悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

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第3話(後編)「距離を置くことが、愛だと思った」

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 翌日、私は社交界のお茶会に参加していた。
 殿下は公務で不在。だから、久しぶりに一人での参加だった。

「まあ、エリーゼ様。最近お見かけしませんでしたわね」

 令嬢の一人が声をかけてくる。

「ええ、少し体調を崩していまして」

「そうでしたの。でも、今日はお元気そうで何より」

 社交辞令の会話。
 私は笑顔を浮かべながら、お茶を飲む。

「それにしても、エリーゼ様」

 別の令嬢が言った。

「最近、雰囲気が変わられましたわね」

「そうですか?」

「ええ。なんというか……落ち着かれたというか」

「以前はもっと……華やかな印象でしたわ」

 令嬢たちが顔を見合わせる。
 その視線に、私は少しだけ緊張した。

「レオンハルト様の影響かしら?」

「さあ……どうでしょう」

 私は曖昧に笑う。
 すると、令嬢の一人がこう言った。

「でも、以前の方がエリーゼ様らしくてよかったわ」

「……え?」

「だって、エリーゼ様はいつも明るくて、元気で。それが魅力だったのに」

「今は少し……大人しすぎるというか」

 令嬢たちの言葉に、私は戸惑った。

 私が変わろうとしているのは、周囲の目を気にしてのこと。
 「我儘な婚約者」と言われないように。

 なのに――

「エリーゼ様、もしかして誰かに何か言われたのですか?」
 
 令嬢の一人が、心配そうに尋ねる。

「い、いえ……」

「もしそうなら、気になさらなくていいですわ。エリーゼ様は、エリーゼ様のままでいいんです」

「そうですわ。レオンハルト様だって、きっとそう思っていらっしゃるはず」

 令嬢たちの優しい言葉。
 でも、私には信じられなかった。

 だって、あの夜――
 確かに聞こえたのだ。

 「我儘な婚約者」
 「侍女が可哀想」

 そういう声が。

「ありがとうございます」

 私は笑顔で答えた。

「でも、大丈夫です。私は、ただ少し大人になろうとしているだけですから」

 令嬢たちは、何か言いたげだった。
 でも、結局何も言わず、話題は別のことに移っていった。

 お茶会を終えて、馬車で帰る途中。
 私は窓の外をぼんやりと眺めていた。
 令嬢たちは言った。
 「以前の方がエリーゼ様らしかった」と。

 でも――私らしさって、何だろう。
 殿下のために着飾ること?
 殿下のために時間をかけること?

 それは、我儘ではないのか。
 悪役令嬢への、道ではないのか。
 頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。
 何が正しいのか、分からない。

 殿下は「君のままでいい」と言う。
 でも、それは本当に――殿下のためになるのだろうか。

「エリーゼ様、お屋敷に到着いたしました」

 御者の声で、我に返る。
 馬車を降り、屋敷の中へ。
 そして――

 執事が、一通の手紙を差し出した。

「エリーゼ様。レオンハルト様からお手紙が届いております」

「殿下から……?」

 手紙を受け取り、封を開ける。

 そこには、殿下の几帳面な文字で、こう書かれていた。

『エリーゼ
 明日の夜、僕の部屋に来てほしい。
 君と話がしたい。
 どうか、逃げないでくれ。
            レオンハルト』

 手紙を握りしめる。

 逃げないでくれ――

 殿下は、私が逃げていると気づいているのだろうか。
 距離を置こうとしていると、分かっているのだろうか。

「……殿下」
 
 呟いて、胸を押さえる。

 会いたい。
 会って、全部話したい。
 でも――

 もし話したら、殿下はきっと「君のままでいい」と言う。
 優しい殿下は、私を責めない。

 でも、それが――怖い。
 優しすぎる殿下が、いつか壊れてしまいそうで。

 私は――
 どうすればいいのだろう。

 手紙を胸に抱きしめたまま、私は長い間、立ち尽くしていた。
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