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第一章
第2話 カラスが染まる日
しおりを挟む──あの日
齢10の少年がある男に復讐をすることを決めた
もはや最後の希望である足を必死に動かして、香鳥はあの空間から逃げた。
後ろを振り返ることはせずに。
心残りがあるとすればちゃんと供養させてあげれなかったことだろうか。
あの光景を思い出す。
あの場で自分は動けなかった、自分は何も出来なかったのだ。
そんな無力な自分を捨てる為、あの男に復讐をする為に香鳥は強くなることを決めた。
しかし、
復讐を誓ったことはいいものの今の香鳥は何も持っていない。食も住もましてや武器さえも。
───あの男に全てを奪われたのだから。
何事もまずは情報だろう、と感情のままに動きそうな自分を抑え香鳥はどこか冷静なことを思った。自分の家にはまだあの者がいるのだろうか、はたまたもう何処かへ行ったのか、考えるだけでは定かにならないことを脳内に浮かべながら香鳥は一日で変わり果てた自宅へと足を進めた。
***
普通に考えれば あんな悲惨なことがあった場所に戻ろうと考える者などいないのだが、やはり
何処か心が壊れてしまった香鳥は冷静になりきれていなかった。
‘’殺されるかもしれない”そんな考えは頭に浮かばなかったのである。まあ、もし浮かでいたとしても今の香鳥は気に止めなかっただろうが。
「………誰かいるだろうか」
香鳥はあの時殺意を口にしたとき以来 初めて
言葉を口から紡いだ。
そろそろ家に着く、そう思い曲がり角を
曲がり、家の状況が見えるように顔を少しだけ出した。
「…ひと?」
「だれだ……?」
香鳥の目に入ったのは先程の自分の大切なもの全てを奪った男ではなくその部下と思われるまだ歳の若い男2人であった。
(なぜもう用のないであろう僕の家に人が2人
も……?)
そんな事を考えていると若い男たちが何か話している声が聞こえる。
その声に香鳥は耳をすました。
「全く、あの人 後のことも考えず……!
後始末するこっちのことも考えろってんだ」
「あいつが頭領《ボス》になってから色々変わったよな……全部悪い方にだけど」
「先代が亡くなってからもう随分と経つのか…」
「いうて2、3年か」
「本当は長男が継ぐはずだったんだがな」
「だが長男様は先代と似て心優しい方だったからな、そのせいもあってか継ぐことを快く思ってなかったためカタギになる道を選んだ……」
「だから 手が付けられない上に問題ばかり
起こしていた次男が繰り上がり式に座に着い
たって訳だ」
「先代は最期まで反対していたがな……」
「その理由が今、身に染みて感じるぜ…」
その会話の内容は香鳥の家族を殺したやつで
あろう現ボスについての話であった。
(かなり、味方から嫌われているみたいだな…)
他にも男達が話していたがこの先からはあまり
聞き取れなかった。
だが沢山の情報を得ることができた。
これだけでも大収穫だろう。
話を聞いて分かったのは、『2、3年前に組織のボスが変わったこと』そして、『現ボスがあまり組織内から好かれていないこと』である。
(あれっ、男の人達がいない……)
気づいたら男たちは後始末を終えたようで、
その場から姿を消していた。
(今なら食材や、門番が持っていた武器を回収
出来るかもしれない……!)
香鳥は自宅へ戻ってきた理由の一つである物品の回収を試みた。
走って門の近くまで行き、門番の近くに落ちていた刀と剣の中間のような武器を手にする。
「良かった、まだあった」
少年が持つには少々大きいものを手にし、香鳥は玄関へと近づく。
「家に入って、少し食材を回収出来たら……」
そう呟き玄関の扉を開け、香鳥はキッチンへと向かう。
「あっ、」
しかし、キッチンへと向かう途中で香鳥はある物を見て足を止める。
「これ、刀……」
香鳥の目に止まったのは、玄関の近くに飾ってある刀であった。
その刀は、そこら辺の売ってある刀よりも煌びやかで刃もとても輝いていた。
「この刀、たしか代々継いできた刀だっけ…?」
「お守り的な感じって言ってたな……」
香鳥は「この刀はな先祖代々継いできた商売繁盛のお守り的なものだ」と言っていた昔の父の言葉を思い出した。
カツッ
「!!」
突如後ろから足音が聞こえた。
(まさか、まだ中に部下がいたのか……!?)
