名前を捨てた王女と、踊り子の恋― 人形王女の選択 ―

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第4話 念願の日(アデル視点)

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それからの俺は、踊り続けた。

孤児院を出て、町を巡った。人に見せるための踊りを、必死で磨いた。最初は、ただの生きる手段だった。食べるため、寝る場所を得るため。

でも、いつしか目的が変わった。

「いつか、王城に入れる踊り子になる」

周りは笑った。

「無理だろ」

「夢見すぎだ」

「孤児が王城に? 笑わせるな」

それでも、やめなかった。

あの子が、人形になる前に。

あの笑顔が、完全に消えてしまう前に。

――もう一度、会う。

そして今度こそ、手を引いて、外に連れ出す。



それが正しいかなんて、分からなかった。でも、何もしない方が、ずっと怖かった。

俺は踊った。雨の日も、雪の日も。誰も見ていなくても、踊った。

エレオノーラ。

その名前を、心の中で呼びながら。

---

## ◆

町から町へ。

踊り子として名を上げていく。

最初は小さな酒場。次は町の広場。やがて、貴族の屋敷。

「あの踊り子は、見る者の心を掴む」

そんな評判が、少しずつ広がっていった。



ある日、師匠と呼んでいた老踊り子が、俺に言った。

「アデル、お前の踊りには、何かがある」

「何か……ですか?」

「ああ。技術じゃない。もっと、根本的な何かだ」

師匠は、パイプを吹かしながら続けた。

「お前は、誰かのために踊っている」

その言葉に、俺は何も答えられなかった。



「いいことだ」

師匠は、優しく笑った。

「踊りは、技術じゃない。心だ」

「お前の心は、誰かに届こうとしている」

「それが、お前の強さだ」

――届こうとしている。

そうだ。俺は、あの人に届こうとしている。

---

## ◆

「……ようやく、だ」

王城の舞踏会に呼ばれた日。控え室で、俺は静かに息を吐いた。

鏡に映る自分は、昔の少年じゃない。少し大人びて、少しだけ余裕を覚えた踊り子。衣装も、靴も、以前とは比べ物にならないくらい立派だ。

「アデル、出番だぞ」

「ああ、今行く」

立ち上がる前に、もう一度、鏡を見た。

「エレオノーラ……」

名を呼ぶだけで、胸が痛む。

彼女は、俺を覚えていないかもしれない。

それでもいい。

せめて――孤独だと気づいてくれる人間が、ここにいることを、知ってほしい。

それだけで、救いになると信じて。



俺は、舞台へ向かった。

華やかな音楽が聞こえてくる。貴族たちの笑い声が響いている。

その中心に、彼女がいる。

もう一度、会える。

今度こそ、手を伸ばす。
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