魅了なんて、オレには効かない

クリヤ

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第1章 王都脱出

(12)影ギルドと砦跡の吸血鬼

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 廃屋はすぐに見つかった。
 小綺麗に整えられた街の中。
 一軒だけボロく、崩れかけている。
 周りに誰もいないことを確認して、裏口から入る。
 中もボロボロで、壊れた家具や階段の名残りが目に入る。
 ヒヤリ。
 誘うような冷たい風が、どこからか吹いてくる。
 風の吹いてくる方向を見極めようと目をこらす。
 その瞬間に、室内すべてが明るく見える。

 (これが、吸血鬼の暗視か……)

 人の目では気づけない模様が壁に描かれている。
 ティムは、その模様に従って進む。

 ほどなく、隠されていた地下室への扉が見える。
 ドクロが描かれた赤黒い扉。
 扉を叩く。
 中から不気味な声が応える。

 「影は、なんのために存在するのか」

 あらかじめ、あの農場で聞かされていた言葉を答える。

 「この世界を正すために」

 ギィィィ。
 軋む音とともに、扉が開かれた。

 農場に現れた影の男が待っていた。

 「ようこそ、影のギルドへ。我が同志よ」
 「同志? このギルドに入ったつもりはないが?」
 「ははは。ギルドに入るかどうかは、問題ではないのです。
  志を同じくすることこそが、同志。
  我らに聞きたいことが、おありのようだが?」
 「なぜ、それを?」
 「我らは影。影は、どこにでもあるもの。それが、日の当たる場所であっても」
 「単刀直入に、尋ねよう。金色のローブの者たちに心当たりは?」
 「ええ。あります。我らとは、まったく異なる目的で動く集団です」
 「あの者たちとゴルトの姫とは、関係が?」
 「大いにあります。ただ、具体的にどのような関係かは未だつかめていません」
 「なぜだ? 影の者ともあろう者が」
 「問題は、魅了魔法です。ゴルトにいるという伝説の金色の魔女。
  やつの使う魅了魔法は、広範囲かつ強力です」
 「知っている」
 「あなた様もご覧に?」
 「ああ。場所の詳細は言えないが、この目で見た」
 「しかし、あなたには魅了魔法が効いていないようだが?」
 「そうだ。わたしのほかにも、効かなかった者はいる」
 「やはり、そうでしたか。我ら同志の中にも効かなかった者がいます。
  それらの者を、ゴルトに派遣して調べを進めているところです」

 「ひとつ、いいか?」
 「なんでしょう?」
 「影のギルドは、暗殺者集団ではないのか?」
 「ははは。それは、ワザと流した嘘の情報です。
  本来の役割は、まったくの反対なのです」
 「反対というのは?」
 「今日のところは、ここまでにしておきましょう。
  寝首をかかれる心配は、なさらなくても結構ですよ」
 「だが……」
 「我々は、あなた様がどなたか存じております。
  どなたと行動をともにしているのかも。そして、現在の状態も」
 「なにっ? 本当か?」
 「ええ。我らが敵ではない証しに、これを差し上げましょう」
 「これは?」
 「魔導具のひとつです。このフードをかぶれば、日の光の下でも動けます。
  それに、その赤い目も隠すことができます。
  ただし、完全にではない。回復魔法は、お忘れなく」
 「なぜ、このようなものを持っている?」
 「我らの中には、力を得るために吸血鬼となる者がいます。
  その者たちの利便性のために、作られたものです」
 「なるほど」
 「あなた様も吸血鬼を治すかどうかは、よくお考えを。
  大切な人を守らねばならぬ間は、そのままという選択肢もあるかと」
 「魔導具、感謝する。吸血鬼のこともよく考えよう。
  あなたがたの協力を取り付けたと考えてもいいのだろうか?」
 「ええ、もちろん。この件に関しては。
  それから、あなたに暗殺者の資質があると言ったのは本当です。
  いつでも、加入いただいて結構ですよ?」
 「ははは。考えておこう。ちなみに、暗殺者の資質とは?」
 「必要ならば殺しも辞さない覚悟があること、です。
  あなたは、あのかたのためならば、そうあるのでしょう?」
 「もちろんだ」
 「そういうことです。誰彼構わず殺す集団ではないとご理解を」
 「よく分かった」