香鳥は最悪の事態を頭に浮かべながら、先程手に入れた武器を構え、後ろを向いた。
「うおっ、香鳥くんじゃないか!」
「!」
「えっと、ワタシが誰か分かるかな……?」
「君のお父さんの友達にあたる者で名をヒサシというのだが、」
香鳥はヒサシと名乗った男を見る。
その男は確かに見覚えがあり、たまに食事をしたことがあった男だった。
父と、昔から仲が良く家にもよく来ていた。
「ヒ、サシさん……?」
「ああ」
「君のお父さんと連絡が取れなくなってしまっ
てね、近頃物騒な話も聞くだろう?だから
少し嫌な予感がして、心配になって見に来た
んだが……」
「玄関付近の倒れた門番を見て、大体察しがついたよ…こんなにも嫌な予感が外れて欲しいと思ったことは無い」
「香鳥くん。君に、君の家族に、何があったかおじさんに聞かせてくれないかい……?」
そういうとヒサシは真っ直ぐな目で香鳥を
見つめた。真剣なその表情には、不安と心配の気持ち、そして何かを覚悟したことが読み取れる。
香鳥は自分が出掛けている間に家族が何処かの組織の頭領に殺されたこと、そして、必死に逃げた後に今戻ってきたことをヒサシに伝えた。
話の途中、つっかえてしまうこともあったが、ヒサシは「落ち着きながらで大丈夫」と、声をかけながら、話を遮ることなく香鳥の話を最後までを聞いた。
「なるほど、話を聞く限り金を借りていた組織が香鳥くんのお父さんに対して牙を剥いたということか…。」
「……はい」
「そうか……だが香鳥くん、」
「?」
「君が無事で本当に良かった………!!」
ヒサシは目に涙を浮かべながら香鳥の手を握りしめる。
「よく、あの場から逃げて来れた……」
「頑張ったな」
頑張ったな、というヒサシの姿が自分をよく褒めてくれた父の姿と重なる。
その瞬間 香鳥の瞳が揺れ、何かの糸が切れてしまったかのように涙が溢れた。
ヒサシは泣き止むまで香鳥に寄り添った。
***
「香鳥くんはこれから、どうしたい?」
「もし行く宛てがないなら、ワタシの元に来る
かい?」
「えっ…!」
「良いんですか……?」
「ああ!もちろんだ!」
「友達の息子を見殺しにするようなことはしないぞ、ワタシは!」
「…では、お言葉に甘えてお世話になります」
そうして、香鳥はヒサシの元に行くことを決め必要なものを持ち家を出た。
───ちゃんと刀を忘れずに。
しばらくして、ヒサシの家に着いた。
「ここがワタシの家だ」
「今日からこの部屋で過ごすといい」
「ありがとうございます…!」
「……先程聞きそびれたけど、香鳥くんはこれからどうしたいんだい?」
「君が何をするにしてもワタシは、君の力になるよ」
「……!!」
「僕は、」
香鳥は、あの男に復讐をすると決めたことをヒサシに言うか一瞬迷い口を紡いだが、すぐにまた口を開く。
「僕は家族を殺したやつをこの手で殺したい。」
ヒサシは香鳥の言葉を聞き、目を見開いた。
がしかし、1度目を閉じた後覚悟を決めたような顔をする。
「分かった。ワタシもその復讐の力になろう」
こうして、2人の復讐の為の生活が始まった。
***
ある日
「香鳥くん、例の組織が判明したよ!」
「君のお父さんの取引履歴を遡ったら、この組織が出てきた。確かこの組織との取引について相談されたことがあるから間違いないと思うよ」
「ほんとですか……!?
