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第一章
第9話 罪と罰
しおりを挟む「今回の件について結果を報告します」
香鳥が、いつもと同じ少し冷たい声で話す。
………
「──、──、よくやった。報酬上乗せとする」
「「ハッ、ありがとうございます」」
「続いて、迅」
「今回の活躍により、『幹部』へと昇格とする」
「え?」
───ザワっ
「どういうことです……?だって、そのポジションには、匡が、」
あたりがザワつく。
他の部下達も一体どういうことだ、と騒ぎ立てていた。
「──静かに」
香鳥が、低く響く声で一蹴する。
「まだ続きがあります。…黙って聞いて下さい」
「……それに伴い今回の件で命令違反を起こした匡を“短期間の地位剥奪”とする」
「え?」
言葉を発したのは誰だったか。
匡か、それとも迅か。いや、他の部下の誰かかもしれない。
「か、香鳥様……?お、俺……」
「……活躍したのは確かですが、命令違反は見逃せません」
「これは貴方への罰です」
「以上。報告はこれにて終わりとします」
「撤収しますよ」
少しだけの疑問や疑念を残し、他の部下達は次々にこの場を去っていった。月明かりだけが香鳥達を照らしている。
香鳥、匡、迅。三人だけが、火薬と鉄の匂いがする、薄汚れたこの場に残っていた。
「とりあえず、匡。貴方はまず治療が先です」
「一通り治療が終わったら、詳しいことはまた話します」
少しの間沈黙が流れるが、すぐに香鳥が歩き出す。それに伴い、二人もこの場を後にした。
***
本拠地へと戻り、まずは満身創痍な匡の治療を開始した。香鳥を庇ったため、弾丸が身体に残っていた。とりあえず弾丸を取り出し傷を縫い、一先ずの治療が完了した。
もちろん、完治した訳では無い。医者からは当分の安静が言い渡された。
今、医務室の病床である。
「……はぁ」
「私を庇ってくれたことは、まぁ感謝しますが先程も言った通り命令違反は見逃せません」
「……違反を見逃すことは組織の存続にも関わることですからね」
「……はぃ」
弱々しい声で匡は応える。
「今回は貴方に罰を与えることで許すこととしますが、二度はありませんからね」
「当分反省して下さい」
では、失礼します。と言い、香鳥は医務室を後にしていった。
………っあ”ぁ”ぁぁあ
誰もいない医務室で匡の溜め息が流れる。
もはや、溜め息所ではないが。
──流石に、命令を無視したのは良くなかったかなぁ。
なんて、医務室で一人、匡は考えていた。
でも、香鳥様を撃とうとしたあの不届き者を許せるはずもないし、慈悲も必要ない。それは空は青いくらい当たり前のことだ。
何しろ、五年前のようなあの悲劇をまた起こすわけにはいかない。あんな気持ちは、二度とごめんだ。
匡は、トラウマレベルで香鳥を失うことを恐れていたのだ。
えぇ~……。
……俺はどうしたら、良かったんだ…?
匡はうねりながら一人しかいない医務室で思考を巡らせていたのであった。
***
一方その頃……
「何で俺を匡の代わりに任命したんですか?頭領さん?」
迅は、香鳥に単純な疑問をぶつけていた。
「俺はてっきり、あんたに目の敵にされてると思ってましたよ」
「……私は別に、匡の代わりになるなら貴方しかいないと思っただけですよ」
「貴方は強さはもちろん、戦場でも冷静で、頭もきれる」
「代理としてここまで適任な人はいないでしょう。匡が復帰するまではよろしくお願いしますね」
確かに、十分すぎる理由だ。だが、迅にはまだ疑問があった。
「じゃ何で匡への罰を短期間の地位剥奪としたんすか?」
それは、組織全員が気になっていたことであろう。まあ、命令違反への対処と聞けば納得する人が大半だが、そこまでするのかと思う人が多いことも事実。
ましてや、香鳥と匡は誰が見てもちゃんと主従関係を結んでいることが分かる。実際はとんでもなく歪んでいるが(主に匡が)。一般的に見れば仲がいいと感じる程であった。
なのに、何故ここまで厳しくするのだろうかと皆思っているのだ。
「貴方は、飄々としている様で割とズバズバ言いますよね…」
香鳥は、はぁ……と溜め息をつきながら少し嫌な顔をした。
「匡にも言った通り、甘い判断を下せば組織の存続が難しくなるというのが一つ」
「関係値に付随して処罰の判断を変えていけば部下達は不満を持つ」
「そんな組織は崩れて行くだけです」
その先に未来は無い、と呟きながら香鳥は手慣れた手つきで資料を整える。
「その言い方だと、他にも理由があるんですよね?」
その迅の言葉を聞き、香鳥は先程よりも更に嫌そうに顔を歪ませた。怒り+引きみたいな表情である。
「……貴方は、本っ当に、人のデリケートな部分を突いてくる」
そういう所が苦手です、とでも言いたいかのような視線を迅に向ける。
「……もう一つは、地位剥奪という名の治療期間を設けたかったからです」
「匡《アイツ》はちょっと馬鹿だから、完治してなくても前線に出たがるし、すぐ私の側に戻ろうとする」
「だから無理矢理にでも休む期間を設けて安静にさせようと思ったんです」
今回の件で流石に懲りるでしょう、と付け足して香鳥は言った。
迅は思った。頭領は、二つ目の理由を匡に言ってないな、と。
この言い方だと、多分俺にしかこのことを伝えていない。絶対後半の方が匡にとって重要なのに。この主従はいつも一言二言足りない。
───そんなんだから毎回地味にすれ違うんだよ。
だが、そうは思っても言わないのが迅。余計なことは言わず、黙って見守り役に徹する。
「ふぅーん…なるほど、今回の罰は頭領さんなりの優しさって訳だ」
「なんか違う気がしますけど……、説明するのも面倒くさいので、もうそれで良いです」
***
また、場面は変わって匡視点。
匡は、医務室に止める人が誰もいないことをいいことに病床を抜け出して、香鳥と迅の様子を見に来たのだ。
普通、手術した後に動ける人なんてそうそういないのだが、この状態で動けるということは匡が普通では無いことに他ならないのであった。
二人で話している様子を匡は遠くから見つからないように眺めていた。
───あの人の隣は俺だったのに。
わかってる。
香鳥様も、迅も、お互いのことをそういう風に思っていないということを。
だけど、それでも、
胸が、心がモヤモヤする。
心の奥底で、黒い感情が渦巻いているのだ。
あの人の隣は俺が良いと。
うぅ、、こんな思いを何ヶ月も抱えなきゃいけないのか……。
──── 辛いな、
***
迅は、匡がこちらを見ていることに気づいていた。
……これは、かなり嫉妬してんな。
やはり、病床を抜け出して来たか。嫉妬の視線が突き刺さる。
こんなにも分かりやすい視線なのに、香鳥さんは気付いていないようだ。この人は本当に、自分に向けられている好意の感情に鈍い……。
これが、殺意とかだったら秒で気づくだろうに。
──この人に罪があるとしたら、この鈍感さだな。
迅は、愛や感情をあまり理解していない香鳥を横目で見ながらそんなことを思った。
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