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桜咲く春
希望の責任
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3月の終わり頃、退院が決まった。それまで、いやそれからも、ずっと心が不安定だった。夜の静かな病院では、特に寂しさが身にしみた。数日に一度、一人で泣いた。
退院当日、母さんと正晴が迎えに来てくれた。雨男がいるわりには快晴だ。雨よりは晴れの日の方がいくらか気が楽なので、少しほっとする。
「ねー冬、なんかちょっと縮んだ?」
隣に立つ正晴は、からかうような声で言いながら、俺の頭に手を乗せてくる。俺はむっとして、それを叩き落とす。今までと同じ光景だ。毎年毎年こんな感じで、それが続いていることに安心する気持ちも確かにあった。だが、心に空いた穴が存在感を消すことはなかった。それを分かっているからこそ、正晴はいつも通り接してくれているのだろう。
病院の外に十歩ほど出てから、なんとなく振り返る。見慣れた場所に今更どうこう思うことはないと思っていた。それなのに、胸が締め付けられる感じがした。母さんも正晴も、そんな俺に何かを言ってくることはない。静かに見守ってくれるだけだ。迎えに来てもらえてよかったと思う。一人だったら泣き崩れていただろう。
「じゃあ、帰るか」
声に暗さが出ないように、明るめに伝えた。俺の言葉に二人はうなずいて、並んで歩き出した。
入院中、ずっと考えていたことがある。のぞみのいなくなった今、俺は何をすべきなのか、ということだ。正直、もうどうでもいいやと思う瞬間もあった。面倒なリハビリも、バイト生活も、桜を見に行くことでさえ、捨ててしまいたい気がした。いつも以上に考え込んで、迷走して、生きている意味がないという答えに辿り着いたのも、一度や二度の話ではない。でも、のぞみが俺に託したものを見捨てることはできなかった。
高校に進学しないということは、俺にとって実は結構大きな決断だった。自分で言うのもなんだが、頭は悪くない。頑張れば正晴と同じ高校に行くこともできたはずだ。それでもそうしなかったのは、もちろん体質のせいである。そもそも入試の時期は冬なので、受けることすら不可能だった。だから諦めざるを得なかった。本当は、高校や大学でやってみたいことだって、就きたい仕事だってあった。だが、それらは見て見ぬふりするしかない。そうやって諦めて、心の中で自分の体質を恨みながら生きていくのだと思い続けてきた。少なくとも今まではそうだった。
「冬くんには希望であふれた世界で生きてほしい。望んだことすべてはむりかもしれないけど、きっと叶える力を持ってると思うから」
この文章を見たとき、胸が熱くなったのを覚えている。涙をこらえているからだけじゃない。心の奥底を掴んで揺さぶってくる何かがあったのだ。体質のことがあるから、何かを望むことも、ましてやそれを叶えることなんて極力考えないようにしていた。できることをできる範囲で、それしか生きる道はない。
でものぞみはそれを否定してきた。きっとのぞみも、たくさんいろんなことを諦めてきたのだろう。俺の何倍も悔しい思いをしてきたのだろう。春になったらしたいと思っていた些細なことでさえ、彼女には叶えられなかった。それが現実だ。そんな彼女が、俺なら望みを叶えられると信じてくれている。その言葉の重みを無視することはできない。
家に帰ってから、数ヶ月ぶりに自分の部屋の引き出しを開けた。一枚の紙を取る。繰り返し繰り返し考えて、腹をくくろうと思った。生きる意味を見いだせないまま生きていくなら、無理と分かっていても望みを持つ方がまだいい。それが、のぞみが俺に託した希望でもある気がした。
数回深呼吸をしてから、その紙に書いてある番号に電話を掛ける。母さんにも父さんにも相談せずに話を進めるのは躊躇われたが、これも一つの覚悟の形だ。この希望に責任を持つのは、俺自身でなくてはならなかった。
退院当日、母さんと正晴が迎えに来てくれた。雨男がいるわりには快晴だ。雨よりは晴れの日の方がいくらか気が楽なので、少しほっとする。
「ねー冬、なんかちょっと縮んだ?」
隣に立つ正晴は、からかうような声で言いながら、俺の頭に手を乗せてくる。俺はむっとして、それを叩き落とす。今までと同じ光景だ。毎年毎年こんな感じで、それが続いていることに安心する気持ちも確かにあった。だが、心に空いた穴が存在感を消すことはなかった。それを分かっているからこそ、正晴はいつも通り接してくれているのだろう。
病院の外に十歩ほど出てから、なんとなく振り返る。見慣れた場所に今更どうこう思うことはないと思っていた。それなのに、胸が締め付けられる感じがした。母さんも正晴も、そんな俺に何かを言ってくることはない。静かに見守ってくれるだけだ。迎えに来てもらえてよかったと思う。一人だったら泣き崩れていただろう。
「じゃあ、帰るか」
声に暗さが出ないように、明るめに伝えた。俺の言葉に二人はうなずいて、並んで歩き出した。
入院中、ずっと考えていたことがある。のぞみのいなくなった今、俺は何をすべきなのか、ということだ。正直、もうどうでもいいやと思う瞬間もあった。面倒なリハビリも、バイト生活も、桜を見に行くことでさえ、捨ててしまいたい気がした。いつも以上に考え込んで、迷走して、生きている意味がないという答えに辿り着いたのも、一度や二度の話ではない。でも、のぞみが俺に託したものを見捨てることはできなかった。
高校に進学しないということは、俺にとって実は結構大きな決断だった。自分で言うのもなんだが、頭は悪くない。頑張れば正晴と同じ高校に行くこともできたはずだ。それでもそうしなかったのは、もちろん体質のせいである。そもそも入試の時期は冬なので、受けることすら不可能だった。だから諦めざるを得なかった。本当は、高校や大学でやってみたいことだって、就きたい仕事だってあった。だが、それらは見て見ぬふりするしかない。そうやって諦めて、心の中で自分の体質を恨みながら生きていくのだと思い続けてきた。少なくとも今まではそうだった。
「冬くんには希望であふれた世界で生きてほしい。望んだことすべてはむりかもしれないけど、きっと叶える力を持ってると思うから」
この文章を見たとき、胸が熱くなったのを覚えている。涙をこらえているからだけじゃない。心の奥底を掴んで揺さぶってくる何かがあったのだ。体質のことがあるから、何かを望むことも、ましてやそれを叶えることなんて極力考えないようにしていた。できることをできる範囲で、それしか生きる道はない。
でものぞみはそれを否定してきた。きっとのぞみも、たくさんいろんなことを諦めてきたのだろう。俺の何倍も悔しい思いをしてきたのだろう。春になったらしたいと思っていた些細なことでさえ、彼女には叶えられなかった。それが現実だ。そんな彼女が、俺なら望みを叶えられると信じてくれている。その言葉の重みを無視することはできない。
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数回深呼吸をしてから、その紙に書いてある番号に電話を掛ける。母さんにも父さんにも相談せずに話を進めるのは躊躇われたが、これも一つの覚悟の形だ。この希望に責任を持つのは、俺自身でなくてはならなかった。
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