召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

九話

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 口元が引きつってしまわないよう、意識して顔を作る。

「早速ですが、私の方の本題に入ってもいいですか?」

「ええ、もちろんですとも」

 エドアルドが続きを促してくれたので、話を続けた。

「私は十年の時を眠り続け、ようやく今日目覚めることができました。なぜ十年もの間眠ることになったのかは、この国の大地と繋がっていた関係、とでも思っていてください」

 輝人が一つの国に一人だけ、というのには訳があった。それは国が所有する大地と輝人が繋がっているからだ。もちろん繋がっているといっても、目に見える繋がりではなく精神的な繋がりだ。輝人は大地から多大な魔力を分けてもらえる恩恵をもらい、大地は龍脈の調整など様々な使命を輝人に託す。言い方を悪くすれば人柱のような存在なのである。

 ベルが十年眠り続けたことに大した意味はないので、輝人と国の大地との関係を使わせてもらうことにした。辻褄が合うようにロセウスたちにもこの理由で説明済みだ。

「なるほど、そういうことでしたか」

「はい。なので今後私がこのような長い眠りにつくことは、ぼぼないと考えていただいて大丈夫です。ですので、エド殿には私が眠りから覚めたことを国内国外問わず広めてほしいのです。そしてそのついでで構わないので、各国の輝人四人に私が目覚めたことを、一番早い方法で知らせていただけないでしょうか。本来であれば私が出向けばいいのですが、あいにくこの体は一つしかありません。ですので先にエド殿の方でどうにかお願いしたいと思い、こちらに参りました」

「その程度のことでしたら、問題ありません。こちらにお任せください。むしろこちら側としても、声を大にして知らせたいくらいですから」

 アルブスの言う通りだった。国王は嬉しそうに声を弾ませている。

「各国の輝人へも、一刻でも早く伝わるように手配しましょう」

 これに関しては嬉しい限りだ。早速お礼をしようと口を開けば、エドアルドの隣にいたラシードによって遮られてしまった。

「国王陛下、その件で少しよろしいでしょうか?」

 エドアルドもまさかラシードに口を挟まれるとは思っていなかったのだろう。眉間に皺を寄せながら発言を許可していた。

「ベル様が眠りから覚めたということを、国内国外に知らせることは国の利益にも繋がることですので、これに関しては問題ありません。しかし各国の輝人に国の優秀な人間を使って無償で引き受けるのはどうかと思うのです」

 ラシードの最後の一言が、この部屋にいる人たちを固まらせることに十分な効果を発揮した。ベルからしてみれば、ラシードの言うことは最もではあるが、他の人たちからしてみればそうではないのだ。国王よりも輝人の方が立場が上、というのが世間一般的な常識だ。つまりラシードはそれを見事に破ってしまったのである。

「ラシード、口を慎みなさい」

 エドアルドは声を低くし、ラシードを諫めるが、そのラシードといえばそれを聞き流し、話を続けていた。

「ベル様、この話をこちらで引き受けるにあたって、こちらからもお願いしたことがございます」

「お願いしたいこと、ですか?」

「ええ、簡単なことですよ。ベル様の召喚獣、後ろに立つ三方を、ベル様以外の命令を聞くよう命令をしておいてほしいのです」

「は……? 今、なんと?」

 ベルにできることならある程度は聞く姿勢ではいた。しかしラシードの口から出てきたお願いは、まさかなもので。思わず聞き返してしまった。

「ですから、召喚獣の方たちを我々の命令も聞くように命令をしてしてほしいのですよ。もちろんいつでもということではなく、有事のことがあった場合だけでも構いません」

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。これに関しては、もはや溜息すらでなかった。なんと愚かな願いなのかと、そう愚痴ってしまいたくなる。でも愚痴る前に、ロセウスたちを止めなければと、体ごとロセウスたちに向けた。背後からびしびしと荒れ狂う魔力を感じたからだ。

 そこには冷たいを通り越した、敵意のこもった視線を送っているロセウスたちの姿があった。

「三人とも、落ち着いて。これは命令よ」

 もしこの命令が一秒でも遅ければ、三人の誰かの手によってラシードは命を落としていただろう。その証拠に、部屋に異常なくらい濃度の高い魔力が漂っている。もちろん発生源はベルの後ろに控えている三人だ。もしベルが命令を下さなかったら、ラシードの命はすでに散らされていただろう。

(さすがにこれだけ濃い魔力が充満していたら、他の人はきついよなあ……)

 一瞥すれば、エドアルドもラシードも顔色が大分悪く、額から汗を流していた。

 エドアルドたちの後ろに控える王族を守る近衛騎士らしき二人は普段鍛えているからか、顔色こそ変えていないものの、畏怖の目を三人に向けていた。強さをはっきり見せつけられたからこそわかるのだろう。三人の底知らない強さというものを。

 そして部屋にいるもう一人。国王と同じく、十年前に数回だけ会ったことのある宰相、ガーデンという男性は、床に横たわっていた。見る限り意識を失っているようだ。

 三人の怒りは最もだ。けれどだからといって、三人の肩を持つわけにはいかない。

 ベルは魔力を払うように、空中で右手を一度、二度と振ってみせた。途端に魔力は霧散され、部屋の中から魔力が消えていく。

「今のは、一体……」

 エドアルドが顔色を悪くしながらも尋ねてきた。

 別段隠すことでもないことから、ベルは正直に答えることにした。

「見ての通り魔力を霧散させたんですよ。エド殿はご存じでしょうが、輝人の役割の一つに大地に流れる龍脈を整える、というものがあります。これを無意識に常日頃行っているので、これくらいの魔力を払うくらい問題はありません」

 異世界トリップしてベルとなって、最初は龍脈を整えるなんて意識は全くなかった。けれど自分はベルなのだと、意識が強くなっていく度に、無意識に龍脈を整えていたことに気がついたのだ。気がついてからはどうやって龍脈を整えているのか、自然と頭の中に入ってきた。だからこの整え方を応用すれば、これくらいは簡単なことだ。

「そうですか」

「ですのでこれで大分楽になったはずです。そこで意識を失っている宰相さんを誰か医務室へ運んであげてください」

 ずっと床と友だちだなんて、それはさすがに可哀想だ。

 エドアルドはベルの指摘でようやくガーデンが倒れていることに気づき、後ろに控えていた近衛騎士の一人に運ぶよう指示をしていた。ガーデンと近衛騎士一人がこの場を退場するのを確認すると、再び顔をラシードに向けた。

 ここからはベルによる説教の時間だ。
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