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第一章
二十三話
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教室の中に入ると、そこは想像以上に広い部屋が広がっていた。入って右側には黒板が設置されていて、そこにはすでに契約獣に関する様々なことが書かれていた。左側には二人用の長机が横に二つ、等間隔に五つの長机が後ろに続いて置かれていた。その長机に契約術師と契約獣のペアで座っているようだ。生徒が十人といっても、契約獣も同じ数だけいる。そのせいか生徒数が少ないとは感じなかった。
長机の後ろには、テニスコート一面分ほどの面積がぽっかりと空いていた。けれどその空間は長机が置かれている空間と違って、傷ついている床や壁が多々目に入る。簡単な実践練習はここで行われているのだろう。
先程まで教鞭をとっていた先生に軽く頭を下げた。先生は教卓から数歩離れた場所に立っていて、足元には先生の契約獣と思われる黒い毛並みの猫又がいた。猫又は尻尾を揺らしながら、興味深そうにこちらを見ていた。教師といえど先生も契約術師。だからなのか、教室内にいる生徒たちと同じようにベルとその召喚獣であるロセウスたちを、少しでも多く目に焼き付けようと凝視していた。
教卓の前に立つと、ラシードが邪魔にならないよう、先生の隣に移動していた。
ラシードはナツゥーレの第一王子ではあるが、誰もがその存在にある程度慣れているようだった。ラシードが契約術師の育成を熱心にしていたことの証だろう。
「はじめまして。ナツゥーレ国の輝人、そして召喚術師のベル・ステライトです。本日は皆さんの役に立てればと思い、特別講師としてこちらに来ました。よろしくお願いします」
ベルが簡単に挨拶を済ませると、どこまでを勉強しているのか先生ではなく生徒に尋ねることにした。その方がすぐに打ち明けられると思ったからだ。教卓上には、席の見取り図が置かれていて、そには契約術師である生徒とその契約獣の名前が記載されていた。一人ずつ自己紹介もしてもいいが、生徒はそんなことよりも召喚術師であるベルの授業が早く受けたくて仕方ない様子だった。自己紹介に時間を割くよりも、授業に時間を割いた方がよさそうだ。ベルは見取り図を見たり、本人と会話をしたりして名前を覚えていくことにした。
「今日はどんな授業をしていたか、教えてくださる方いらっしゃいますか?」
「はい。では、わたくしが」
挙手をして、立ち上がったのは、クリーム色の髪を緩やかに巻いた女生徒だった。その声音は堂々としていて、立ち姿もまるで手本のように綺麗だ。海のように澄んだ青の瞳は、真っすぐにベルを見据えていた。
見取り図で名前を確認すると、そこには先生の手書きで公爵令嬢と書かれていた。その肩書を見て、なるほどと納得してしまった。
学院の入学は一律で十三歳になった歳と決められている。だからこのクラスにいる生徒全員が十八歳、もしくは誕生日を迎えていたら十九歳ということになる。元の現実世界だったら、まだ大学一年生だ。ベルが十八歳のときはここまで大人びてはいなかった。育つ環境が違えば、精神年齢の育ち方も変わってくるのだろう。感心を覚えながら、女性徒の名前を呼んだ。
「アンジェリカ・ウィンガーデンさん」
「はい。ですが、その前に一つだけよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう?」
「ベル様の方が身分も上ということもありますが、ここでのわたくしは教えを乞う身です。敬称や敬語は不要ですわ」
初対面だからと敬語を使用していたが、アンジェリカの言い分は最もだった。ベルは考えたのち、アンジェリカの意見を受け入れることにした。
「じゃあ、そうしようかな」
「はい、そうしてくださいまし。話は戻りますが、本日の授業は自身のパートナーである契約獣を人化させるという内容でした。先週から取り組んではいますが、お恥ずかしながらまだ成功者はおりません」
「なるほど、人化ね」
