春になったら君に会いたい

松下柚子

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出会いの春

変わる予感

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それから俺たちはいろいろな話をした。いつも何をして過ごしているか。好きなテレビ番組は何か。好きなアーティストは誰か。そんな他愛もない話ばかりだったが、とても楽しかった。家族や正晴以外とこんなに長い時間話すのは久しぶりで、ついつい熱弁してしまう場面もあった。
 
「ねぇ、冬くんって何の季節が好き? やっぱり冬?」
 
俺がもうそろそろ帰ろうかなと思った頃、のぞみがそう質問してきた。きっとここまでのように深い意味のない質問なのだろう。それは分かっている。それでも、その言葉は俺の心を抉るように襲いかかってきた。俺は歪みそうになる顔を何とか笑顔に変え、普通を装う。だが、それがしっかりとできているのかはわからなかった。
 
「……いや、冬はあんまり好きじゃない。むしろ嫌いな方かも。うーん、一番好きなのは春かな」
 
そんな俺の返事にのぞみは微笑んでいる。よかった、俺の変化には気づいていないようだ。
 
「実は私も冬って好きじゃないんだ。冬になると体調悪くなりやすいから」 
 
長い前髪をいじりながら彼女が言った。 その発言に少しドキッとしてしまう。やっぱり似ているなと改めて感じた。
 
「ほんとに似てるね、私たち」
「あ、ああ」
 
彼女には申し訳ないが、俺には笑顔でいることの限界がきていた。もう随分話したし、今日のところは帰ってもいいだろう。俺が部屋に戻る旨を伝えると、のぞみは少ししゅんとしたが、すぐに笑顔になった。
 
「ね、また遊びに来てくれる?」
「おう。また来る」
 
俺はできるだけ満面の笑みを浮かべてそう答えた。それから手を振って、のぞみの病室を後にする。楽しかったはずなのに、モヤモヤした気持ちが心の中に残っていた。
 
自分の病室に戻ってドアを開けると、中には正晴がいた。俺は呆れてその頭を小突く。
 
「お前は一体何してんだよ」
「冬おかえりー。のぞみちゃんとは話せた?」
 
けらけらと笑いながら聞いてくる。俺はイラつきを隠そうともせず、答えた。
 
「話せましたけど何か?」
 
それを聞くと、正晴はさらに笑う。本当になんなんだかわからない。時折目元を擦る仕草もしていた。さしずめ笑いすぎて涙が出てきたというところだろう。
 
「……で」
 
俺がもう一度小突いてやろうかと思ったところで、正晴は仕切り直すようにそう言った。今までとは違う低い声に、少し緊張してしまう。
 
「何か嫌なことでもあった?」
 
さすがに鋭い。俺の少しの変化に気づいているのだろう。それは気づいてほしいときでも、そうでないときでも同じだ。 そして、今は後者である。
 
「いや、別に……あんまり言われたくないこと言われただけ」
「ふーん」
 
誤魔化そうとしたが、正晴の圧に逆らえず正直に答えてしまった。 それを聞いた正晴は、脚を組んで冷たい目をしている。 なんだか、少し機嫌が悪いように見えた。
 
「まあ、俺の体質について知らないんだからしょうがないけどな!」
 
俺が明るめに言うと、彼はふぅと息を吐き、頭をガシガシと掻いた。頭を掻くのは、どうにもならないことがあるときの正晴の癖だ。俺が傷つけられたことへの怒りの矛先を、どこへ向けたらいいか分からないのだろう。正晴は本当に優しいから、俺のために憤ってくれているのだ。そうなると分かっていたから、言いたくなかったのだが。
 
「……ま、冬が気にしないならそれでいいんじゃない」
 
頭を掻いていた手を下ろして、しぶしぶといった感じで言う。心配してくれているということが伝わってきて、なんだか少しむず痒かった。
 
「随分と話し込んでたみたいだけど、のぞみちゃんとは仲良くなったの?」
 「ああ。他愛ない話してたら結構時間経っちゃっててな」
 
のぞみのことを思い出しながら返事をする。言われたくないことを言われたからといって、相手を苦手だと認識するような時期はもう過ぎている。しかも、今回の発言は、俺が自分の体質を隠しているからこそのもので、のぞみに悪いところは一切なかった。
 
「また来てねって言われたから、今度また行こうと思う。どうせお互い暇だしな」
 
俺がそう伝えると、正晴はちょっと安心したように表情を柔らかくした。その理由はよく分からなかったが、彼なりにいろいろと考えてくれているのだと思った。
 
「じゃあ、俺もうそろそろ帰るね」
「え、わざわざ俺が戻ってくるの待ってたのか? 待たずに帰ってもよかったのに」
  
伸びをしながら言った正晴に、俺は驚いて返した。もしかしたら、のぞみとどうなったのかが気になって待っていたのかもしれない。しかし、もしそうなら、正晴のことだし直で見ていそうなものだ。
 
「さあ?」
 
正晴は意地悪そうに笑うと、一度俺の頭をわしゃっと撫でた。

「まあ、頑張りなね」
 
そのまま、ヒラヒラと手を振って病室から出ていってしまう。俺は手を振り返しつつも、その応援の意味を考えていた。
 
正晴が去ってから少し経ち、電池が切れたようにベッドに寝転がる。今日一日でいろんなことが起こった気がした。いや、気がしただけではない。実際に起こったのだ。リハビリや正晴の見舞いはいつものことだが、のぞみとの出会いというのは、俺にとって非日常的なことだった。自分と似ている女の子との出会い。そこに大した意味はないのかもしれない。しかし、何かが大きく変わるような予感もしていた。
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