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第一章
二十四話
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あちらこちらから、感嘆の声が上がる。人化を実際に近くで見られることが嬉しいのだろう。
幸いというべきか、ロセウスたちはまだ獣化したままの状態だった。教室内は広いとはいえ、それでも大型の召喚獣が三匹もいれば、それなりの圧迫感もある。どちらにせよ、人化してもらおうと思っていたので、ちょうどよかった。
「セス、アーテ、アル。お願いしてもいい?」
「喜んで」
「もちろん」
「お嬢のためだからな」
「ありがとう。そうしたら、後ろの広い場所に移動しようか」
ベルはテニスコート一面分ほどある開けた場所を指さした。
三匹が長机の間を通って後ろに歩いていくと、自分の傍を通りかかった生徒はわかりやすいほど緊張して肩を強張らせていた。これがベルの住んでいる街ならば、もう少し見慣れていたりするので、ここまで緊張はしないだろう。そう思いながら。そんな生徒たちの姿を見てほっこりとした気分になった。
三匹の後に続いてベルも歩いていき、生徒たちを三匹がよく見えるように周辺へ集まらせる。
生徒とその契約獣が周囲に集まったことを確認すると、三人に合図を送った。
三匹の体をそれぞれ眩い光が包みこむ。光に包まれた体は徐々に形を変えていき、光が収まると同時に人化した三人が現れた。
三人とも整った顔をしているからか、女生徒はその容姿に見とれていた。それでも授業であるということは、きちんと頭にあったのだろう。見とれてはいても、その瞳は真剣さを帯びていた。まだ人化をしたことのない契約獣たちも、憧れの存在を見るように目を輝かせていた。
実際に見て練習を重ねるのと、机上の知識だけで練習するのでは、全く意味合いが違ってきたりする。十分参考にはなったはずだ。
ロセウスたちは人化をすると、ベルの後ろに控えようと傍に近寄ってきた。
「とまあ、こんな感じかな。実際に見たから次は実際に一人ずつやってみようか」
ベルは今までに何度か、契約獣たちの人化の手伝いをしたことがあった。それはゲーム上のイベントであったり、依頼であったりしたのだが、その経験がまさか現実になった今、役に立つとは思ってもみなかった。色んなことを経験しておくものである。
それぞれの契約獣を見る限り、人化に必要な魔力は最低限持っていた。人化をずっと維持できるほどの魔力はないかもしれないが、それはこれからがんばって魔力を底上げしていくしかない。
ベルにできることは、人化までの誘導である。
「名前を呼ぶから、順番に契約獣ときてね。――アンジェリカ・ウィンガーデン」
「はい」
名前を呼ばれたアンジェリカは肩に青い鳥を乗せていた。契約獣の種族は幸鳥。この契約獣は別名『幸せの青い鳥』とも呼ばれている。主には従順で、幸運を呼び寄せる魔力の波動をしていることで有名だ。それに個体にもよるが、大きく育てばその背に乗って空を飛ぶこともできる。絆をきちんと深めていけば、有能な契約獣になるだろう。
アンジェリカの幸鳥はバスケットボールほどの大きさで、尾羽は床につきそうなほどに長い。よほど丁寧にブラッシングをしているのだろう。青い鳥の召喚獣の毛艶はよく、アンジェリカによく懐いていた。
「幸鳥族の契約獣ね。名前は?」
「エイル・ルークアです」
「そう、いい名前。エイル・ルークア、貴女に触ってもいいかな?」
「はい」
「では、いつでも人化できるようにアンジェリカの肩から床に降りて」
「はい」
エイルの声は、その羽の色のようにとても澄んだ女の子の声をしていた。契約獣としての外見でも分かる通り、まだ幼い契約獣なのだろう。
そんなエイルに触るために、床に膝をつく。腕を伸ばして、エイルの額に指を添えた。
「では想像をしてみて。自分がどんな姿になりたいかをなるべく明確に。想像できたら、私に教えて」
「はい」
エイルは円らな瞳を閉じると、想像しはじめた。
「アンジェリカ、こちらに来て。人化は契約獣が個人の力で習得するものだけれど、万が一にでも不足の事態に陥ったときは、契約術師が獣化をさせたり人化をさせたりしなくちゃならない。だから契約獣が人化を覚えるときに、そのコツを一緒に掴んで覚えていくのも契約術師の役目でもあるの」
これは契約術師としての常識でもある、授業でも嫌というほど習ったに違いない。
アンジェリカがベルに近寄ってくると、両手でベルの空いている手を握るよう指示した。
「今から私がアンジェリカとエイルの媒介となるから、その感覚を体で覚えるように」
「わかりましたわ」
ベルの手を緊張した面持ちで握ってきた。微かに両手が震えている。
何度も挑戦をして、何度も失敗をしてきたのだろう。ベルという存在がここに在る今、一番のチャンスだと思っているのかもしれない。
「ベル様」
エイルから名前を呼ばれた。きちんと想像ができたのだろう。
「上手くいくよ。だからもう少し肩の力を抜いて、人化に必要な魔力の流れを感じ取って。――では、始めます」
