召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

十九話

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 体調面を考えて一日だけ王城へと泊まることになった。事情を知ったエドアルドやラシードが蒼白な顔で訪ねてきたときは、思わず苦笑をしてしまった。けれど彼らにとっての輝人はベル一人。失うかもしれないという恐怖や、ベルには想像もつかない気持ちが心の中で蠢いていたのかもしれない。

 念のため事情を説明し、前回の事件の主犯でもクライシスたちが関わっているかもしれない、ということを伝えておいた。そして護衛をしてくれていたノーバン筆頭の騎士たちにも処分を下さないようにお願いをした。

 面子に関わる問題だから、と渋られたが、ここで負けるわけにはいかない。

 今回の件は建国祭の最中に起こったことだからだ。せっかく事を大きくせず、なるべく気づかれないようにしてあの場を離れたというのに、護衛をしていたノーバンたちに処罰が下れば、ベルたちの身に何か起こったのだと公言しているようなものだ。それに護衛としてはしっかり動いてくれていた。ベルたちですら気づかない巧妙な手口を使ってきたのだ。ノーバンたちが気づかないのも無理はない。

 渋る親子をどうにか言いくるめ、無理矢理ではあるが納得してもらう。

「わかりました。では、今回はこの件を公言しないことを罰といたしましょう。そしてこの噂が広がらないよう、もし見ていた街の人がいれば、何もなかったと応えるように。ノーバンたちも騎士です。罰がない、というのは存外堪えるものですし、何より公言しないというのは誇り高き騎士たちにとっても重い罰となりましょう」

「そうしてください。そしてこうも伝えて頂けますか? また機会がありましたら、護衛をよろしくお願いします、と」

「伝えておきます」

「よろしくお願いします」

 ノーバンたちの一件についてここで話を終わらせ、次の話題へと移る。それはベルの今後のことについてだった。少し離れた位置にあるベルの自宅より目の届く王城に、事が収まるまではとどまって欲しいとの要望だった。

 心配する気持ちも分からないでもない。

 それでもベルは王城に留まる気にはなれなかった。

「いえ、体調も落ち着いたので、自宅に帰ります」

「ですが……」

「確かにエド殿とラシード殿の気持ちはわかります。でも、自宅の方が落ち着くということとは別に、結界の面もありますので」

 そう、何もベルの気持ちだけで判断しているわけではない。精神的にもやはり王城よりも自宅の方がゆっくりと休むことができる、ということもあるが、問題は他にもあった。それはロセウスがずっと張ってくれている結界だ。

 ロセウスは自由自在に結界魔法を操ることができるが、中でも自宅に張っている結界は特別なものだった。通常の結界は、ロセウスが気を失うか眠ると、そこで消えてしまう。しかし自宅の結界は違う。ロセウスが意識を失おうとも、ロセウスに魔力がある限りずっと維持をする特別製の結界なのだ。

 簡単そうに見えるが、実はそうではない。結界を張っている張本人であるロセウスは涼しい顔をしているが、膨大な量の魔力を常に流して綿密に練り、誰よりも強固な結界を維持しているのだ。これを一から別の場所で張るとなると、ロセウスの体に負担をかける上に、時間がどうしてもかかってしまう。実際にゲーム中に家へ張ってもらった結界は半日ほどかかった。それならば、多少体に負担をかけても帰宅した方がいいだろうと判断した。それはロセウスたちも同意見のようで、反対する者はいなかった。

 それでも渋るエドアルドたちに、後押しとばかりに、部屋の隅でずっと話を黙って聞いていたエリオットが発言をする。

「心配する気持ちもわかるが、ベルたちの言う通り自宅の方が王城よりも安全と言えるだろう。それに我々もこの件の片がつくまではこの国に留まる。ベルからクライシスの話を聞いたときに、ナツゥーレへある程度の期間滞在することをすでに決めていた。もしクライシスが関わっているのならば、尚更帰るわけにはいかないのでな」

 ラヴィックもエリオットの言葉に頷き同意を示す。

「だから現在滞在しているあの屋敷を、その間貸してはくれないだろうか? もちろん謝礼はする」

 ロセウスの強固な結界がある上に、近くの屋敷に他国の輝人が二人もベルのために滞在する。これ以上の硬い守りはないだろう。エリオットたちには感謝してもしきれない。

 ベルのためを思うエリオットの言葉に、エドアルドはゆっくりと頭を下げた。そんな父と同じくラシードも深く頭を下げる。

「礼を申し上げるのはこちらの方でございます。謝礼など受け取れません。ベル様のこと、よろしくお願いいたします」

 こうしてベルたちは、国民たちに気づかれないよう、陽が落ち暗くなった頃を見計らって、王城をあとにすることになった。
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