ロセウスたちは当たり前のように人化を維持したりしているが、これが実は難関だったりする。
輝人の召喚獣の恩恵の一つとして、自身の魔力を消費せず自然の魔力を使用して人化することができるというものがある。これは召喚術師である輝人が大地と目に見えない繋がりを持っていて、その繋がりを通して恩恵を受けることができるからだ。
そうでなくても、元々ロセウスたちは攻略キャラクターとしてある程度の力を最初から持っていたので、出会ってから一年ほどで人化を習得していたのだが。まさに公式様様である。
人化は契約術師にとって、一番の難関と言われるほどに難しい。契約獣自体の魔力が少なければまず叶わないことだし、人化とはすなわち自身の体をもう一つ作り上げるということ。一度成功すれば二度目からは簡単だったりするのだが、この作り上げるというのが中々難しかったりする。
だから現役でも人化ができない契約獣が大半だ。人化できる契約獣がいるということは、だからそれだけ優秀な契約術師という証になる。
人化の授業ということは、そこまでの過程は先週までに全て終了したのだろう。まだ卒業するまで数カ月はあるが、その数カ月を人化に充てるつもりだったようだ。
「参考になるかは分からないけど、私も人化の授業をしようかな。……不躾な質問ですみませんが、先生の召喚獣は人化できますか?」
「いいえ、以前は出来たのですが……昔に負った傷で」
先生は悲しそうに目を細めていた。足元にいた猫又はそんな先生を慰めるように肩に飛び乗って、体を擦り付けていた。その傷を負ったことから、現役を引退して教師の職についたのだろう。猫又の体に流れる魔力を確認すれば、魔力の流れ道を何かが阻害しているように見えた。
(これくらいならもしかして……)
龍脈を整えるように魔力の流れ道を綺麗にすれば、治してあげられるかもしれない。けれどそれはどこにも確証はない。一度詳しく見る必要があるのだろう。
「そうですか。わかりました」
ここで治るかもしれないと変な期待を持たせてもいけないので、授業が終わってから声をかけることに決めた。
先生の契約獣が人化できないとなると、生徒たちは人化した契約獣をまだ一度も見たことがないのだろう。もしかしたら運よく見たことがある生徒もいるかもしれないが、何度見ても損はない。
「なら、私の召喚獣に人化してもらうことにするかな」
長机の後ろには、テニスコート一面分ほどの面積がぽっかりと空いていた。けれどその空間は長机が置かれている空間と違って、傷ついている床や壁が多々目に入る。簡単な実践練習はここで行われているのだろう。
先程まで教鞭をとっていた先生に軽く頭を下げた。先生は教卓から数歩離れた場所に立っていて、足元には先生の契約獣と思われる黒い毛並みの猫又がいた。猫又は尻尾を揺らしながら、興味深そうにこちらを見ていた。教師といえど先生も契約術師。だからなのか、教室内にいる生徒たちと同じようにベルとその召喚獣であるロセウスたちを、少しでも多く目に焼き付けようと凝視していた。
教卓の前に立つと、ラシードが邪魔にならないよう、先生の隣に移動していた。
ラシードはナツゥーレの第一王子ではあるが、誰もがその存在にある程度慣れているようだった。ラシードが契約術師の育成を熱心にしていたことの証だろう。
「はじめまして。ナツゥーレ国の輝人、そして召喚術師のベル・ステライトです。本日は皆さんの役に立てればと思い、特別講師としてこちらに来ました。よろしくお願いします」
ベルが簡単に挨拶を済ませると、どこまでを勉強しているのか先生ではなく生徒に尋ねることにした。その方がすぐに打ち明けられると思ったからだ。教卓上には、席の見取り図が置かれていて、そには契約術師である生徒とその契約獣の名前が記載されていた。一人ずつ自己紹介もしてもいいが、生徒はそんなことよりも召喚術師であるベルの授業が早く受けたくて仕方ない様子だった。自己紹介に時間を割くよりも、授業に時間を割いた方がよさそうだ。ベルは見取り図を見たり、本人と会話をしたりして名前を覚えていくことにした。
「今日はどんな授業をしていたか、教えてくださる方いらっしゃいますか?」