 影の者との面談を終えて、こっそりと外に出る。
 未だ、月は煌々と輝いている。
 街の衛兵に見つからないように、素早く裏道を急ぐ。
 ふと、ティムは吸血鬼の能力とやらを試してみようと思い立つ。
 左手をぎゅっと握って開く。
 人の目には見えない透明な光がボウッと輝く。
 それから、街を巡回している衛兵の前を通る。
 衛兵は、あくびをしていて、こちらには無反応だった。

 (うん。これは、役に立ちそうだ)

 王子のことを思い出して、ヤンの店へと急ぐ。
 音もなくヤンの店の二階へと戻ると、王子は眠っているようだった。
 その穏やかな寝顔を見て、安心のため息をつく。
 服を脱いで、スルリと王子の横に入り込む。

 「ん……、ティム……? どこにも行くな……」
 「ルイ……」

 またかわいらしい寝言を聞いて、ティムは愛しさが込み上げる。
 腕を王子の首の下に回すと、王子が無意識に抱きついてくる。
 ティムも、その胸板に王子の頭を抱きしめて眠りについた。


 ***

 オレは、さっそく影ギルドの拠点に向かう。
 廃屋は、すぐに分かる。

 (この不自然なボロ家。ちょっと、笑える)

 吸血鬼パワーで、影ギルドの入り口を探す。

 (おお! 吸血鬼、便利じゃん! 隠密能力も激増してるし)

 気味の悪い影ギルドの扉は、すぐに見つかる。
 扉を叩くと、符牒のようなものを要求される。

 (そうそう! これ、クエスト一覧に書いてあったわ)

 「影は、なんのために存在するのか」
 「この世界を正すために」

 正しい答えだったらしく、扉が開けられる。
 農場に現れた気味の悪い男が待っている。

 男の話は、オレがゲームで知っていることと違った。

 (いやいや、影ギルドって暗殺者集団だっただろ~!)
 (加入しなくても、いいのかよ~!)
 (それで、ここも魅了魔法に困ってるのかよ?)

 やっぱり、この世界。
 ゲームの世界とは、大きくねじ曲げられているようだ。
 そりゃ、そうだ。
 もうちょっとヌルい、BLゲーだったはずだもんな。
 影ギルドも、基本的には金稼ぎのために存在してて。
 ほかにも、影ギルドだけで売ってる魔法や装備が買えるとか。
 そんな程度で、メインストーリーには関係しない。
 最終的には、内紛で崩壊するってサイドストーリーだったはず。

 男の話を聞いてると、魅了魔法を使う魔女に対抗するために。
 共闘しましょう、ってことだもんな。

 これって、メインストーリーに影ギルドも出てきちゃうってこと?
 ま、でもお話としては、そっちのほうが自然か?

 しかも、魔導具までくれるとは!
 影ギルド、いいやつじゃね?

 (ずっと見張られてるのは、ちょっとイヤだけどなぁ)

 特に、王子とのお楽しみはねぇ!
 ま、外でも色々やっちゃってるから今さらか?

 それにしても、透明化は、ある意味最強だな!
 隠密っていうレベルじゃなく、色々役に立ちそうだ。

 こっそり王子の元へ戻ったオレを迎えるのは、かわいい寝言。

 「ん……、ティム……? どこにも行くな……」

 その寝言を聞いて、オレの胸に込み上げるのは……?
 なんでだ? なにかが、おかしい。
 ゲームのキャラだぞ。
 推しだからって。胸がじわっとする、この気持ちはなんだ?


