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出会いの春
似ている二人
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そういえば、何かを忘れている気がした。そうだ、正晴だ。後ろを振り返るが、なぜか姿が見えない。
「俺と一緒にいた男ってどこ行きました?」
タオルをしまっている彼女にそう聞くと、少しキョトンとした顔をされた。その顔のまま、ドアの方を指さす。
「あなたのことを中に押してから、すぐにいなくなっちゃいましたよ」
何がしたいんだあいつは。珍しく意図が全く読み取れなかった。いつものあいつなら面白がって後ろから見てそうなものだが、何かあるのだろうか。むしろ、一人にされてあたふたしている俺をからかおうという魂胆なのかもしれない。何にしたって、ここは俺ひとりで話をするしかないだろう。忘れ物を届けるためだけに来たわけではないのだから。
「今って時間ありますか?」
「はい、暇ですけど……」
「それなら、俺と話してもらってもいいですか?」
なんと誘ったらいいか迷ったが、結構直球に言ってしまった。俺に回りくどいことは向いていない。彼女は最初驚いていたが、俺の言葉がおかしかったみたいで笑いを漏らした。
「ふふっ、もう話してるじゃないですか」
口元を手で隠して肩を小さく震わせている。小柄なのもあってか、その姿はどこか消えてしまいそうな雰囲気があった。そんな不安に抗うように、俺も笑ってみせる。ぎこちない笑顔になっているかもしれないが、険しい顔でいるよりはマシなはずだ。
「でも、私も暇でしょうがなかったんです。おしゃべりの相手になってくれるなら大歓迎というか。ぜひいろいろ話しましょう」
彼女の言葉に深く頷く。暇で暇で仕方ないのは、同じ病院暮らしである俺にはよく分かった。
「えっと、じゃあ、まずは自己紹介から。俺は向こうの病室に入院してる森田冬です。年は今年で17になります」
緊張して堅くなってしまったが、目を見て言えた。それだけで俺基準では及第点である。聞いていた彼女の顔が綻ぶ。
「私も来月で17歳なんです! 同い年なら、こんなに堅くなる必要なかったですね」
「マジか。……それならタメ口でもいい、ですか? 正直敬語使うの苦手で」
「もちろん! 実は私も敬語はちょっと苦手」
話してみると思ったよりも話しやすくて、スラスラと言葉が出ていった。人見知りな俺にそうさせるなんて、彼女はすごい力を持っているのかもしれない。
「あ、私も自己紹介しなくちゃ。ここに入院してる小咲のぞみです。よろしくね、冬くん」
「えっ」
不意打ちされて、ついつい声が出てしまう。まさか急に名前呼びされるとは思っていなかったのだ。顔が赤くなってしまったのは、不慣れから来るものなのだろうか。女の子に名前で呼ばれるのは、かなり久々な気がする。
「ごめん、名前呼び嫌だった?」
勘違いをさせてしまったようだ。申し訳なさそうな感じで、彼女が俺を覗き込む。それに合わせて揺れた髪から、ほんのり甘い香りがした。
「違う違う。女の子から名前呼びされること滅多にないから驚いただけ」
「そっか、よかった! じゃあ、冬くんにも私のこと、のぞみって呼んでほしいな」
少し照れたように言う彼女。なんだかその期待を裏切ることができなくて、俺は頷いた。思い返せば、女の子のことを名前で呼ぶのなんて幼稚園以来ではないか。内心ものすごく緊張している。だが、それを悟られるのも格好悪いので、なんでもないことのようなふりをした。
「わかった。よろしくな、のぞみ」
「うん! ね、冬くんって高校通ってるの?」
のぞみが急にそう聞いてきた。 日本で、俺たちと同じ年の子なら、高校に通っている子の方が多いだろう。しかし、あえてどこの高校かではなく、高校に通っているのかを聞いてきたのだ。そのことから考えるに、彼女が高校に通っていない確率は高い。
「通ってない。のぞみは?」
「私も通ってないんだ」
思った通りだ。入院している理由が怪我などの一時的なものならともかく、きっと彼女はそうではない。まだ細かいことを聞くような真似はできないが、それだけは分かった。
「私たち似てるのかもね」
