の前に出る。
 剣を受けて、さらには次々と敵を倒す。

 (おお! ティム、すげぇじゃん!)

 ゲームの中の戦闘は、コントローラーのボタンを押すだけ。
 はたしてオレに戦闘なんか、できんのか?
 と思っていたら、勝手に体が動いた。
 ティムの記憶が、そうさせるようだ。

 (まずは、装備をゲットして、どっかで売らないとな)

 敵の装備を、オレは嬉々として、はぎ取る。
 このゲームの最初の暗殺イベントは、このあとの旅のため。
 旅に出るにも金がかかる。
 ここでゲットした装備を売れば、次の街で宿屋に泊まれる。

 「ティム? 何をしているのだ。
  そのような死者の尊厳を失わせるようなことを」

 (うわ! めんどくせぇ! そうだった、王子がいるんだった)

 ゲームの中では、王子は自分の良心と葛藤しながらも。
 金が必要になり、装備をはぎ取ることになる。
 とはいえ、ゲームだとプレイヤーが王子。
 当たり前のように、敵の装備をはいで売る。

 「王子、お許しを。
  今の我々には、金銭を得る手段はこれしか無いのです」

 (納得するか? でも、金は必要なんだよなぁ)

 無言でうなずき、そのあとは、なぜかボーッとしている王子。

 (おいおい、大丈夫か? このイケメン王子)

 自分がプレイヤーの時には、もっと凛々しく見えていて。
 どんどん旅を進めていくイメージだったのだが。
 なんとなく、違和感がある。
 自分が動かしていないからか?

 (とりあえず、安心させとくか)

 「王子、気をしっかりとお持ちください」
 「しかし……」
 「大丈夫、わたしがついています」
 「うん……」
 「この身を賭してでも、必ずや王子をお守り致します」

 オレの口からカッコいいセリフが飛び出す。
 これは、ティムの記憶が言わせてる?
 言ってるオレにもズキュンとくる。

 王子が顔を上げる。
 その顔は、真っ赤に色づき。
 宝石のように澄んだ瞳が潤んでいる。
 その瞳からひと粒の涙がこぼれる。

 (え? 王子、かわいいんですけど? どういう……)

 王子がオレに飛びついてきて、そのまま唇をふさがれる。
 誘うように開かれる桃色の唇。
 オレは、ためらわずに舌をからませる。
 王子の呼吸は荒くなり、オレを抱きしめる腕に力が入る。

 (ええっと。このおいしい展開は……?)

 王子の唇を堪能しながら、オレはティムの記憶を探る。

 私室のベッドで、たわむれる王子とオレ。
 王子の首に落とした唇は、少しずつ範囲を広げて。
 胸の突起にまでたどり着く。
 唇と同じ桃色のそれに、オレは唇をつける。
 じっくりと味わい、ぷっくりと膨らませる。
 王子の体は大きくのけぞり、その足が開かれて。

 (ちょ、ちょ、ちょっと! ティム、そういうこと?)
 (そりゃ、『この身を賭して』守るわ。激ラブじゃん!)
 (今は、中身がオレだけど、いいのかな?)
 (いや、体はティムだし。いいのか? いいよな?)

 都合よく判断したオレは、引き続き、王子を味わう。

 「ティム、いつもみたいにしてくれないの?」
 「いつもみたいに、とは?」
 「もう! いじわるなんだから!」

 王子は嬉しそうに言うと、オレに首を見せつける。

 「いつもみたいに、ここに刻んで」
 「ふふ。喜んで、王子さま」
 「いやっ! ルイって呼んで。ふたりの時は」
 「ルイ、好きだよ」
 「ふふふ」

 王子の白く艶やかな首に唇をつける。
 もどかしそうに動く首。
 そのまま、吸い尽くす。
 ひとつでは満足できずに、いくつもいくつも。
 「あぁっ!」
 ひとつ刻まれるたびに、声をあげる王子。
 その姿に、ますますあおられて唇の跡が増えていく。

 追っ手がかかるような状況で、これ。
 この先、大丈夫なのか?
 そう思わなくもなかったけれど。
 つい、つい。
 再び、王子とオレが道を進み出したのは、もう少しあと。
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