 *****

 翌朝。
 ヤンとトマスとともに、朝食を食べる。
 当然、赤い目のことを問われる。

 「やはり、目が赤い。体調は、どうだ?」
 「うん。むしろ、いいくらいだ。力がみなぎっている感じだ」
 「そうなんだよな。吸血鬼も悪いことばかりじゃないらしい」
 「実は、うちのギルドにも吸血鬼になったやつはいる」
 「本当か? なぜ?」
 「魔法を極めていく過程で、人では限界があると思ったらしい」
 「もしかして、それで治療法をギルドが知っているのか?」
 「そうかも知れないな」
 「トマスは、吸血鬼になろうと思ったことは?」
 「ヤン。それはない。オレは、究極魔法まで興味はないし」
 「ないし?」
 「おまえとともにいたいからな」
 「ははっ。嬉しい、トマス」
 「朝から、いちゃつくなぁ。吸血鬼だとともにいられないのか?」
 「そうだ。人とは寿命が違うからな」
 「ああ、そういうことか」
 「おまえも、ルイとずっといたかったら、早く治せよ?」
 「はは。忠告ありがとう」
 「今日は、どうするんだ?」
 「まずは、砦跡に行ってみようと思っている」
 「気をつけろよ、かなりの数の吸血鬼がいるらしいから」
 「うん。だが、魔術師ギルドにも吸血鬼がいるとなるとな」
 「なんだ?」
 「砦跡の吸血鬼を倒していいのか、と思ってしまうな」
 「ああ、そのことか。あいつらは、吸血鬼だから討伐対象なんじゃない」
 「と、言うと?」
 「人や家畜を襲うからさ。山賊や野盗を倒すのと同じことだ」
 「そうか。確かに、その通りだな」
 「だから、気にせずに倒してもらえば、助かる」
 「分かった。マイスターのことは、頼んでいいか?」
 「それは、まかせておいてくれ。きっと大丈夫だ」
 「頼む」

 ティムは、砦跡に向かうにあたり、少し悩んだ。
 王子をどうするか、ということ。
 外で待つのは危険だが、今ならヤンの店で待つことができる。

 「ルイ、砦跡なんですが、わたしひとりで……」
 「なんて、行かせない」
 「はい? ええと。ですが、ルイを危険な目にあわせるのは……」
 「前も言ったが、おまえの側以上に安全な場所などない」
 「ですが、今回は……」
 「おまえは、わたしを甘く見ている。わたしだって、訓練は受けている。
  それに、いざとなれば、カッツェンに変身だってできる」
 「そうですが……」
 「うるさい。王子の命に従えないのか?」
 「いえ……。わたしは、王子の能力を疑っているわけではないのです。
  ただ、危険な場所に愛しい人を連れて行きたくはないと」
 「ティム……。それは、わたしとて同じだと分からないのか?
  ひとり待つ身の辛さのほうが、危険よりもよっぽど怖いのだと」
 「王子……」
 「ルイだ。さっきの、王子の命と言ったのは……」
 「分かっています」

 ティムは、王子への愛しさが抑えきれずに王子の唇を探ってしまう。
 そのまま、衣服をスルリと落とす。

 「……ティム。朝なのに……。出かけないといけないのに……」
 「すみません、ルイ。あなたは、甘い砂糖菓子のようなもの。
  どうして口にできずにいられましょうか……」
 「ティム……」

 首筋から下へ、胸の突起はすでに期待に膨らんでいる。
 それを、さらに吸い尽くして張りつめさせる。
 割れた腹筋の溝にも舌を滑らせる。
 クルリと回して、背中にも。
 隅々までさわっても、まだ足りない気がする。
 王子の顔が、赤く染まる。

 「っく、……あぁ、ふぅ、……っつ。ん、んん、あぁ!」

 抑えようとしていた声が、王子の口からこぼれ出す。
 その声を耳元で聞かされると、理性とやらはどこかへ吹っ飛んでしまう。
 ティムがすべてを出し切ると、王子はぐったりとして動かない。

 (このまま、置いて行こうか?)