「はい。では、わたくしが」
挙手をして、立ち上がったのは、クリーム色の髪を緩やかに巻いた女生徒だった。その声音は堂々としていて、立ち姿もまるで手本のように綺麗だ。海のように澄んだ青の瞳は、真っすぐにベルを見据えていた。
見取り図で名前を確認すると、そこには先生の手書きで公爵令嬢と書かれていた。その肩書を見て、なるほどと納得してしまった。
学院の入学は一律で十三歳になった歳と決められている。だからこのクラスにいる生徒全員が十八歳、もしくは誕生日を迎えていたら十九歳ということになる。元の現実世界だったら、まだ大学一年生だ。ベルが十八歳のときはここまで大人びてはいなかった。育つ環境が違えば、精神年齢の育ち方も変わってくるのだろう。感心を覚えながら、女性徒の名前を呼んだ。
「アンジェリカ・ウィンガーデンさん」
「はい。ですが、その前に一つだけよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう?」
「ベル様の方が身分も上ということもありますが、ここでのわたくしは教えを乞う身です。敬称や敬語は不要ですわ」
初対面だからと敬語を使用していたが、アンジェリカの言い分は最もだった。ベルは考えたのち、アンジェリカの意見を受け入れることにした。
「じゃあ、そうしようかな」
「はい、そうしてくださいまし。話は戻りますが、本日の授業は自身のパートナーである契約獣を人化させるという内容でした。先週から取り組んではいますが、お恥ずかしながらまだ成功者はおりません」
「なるほど、人化ね」
ロセウスたちは当たり前のように人化を維持したりしているが、これが実は難関だったりする。
輝人の召喚獣の恩恵の一つとして、自身の魔力を消費せず自然の魔力を使用して人化することができるというものがある。これは召喚術師である輝人が大地と目に見えない繋がりを持っていて、その繋がりを通して恩恵を受けることができるからだ。
そうでなくても、元々ロセウスたちは攻略キャラクターとしてある程度の力を最初から持っていたので、出会ってから一年ほどで人化を習得していたのだが。まさに公式様様である。
人化は契約術師にとって、一番の難関と言われるほどに難しい。契約獣自体の魔力が少なければまず叶わないことだし、人化とはすなわち自身の体をもう一つ作り上げるということ。一度成功すれば二度目からは簡単だったりするのだが、この作り上げるというのが中々難しかったりする。
だから現役でも人化ができない契約獣が大半だ。人化できる契約獣がいるということは、だからそれだけ優秀な契約術師という証になる。
人化の授業ということは、そこまでの過程は先週までに全て終了したのだろう。まだ卒業するまで数カ月はあるが、その数カ月を人化に充てるつもりだったようだ。
「参考になるかは分からないけど、私も人化の授業をしようかな。……不躾な質問ですみませんが、先生の召喚獣は人化できますか?」
「いいえ、以前は出来たのですが……昔に負った傷で」
先生は悲しそうに目を細めていた。足元にいた猫又はそんな先生を慰めるように肩に飛び乗って、体を擦り付けていた。その傷を負ったことから、現役を引退して教師の職についたのだろう。猫又の体に流れる魔力を確認すれば、魔力の流れ道を何かが阻害しているように見えた。
(これくらいならもしかして……)
龍脈を整えるように魔力の流れ道を綺麗にすれば、治してあげられるかもしれない。けれどそれはどこにも確証はない。一度詳しく見る必要があるのだろう。
「そうですか。わかりました」
ここで治るかもしれないと変な期待を持たせてもいけないので、授業が終わってから声をかけることに決めた。
先生の契約獣が人化できないとなると、生徒たちは人化した契約獣をまだ一度も見たことがないのだろう。もしかしたら運よく見たことがある生徒もいるかもしれないが、何度見ても損はない。
「なら、私の召喚獣に人化してもらうことにするかな」
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