召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

二十五話

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 エイルが人化のために魔力を練り始める。しかしその練り方はまだ拙く、荒いところが多々あった。ロセウスたちのように光を纏いはじめるが、体を全て包みこむほどではない。ならばと魔力をさらに流すものの、それが余計に魔力の荒さに拍車をかけていた。

 ベルは一度落ち着いてもらおうと、エイルの魔力の自身の魔力を乗せて、流れを緩やかにさせる。今回はアンジェリカにもコツを一緒に掴んでもらいたいので、アンジェリカにわかりやすいよう、ゆっくりと魔力を乗せていった。

 人化に適した魔力の流れ、練り方、全て魔力を通して丁寧に教えていく。最初は自分以外の魔力が体内に流れることに驚いて、ただただベルの魔力に驚いていた。しかしそれがエイルの魔力を誘導していることがわかってくると、その誘導に自身の魔力を添わせてきた。

(うん、初めて魔力誘導を受けたにしては上出来)

 酷い場合だと、ベルの魔力を拒否して、無意識に体内から押し出そうとしてしまう契約獣もいる。そうした契約獣は、思うように誘導が上手くいかなくて、時間がかかってしまう。しかしエイルの場合はすぐにベルの魔力を受け入れた。

(この調子なら恐らくいけるはず!)

 荒いところを整え、全身に魔力が行き渡るよう上手く誘導していく。それが終わったころにはロセウスたちと同じく体全体が光に包まれていた。

 あとはエイルの想像した姿になるだけだ。体のどこの部分をどんなふうに変えていけばいいのか、魔力を通して指示していく。契約獣は一気に体を変えてしまおうとしがちだが、それがそもそもの間違いだと知らないことが多い。ロセウスたちのように慣れてしまえばそれも可能だが、最初から全てを変えるのは正直言って無謀だ。だから魔力を通して、最初にどこの部分をどのように変えるのか、その次はここをこういうふうに変えていこうかと指示をしていく。

 一つ一つ変えていくうちに要領が掴めてきたのだろう。途中からはベルの指示がなくても、自ら進んで変えていっていた。全てを誘導してもいいが、それでは契約獣の人化の練習にもならない。誘導から、見守ることに魔力を切り替えると、その流れを見守った。

「エイル!!」

 アンジェリカから歓喜する声が聞こえた。

 それはエイルの人化が無事に成功したからだ。

 エイルは十歳ほどの少女の姿をしていた。セーラー服のようなワンピースを着用していて、青い髪は地面についてしまうほどに長い。エイルは不思議そうに自分の姿をあちこち確認していた。エイルとアンジェリカから手を離せば、二人は喜びを分かち合うように抱きしめ合っていた。その瞳には涙が浮かんでおり、よほど成功したことが嬉しかったのだろうと推測できる。

 人化に十五分ほどの時間が掛かりはしたが、一先ず成功をしたことにほっと息をついた。一度こうして人化ができたのだから、二度目以降はその感覚をきちんと思い出せば、必ずできるはずだ。だから今後の課題は、練習を重ねていって人化の時間短縮をしていくことになるだろう。

 トップバッターであるアンジェリカの契約獣が人化に成功したことによって、生徒のやる気が一段と上がっていた。

 ベルは次々と生徒の名前を呼び、人化への誘導をしていく。

 当たり前ではあるが、ベルの魔力を無意識で拒絶をしてしまう契約獣もいる。これは仕方がないことなので、何回も繰り返し挑戦して慣れていくしかない。

 今回は時間が限られているため、特別に午前中の授業を全てを中止し、四限全ての授業を人化に割り当てることとなった。それでも一学年十人在籍しているので全員が人化できるまで付き合うことはできない。そのため不平等にならないよう、一人当たりの時間を最長でも三十分と定めて行うことにした。

 結果、十人中三人の人化に成功した。割合的には半数以下と低いが、それでもまあまあいい結果とはいえるだろう。それに、人化できなかった契約獣の中にもいい線までいっている子たちが多い。もう少し時間をかければ、人化ができるはずだ。

 そんな中、ベルは一人の契約術師のことが気になっていた。名前はロゼリア・ラワーフ。蜂蜜色の瞳と髪色をした女生徒だ。髪はボブで、小柄なことからなんだか守ってあげたくなるような、そんな容姿をしていた。そしてロゼリアの契約獣は、一般的にもよく見かける狼族のノア・ブラルク。大型犬ほどの大きさの真っ黒な毛色をしていた。

 これだけなら、どこにでもいる組み合せの契約術師と契約獣で、どこもおかしな点はない。けれどベルが気になった点は、すでにノアが成長しきっていた狼族なのに、人化する気配は全くないということだ。

 契約獣との契約の仕方はここでは割愛するが、成長をすでに終えた契約獣と契約することはほとんどない。基本的には自身の力に見合った契約獣と契約するので、エイルのように未成熟な契約獣が多い。

 ただほとんどないだけで、全くないわけではない。その証拠に ベルの場合は、三人ともすでに成長を終えた段階で出会っている。これは乙女ゲームの主人公補正がかかっているからなのだが、ベルの他にも数人そんな人たちに出会ったことがある。けれど大抵の場合はすでに成長を終えているので、人化を習得するのにそれほど時間がかかってはいなかった。

 それなのに、ノアは人化をする兆しすら見えてこない。むしろ魔力を誘導するために流したときに感じたのは、拒絶ではなくやる気のなさ。人化は契約獣にとっても、習得したい魔法の一つ。見た限りロゼリアとノアの関係は悪くなさそうだし、ロゼリアも一緒に頑張ろうねと励ましていた。ノアも尻尾を振りながら絶対に習得して見せるよと張り切った声を出していた。

 だからこそベルは首を捻っていた。

 魔力と言動。なぜかその二つは、真逆の意思を持っていた。
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