 そんな気持ちがよぎる。
 そんなティムの心を察したかのように、王子が気怠さをガマンして起き上がる。

 「置いて行ったら、許さない……」

 紅潮した顔で言う王子が、あまりに愛しくて。
 ティムは、王子を強く抱きしめる。

 「ルイ。ともに行きましょう。わたしも離れたくはない」
 「ふふ。ティム、良かった……」

 十数分後、ようやくふたりは準備を整えて、砦跡へと向かう。
 階下で調合の仕事をしていたヤンに冷やかされながら。


 ***

 オレの赤い目を見て、ヤンもトマスも動揺しなくて助かった。
 魔術師ギルドにも、吸血鬼がいるってことは慣れているのか?

 それにしても、影のギルドにも吸血鬼はいるようだし。
 オレも今、吸血鬼だし。
 言われてるほど、吸血鬼ってこの世界でも伝説じゃなくね?
 一般の人が知らないってことなのか?

 あと、寿命のことは盲点だったわ。
 ゲーム世界って、何年過ごしてもNPCは年取らないじゃん。
 そういうもんだって思ってたから。
 寿命がズレるって言われて、急に実感が湧いた。
 あ、オレ。ここに生きてるんだって。
 今まで、なんだかんだ言ってもゲームの世界って思ってたからなぁ。
 風が吹いて、雨が痛くて、雪が冷たくても、なかった実感。
 『寿命』なんて言葉で、急に感じるなんてなぁ。
 オレって、このあと、どうなるんだろ?
 考えたこと、なかったわ。

 そんで、王子。ヤバすぎる。かわいすぎる。
 吸血鬼状態のオレには、正直、足手まといかなとも思ったんだが。
 そんなこと言われちゃ、連れて行くしかないっしょ?


 *****

 影ギルドの男にもらったフードを身につけて、衛兵の前を通る。
 特に、何も言われない。
 魔導具の効果は、あるようだ。
 日の光への耐性は、やはり完全ではないらしい。
 ほとんどの光を遮ってはくれるようだが、それでも。
 さほど明るくもない空の下を歩いているとは思えないほどの痛みはある。
 ジリジリと焼けつくような痛みだ。
 ティムは、回復魔法を自らにかけ続けながら進む。

 吸血鬼たちは、昼の間は砦跡から出ないとは思うが。
 念のため、馬は置いて行くことにした。

 砦跡は、本当に街からすぐのところにあった。
 外からは、廃墟にしか見えない。
 誰かが潜んでいるようにも思えない。

 「扉に鍵がかかっているようです」
 「どうする?」
 「壊すこともできますが、ムダに気づかせる必要もない」

 ロックピックを使って開けようと試みる。
 いくつか旅の途中で、手に入れていた。
 しかし、意外にむずかしく、数本のロックピックはすぐに折れてしまう。
 
 「わたしにまかせてくれ」

 王子が意外なことを口にする。
 そして、左手をぎゅっと握って開く。
 オレンジ色の光が、ボウッと現れる。
 それから、鍵穴に向かってその手をかざす。
 カチャリ。
 小さな音とともに、鍵が開く。

 「え? 王子? そのような魔法をいつの間に?」
 「ふふふ。わたしにだって、ティムの知らない秘密くらいあるさ」
 「ははっ! なんて魅力的な人なんだ、あなたは」
 「わたしを連れてきて良かっただろう?」
 「ええ! もちろんです」

 王子が小声になってティムの耳元で言う。

 「ティムの部屋に行きたくて、こっそり覚えておいたんだ」
 「ルイ……」

 ティムの唇がその唇にふれると、王子は満足気に笑う。

 「帰ったら、褒美をくれるだろう?」
 「もちろんです。先ほどみたいな手加減はできませんよ?」
 「ふふ。楽しみにしている」

 ふたりは気を取り直して、砦跡への潜入を始めた。

 外から見るよりも、砦の中は傷んでいないようだ。
 湿気が多く、カビ臭さがあるが、耐えられないほどではない。

 足音をさせないように、隠密姿勢のまま進む。
 通路の途中で、さっそくふたりの吸血鬼を見つける。

 「なぁ、今日はどこの村を襲おうか?」
 「少し、遠くまで行ってみるのもいいんじゃないか」
 「そうだな。このあたりばかりだと戦士ギルドがうるさいしな」
 「はっはっは。あの腰抜けどもか。見回るばかりで攻めてもこない」
 「確かに。山賊どもには強気のくせにな」
 「吸血鬼は、最高だぜ」
 「ちげぇねぇ!」