ありがとうございます!」
「いいんだよ、情報収集なら任せてくれ」
***
またある日の夜
香鳥は真夜中刀を手にし、素振りをしていた。
「ハァ、ハァ……」
強く、強くならないと、
もう何も失わないように…………!!
ガラガラ……
「香鳥くん…?もう夜遅いのにまだ鍛錬かい?」
「!……ヒサシさん、」
「強くなりたい気持ちはわかるが、焦るのは良くないよ、、」
「強くなる為には鍛錬と同じくらい休憩も大事だ今は休もう」
「分かってはいますが、眠れないんです…。」
「夢の中で家族が出てくるんです、どうして助けてくれなかったの って、」
「家族がそんなこと言うはずが無いって分かっているのに……!」
「だから、こうやって刀を振るってないと前に進めてない気がして…」
「……」
ヒサシは黙って香鳥の言葉を聞く。
「そうか、」
「じゃあ香鳥くんが眠れるまでワタシもここに居るよ」
「えっ……!?」
「気にすることは無い、ワタシがしたくてしてることだ」
「剣術については詳しくないが、君が前に進めているかどうかワタシが責任を持ってこの目でちゃんと見ておくから」
***
1年後
「香鳥くんは髪を伸ばしているのかい?」
「えっと……、変でしょうか?」
「いや、違うんだよ!」
「とても大事そうに君が髪を手入れしているのを見て思ったんだよ、何で髪を伸ばしてるのかなーって」
「………その、妹、華美が僕の髪を結うのが好きだったんです。お兄ちゃんの髪は綺麗だね!って」
そう言うと香鳥は何処か悲しそうな顔した。
「…そうか、じゃあ大切にしないとだね」
ヒサシは香鳥にそういいながら笑いかけた。
次の日少し良いシャンプーとトリートメントとくしが香鳥の傍に置いてあった。
***
2年後
「香鳥は、最近僕って言わなくなったよね」
「……そうですね」
「うん!私って言うようになった。
何故だい?」
「ヒサシさんがワタシって言うから、ですか
ね?移ったかもしれません」
「……!!!!」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
***
時は経ち5年後のとある日
「香鳥!最新の情報だ!」
「あの組織のボスがどうやら今日ひとりで裏通りを歩くらしい!」
「一人で、ですか……!?」
「ああ」
「チャンスは今夜だろう」
「香鳥は素人目から見ても、もう十分強く
なってる」
「絶対やれるはずだ」
「ありがとうございます」
「そうですね、今夜……奴を討ちます」
***
ザッザッ
裏通りをある男が歩いていた。
その男の容姿はあの時とほぼ変わって
いない。
どうやら最近も金を貸していた人の元へ向かい、返せないと分かったのち残虐に人を殺めていたらしい。返り血が頬に付いている。
男は何処か楽観的に鼻歌を歌いながら、裏通りを進んでいた。
「最近も強い奴がいねぇなあ」
男は誰もいない空間でそう呟いた。
否、
そこには男の他にもう一人
別の男の姿があった。
腰に刀を添えた男が。
その男は静かに刀を抜き、ある男に声を
かける。
「こんばんは」
「!」
「なっ、誰だてめぇ!!」
「……貴方に名乗る名などありません」
ニコッ
手に刀を持った男 ”香鳥”はそう言い、怨みに満ちた瞳を細めた。
その時、刀が美しい円の軌道を描きながら
男の首元へと伸びる。
男の首元へ到達したその瞬間、男の首は
宙を舞った。
香鳥は血の付いた刀を丁寧に振るい、鞘へと納める。
────この瞬間香鳥は5年に渡った復讐を
終わらせたのである。
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