アンジェリカが数階深呼吸をし、肩の力が少しだけ抜けたところで、人化の手助けを開始した。
幸いというべきか、ロセウスたちはまだ獣化したままの状態だった。教室内は広いとはいえ、それでも大型の召喚獣が三匹もいれば、それなりの圧迫感もある。どちらにせよ、人化してもらおうと思っていたので、ちょうどよかった。
「セス、アーテ、アル。お願いしてもいい?」
「喜んで」
「もちろん」
「お嬢のためだからな」
「ありがとう。そうしたら、後ろの広い場所に移動しようか」
ベルはテニスコート一面分ほどある開けた場所を指さした。
三匹が長机の間を通って後ろに歩いていくと、自分の傍を通りかかった生徒はわかりやすいほど緊張して肩を強張らせていた。これがベルの住んでいる街ならば、もう少し見慣れていたりするので、ここまで緊張はしないだろう。そう思いながら。そんな生徒たちの姿を見てほっこりとした気分になった。
三匹の後に続いてベルも歩いていき、生徒たちを三匹がよく見えるように周辺へ集まらせる。
生徒とその契約獣が周囲に集まったことを確認すると、三人に合図を送った。
三匹の体をそれぞれ眩い光が包みこむ。光に包まれた体は徐々に形を変えていき、光が収まると同時に人化した三人が現れた。
三人とも整った顔をしているからか、女生徒はその容姿に見とれていた。それでも授業であるということは、きちんと頭にあったのだろう。見とれてはいても、その瞳は真剣さを帯びていた。まだ人化をしたことのない契約獣たちも、憧れの存在を見るように目を輝かせていた。
実際に見て練習を重ねるのと、机上の知識だけで練習するのでは、全く意味合いが違ってきたりする。十分参考にはなったはずだ。
ロセウスたちは人化をすると、ベルの後ろに控えようと傍に近寄ってきた。
「とまあ、こんな感じかな。実際に見たから次は実際に一人ずつやってみようか」
ベルは今までに何度か、契約獣たちの人化の手伝いをしたことがあった。それはゲーム上のイベントであったり、依頼であったりしたのだが、その経験がまさか現実になった今、役に立つとは思ってもみなかった。色んなことを経験しておくものである。
それぞれの契約獣を見る限り、人化に必要な魔力は最低限持っていた。人化をずっと維持できるほどの魔力はないかもしれないが、それはこれからがんばって魔力を底上げしていくしかない。
ベルにできることは、人化までの誘導である。
「名前を呼ぶから、順番に契約獣ときてね。――アンジェリカ・ウィンガーデン」
「はい」
名前を呼ばれたアンジェリカは肩に青い鳥を乗せていた。契約獣の種族は幸鳥。この契約獣は別名『幸せの青い鳥』とも呼ばれている。主には従順で、幸運を呼び寄せる魔力の波動をしていることで有名だ。それに個体にもよるが、大きく育てばその背に乗って空を飛ぶこともできる。絆をきちんと深めていけば、有能な契約獣になるだろう。
アンジェリカの幸鳥はバスケットボールほどの大きさで、尾羽は床につきそうなほどに長い。よほど丁寧にブラッシングをしているのだろう。青い鳥の召喚獣の毛艶はよく、アンジェリカによく懐いていた。
「幸鳥族の契約獣ね。名前は?」
「エイル・ルークアです」
「そう、いい名前。エイル・ルークア、貴女に触ってもいいかな?」
「はい」
「では、いつでも人化できるようにアンジェリカの肩から床に降りて」
「はい」
エイルの声は、その羽の色のようにとても澄んだ女の子の声をしていた。契約獣としての外見でも分かる通り、まだ幼い契約獣なのだろう。
そんなエイルに触るために、床に膝をつく。腕を伸ばして、エイルの額に指を添えた。
「では想像をしてみて。自分がどんな姿になりたいかをなるべく明確に。想像できたら、私に教えて」
「はい」
エイルは円らな瞳を閉じると、想像しはじめた。
「アンジェリカ、こちらに来て。人化は契約獣が個人の力で習得するものだけれど、万が一にでも不足の事態に陥ったときは、契約術師が獣化をさせたり人化をさせたりしなくちゃならない。だから契約獣が人化を覚えるときに、そのコツを一緒に掴んで覚えていくのも契約術師の役目でもあるの」
これは契約術師としての常識でもある、授業でも嫌というほど習ったに違いない。
アンジェリカがベルに近寄ってくると、両手でベルの空いている手を握るよう指示した。
「今から私がアンジェリカとエイルの媒介となるから、その感覚を体で覚えるように」
「わかりましたわ」
ベルの手を緊張した面持ちで握ってきた。微かに両手が震えている。
何度も挑戦をして、何度も失敗をしてきたのだろう。ベルという存在がここに在る今、一番のチャンスだと思っているのかもしれない。
「ベル様」
エイルから名前を呼ばれた。きちんと想像ができたのだろう。
「上手くいくよ。だからもう少し肩の力を抜いて、人化に必要な魔力の流れを感じ取って。――では、始めます」
アンジェリカが数階深呼吸をし、肩の力が少しだけ抜けたところで、人化の手助けを開始した。
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