 おそらく見張りの吸血鬼だろう。
 誰も来ないと思っているのか、警戒をしている様子はない。
 ティムと王子は、隠密姿勢から弓を構える。
 ヒュン!
 同時に、矢が音もなく放たれる。
 どちらも吸血鬼の首に命中するが、倒れない。
 そのまま、あっという間に目の前に現れる。
 ティムは、すかさず剣に持ち替えてひとりの吸血鬼の首を落とす。
 もうひとりのほうを振り返る。
 王子に向かっていった吸血鬼は、すでに灰になっていた。

 「ルイ⁉︎  ケガは?」
 「ない。大丈夫だと言っただろう?」
 「それは……?」
 「昨日、トマスが短剣に付呪してくれたんだ。銀と同じ効果があるらしい」

 吸血鬼は、どういうわけか銀を嫌う。
 銀の武器を作れば倒せるが、銀には問題がある。
 柔らかく傷つきやすい上に、錆びやすい。
 錆びてしまえば、もはやそれは銀の効果を発揮しない。
 それゆえ、銀の武器は作ることができないのだ。

 魔術師ギルドでは、その問題を解決するための魔法を研究した。
 そして、付呪というかたちなら銀と同じ効果を出せることが分かった。

 「ただ、試すことができなくて困っていたらしい」
 「それで、ルイが実験台に?」
 「そんな言いかたをするな。これが一般化すれば、助かる人は多い」
 「ええ。そうですが」
 「ふふ。ティムは、過保護すぎる。ともかく、これは効く。
  わたしも戦えるのだから、安心して前に進もう」
 「はは、そうですね」

 首を落としたほうの吸血鬼は、ゆっくりと灰になっていた。
 ふたり分の灰を集めて、荷物へ入れる。

 そのあとも吸血鬼たちは、ほとんどが油断した状態だった。
 ふたりひと組ではいるものの、雑談をしながら無警戒。
 ティムと王子は、次々と吸血鬼たちを倒していった。

 砦の最奥には、司令官室が存在するのが通常だ。
 吸血鬼たちをまとめている者がいるとすれば、そこだろうと見当をつける。
 予想通り、そこには数人の吸血鬼と明らかに豪華な鎧を身につけた者がいた。

 「ティム、どうする? ふたり以上いるが」
 「まずは、いつも通り隠密で弓を使いましょう。
  人数が多いので、できれば一発で仕留めたい。
  ルイ、矢に炎をつけることはできますか?」
 「即席の火矢ということか? やってみよう」

 王子が炎魔法を手のひらに出し、そこに矢を近づける。
 うまく矢に魔法が移る。
 燃えているわけではないから、そのまま持っていることができる。

 「うまくいきましたね。それでは、同時に射かけましょう」

 ふたりが同時に矢を放つと、吸血鬼に命中する。
 命中した途端に、魔法の炎は発動して燃え上がる。
 炎も吸血鬼の弱点と言われている。
 しかし、素早い吸血鬼には、火矢も炎魔法も当てるのがむずかしい。
 だから、その倒しかたは現実的ではないと思われていた。

 仲間が倒されたことに気づいた残りの吸血鬼が、飛ぶようにして近づいてくる。
 ティムはそれらを剣でなぎ払い、王子は短剣で応戦する。
 どうにか、残りも倒すことができた。

 「残りは、あとひとりです。ですが、ご注意を」
 「うん。あいつは、ほかのやつらと違う」

 豪華な鎧に身を包んだ吸血鬼が、怒りに燃えているのが分かる。

 「オレの手下たちを殺しやがって。
  おまえらの血を一滴残らず、吸い取ってやる」

 そういうと、その吸血鬼は両手の手のひらを握りしめた。
 赤黒い光が両の手に宿る。
 その手のひらを、ティムと王子に向けて開く。
 すると、赤黒い霧のようなものが手のひらから放出される。
 それは手のひらから離れずに、ティムと王子に向かってくる。