ふふっと笑いながら、のぞみが言う。それは高校のことだけではないのだろう。俺がのぞみに自分と似たものを見出したように、のぞみも俺から何かを感じ取ったのかもしれない。だからといって何があるわけでもないが、そうならいいと思った。
「俺と一緒にいた男ってどこ行きました?」
タオルをしまっている彼女にそう聞くと、少しキョトンとした顔をされた。その顔のまま、ドアの方を指さす。
「あなたのことを中に押してから、すぐにいなくなっちゃいましたよ」
何がしたいんだあいつは。珍しく意図が全く読み取れなかった。いつものあいつなら面白がって後ろから見てそうなものだが、何かあるのだろうか。むしろ、一人にされてあたふたしている俺をからかおうという魂胆なのかもしれない。何にしたって、ここは俺ひとりで話をするしかないだろう。忘れ物を届けるためだけに来たわけではないのだから。
「今って時間ありますか?」
「はい、暇ですけど……」
「それなら、俺と話してもらってもいいですか?」
なんと誘ったらいいか迷ったが、結構直球に言ってしまった。俺に回りくどいことは向いていない。彼女は最初驚いていたが、俺の言葉がおかしかったみたいで笑いを漏らした。
「ふふっ、もう話してるじゃないですか」
口元を手で隠して肩を小さく震わせている。小柄なのもあってか、その姿はどこか消えてしまいそうな雰囲気があった。そんな不安に抗うように、俺も笑ってみせる。ぎこちない笑顔になっているかもしれないが、険しい顔でいるよりはマシなはずだ。
「でも、私も暇でしょうがなかったんです。おしゃべりの相手になってくれるなら大歓迎というか。ぜひいろいろ話しましょう」
彼女の言葉に深く頷く。暇で暇で仕方ないのは、同じ病院暮らしである俺にはよく分かった。
「えっと、じゃあ、まずは自己紹介から。俺は向こうの病室に入院してる森田冬です。年は今年で17になります」
緊張して堅くなってしまったが、目を見て言えた。それだけで俺基準では及第点である。聞いていた彼女の顔が綻ぶ。
「私も来月で17歳なんです! 同い年なら、こんなに堅くなる必要なかったですね」
「マジか。……それならタメ口でもいい、ですか? 正直敬語使うの苦手で」
「もちろん! 実は私も敬語はちょっと苦手」
話してみると思ったよりも話しやすくて、スラスラと言葉が出ていった。人見知りな俺にそうさせるなんて、彼女はすごい力を持っているのかもしれない。
「あ、私も自己紹介しなくちゃ。ここに入院してる小咲のぞみです。よろしくね、冬くん」
「えっ」
不意打ちされて、ついつい声が出てしまう。まさか急に名前呼びされるとは思っていなかったのだ。顔が赤くなってしまったのは、不慣れから来るものなのだろうか。女の子に名前で呼ばれるのは、かなり久々な気がする。
「ごめん、名前呼び嫌だった?」
勘違いをさせてしまったようだ。申し訳なさそうな感じで、彼女が俺を覗き込む。それに合わせて揺れた髪から、ほんのり甘い香りがした。
「違う違う。女の子から名前呼びされること滅多にないから驚いただけ」
「そっか、よかった! じゃあ、冬くんにも私のこと、のぞみって呼んでほしいな」
少し照れたように言う彼女。なんだかその期待を裏切ることができなくて、俺は頷いた。思い返せば、女の子のことを名前で呼ぶのなんて幼稚園以来ではないか。内心ものすごく緊張している。だが、それを悟られるのも格好悪いので、なんでもないことのようなふりをした。
「わかった。よろしくな、のぞみ」
「うん! ね、冬くんって高校通ってるの?」
のぞみが急にそう聞いてきた。 日本で、俺たちと同じ年の子なら、高校に通っている子の方が多いだろう。しかし、あえてどこの高校かではなく、高校に通っているのかを聞いてきたのだ。そのことから考えるに、彼女が高校に通っていない確率は高い。
「通ってない。のぞみは?」
「私も通ってないんだ」
思った通りだ。入院している理由が怪我などの一時的なものならともかく、きっと彼女はそうではない。まだ細かいことを聞くような真似はできないが、それだけは分かった。
「私たち似てるのかもね」
ふふっと笑いながら、のぞみが言う。それは高校のことだけではないのだろう。俺がのぞみに自分と似たものを見出したように、のぞみも俺から何かを感じ取ったのかもしれない。だからといって何があるわけでもないが、そうならいいと思った。
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