 「なんだ、これは? 苦しい……」
 「ルイ!」

 王子は少しずつ、血の気を失う。
 ティムには、効いていないようだった。
 ティムは、すかさず、その吸血鬼に飛び掛かる。
 その攻撃を避けようとした吸血鬼の魔法が途切れる。
 ティムが首を狙うが、うまく入らない。
 力比べでは負けそうだ。
 どうするべきか、ティムが悩む。
 ふわり。
 その瞬間に、遠くから一瞬で近づいてきた王子が吸血鬼に短剣を差し込む。
 
 「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 断末魔の叫び声を上げて、吸血鬼の体が燃える。
 すぐに、その場でサラサラと灰になって崩れ落ちた。

 「ルイ⁉︎」

 すぐ横では、カッツェンに変身した王子が肩で荒い息をしている。

 「ど、どうだ……。あ、足手まといなんかじゃ、……ない、だろう?」
 「もちろんです。ルイ。今、癒しを」

 王子がカッツェンとなって、その俊足を使って飛び込んできたのだった。
 ティムの危機を見て。
 すぐに癒しをかけるティム。
 いつものように、困ったあえぎ声を出す王子だったが。
 ティムはただ、ぎゅっと抱きしめて癒しをかけ続けた。

 「ティム、泣いているのか?」
 「いえ。これは……」
 「わたしは大丈夫だと言っただろう? 少し血は減ったが」
 「はい。ルイがいてくれて助かりました。でも!
  あまり無茶はなさらずに。こちらの心臓が止まります」
 「ははは。それは困る。そうだ、これを」

 そう言うと王子は、自分の指をカッツェンの牙でプツリと傷つける。

 「何を⁉︎」
 「早く飲め。こぼれる」

 その香りに抗えず、ティムはその血を舐め取る。

 「ルイ……。これは……?」
 「吸血鬼には、これが一番かと思ってな」
 「そんな……。これは、依存してしまいそうな味です」
 「ふふふ。依存してくれたら、わたしを手放さないだろう?」
 「そんなことをしなくても手放したりなんか……」
 「すぐにおまえは、わたしを置いていこうとするからな」
 「それは……」
 「分かっている。だが、置いていかないでくれ。頼むから」
 「はい。仰せのままに」

 ふたりは、無事に素材を回収してオランジェの街へと戻った。


 ***

 影ギルドからもらったフード、めっちゃ役立つ!
 一周目では、吸血鬼になってないから知らない防具だった。

 でも、日の光を100パー防ぐってわけじゃないんだよな。
 くもり空なのに、夏の昼の光を浴びてるくらいのダメージはある。
 焼けるとかじゃないけど、ジリジリ熱い。
 これ脱いだら、一体どうなるか考えると怖っ!

 それにしても、王子!
 鍵開け魔法を使えるなんて、やるじゃん!
 しかも、使える理由がイイ!

 「ティムの部屋に行きたくて、こっそり覚えておいたんだ」

 なんだ、このかわいい王子はっ!
 ヤバすぎんだろ!
 褒美? どっちへのご褒美か分かんないけど。
 もちろんです! 手加減できる気がしないぜ~♪

 吸血鬼は、思ったよりも手こずらない。
 オレが吸血鬼になっているせいか、こいつらが雑魚だからか?

 ここでも王子には驚かされた。
 銀の効果の付呪? いつの間に?
 だけど王子を実験台にしたのは、許せないから。
 トマスは、あとでシメておかなくては!
 あ、でも王子だって知らないんだっけ。

 一度倒しかたをマスターしてしまえば、くり返し。
 そんなに大変ではない。
 でも、砦のラスボス的なやつは、やっぱり強い。
 ちょい苦戦。
 まさか、王子がとどめを刺すとはね。
 やるじゃん、王子!
 かわいいだけじゃない!
 だけど、言うことはやっぱりかわいい~!

 それで、オレに血までくれちゃう。
 どんだけ、ティム好きなんだよぉ~!
 ちょっとティムに妬ける。
 ん? ティムってオレか……。オレか⁉︎
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