81 / 136
第二章
十九話
しおりを挟む
体調面を考えて一日だけ王城へと泊まることになった。事情を知ったエドアルドやラシードが蒼白な顔で訪ねてきたときは、思わず苦笑をしてしまった。けれど彼らにとっての輝人はベル一人。失うかもしれないという恐怖や、ベルには想像もつかない気持ちが心の中で蠢いていたのかもしれない。
念のため事情を説明し、前回の事件の主犯でもクライシスたちが関わっているかもしれない、ということを伝えておいた。そして護衛をしてくれていたノーバン筆頭の騎士たちにも処分を下さないようにお願いをした。
面子に関わる問題だから、と渋られたが、ここで負けるわけにはいかない。
今回の件は建国祭の最中に起こったことだからだ。せっかく事を大きくせず、なるべく気づかれないようにしてあの場を離れたというのに、護衛をしていたノーバンたちに処罰が下れば、ベルたちの身に何か起こったのだと公言しているようなものだ。それに護衛としてはしっかり動いてくれていた。ベルたちですら気づかない巧妙な手口を使ってきたのだ。ノーバンたちが気づかないのも無理はない。
渋る親子をどうにか言いくるめ、無理矢理ではあるが納得してもらう。
「わかりました。では、今回はこの件を公言しないことを罰といたしましょう。そしてこの噂が広がらないよう、もし見ていた街の人がいれば、何もなかったと応えるように。ノーバンたちも騎士です。罰がない、というのは存外堪えるものですし、何より公言しないというのは誇り高き騎士たちにとっても重い罰となりましょう」
「そうしてください。そしてこうも伝えて頂けますか? また機会がありましたら、護衛をよろしくお願いします、と」
「伝えておきます」
「よろしくお願いします」
ノーバンたちの一件についてここで話を終わらせ、次の話題へと移る。それはベルの今後のことについてだった。少し離れた位置にあるベルの自宅より目の届く王城に、事が収まるまではとどまって欲しいとの要望だった。
心配する気持ちも分からないでもない。
それでもベルは王城に留まる気にはなれなかった。
「いえ、体調も落ち着いたので、自宅に帰ります」
「ですが……」
「確かにエド殿とラシード殿の気持ちはわかります。でも、自宅の方が落ち着くということとは別に、結界の面もありますので」
そう、何もベルの気持ちだけで判断しているわけではない。精神的にもやはり王城よりも自宅の方がゆっくりと休むことができる、ということもあるが、問題は他にもあった。それはロセウスがずっと張ってくれている結界だ。
ロセウスは自由自在に結界魔法を操ることができるが、中でも自宅に張っている結界は特別なものだった。通常の結界は、ロセウスが気を失うか眠ると、そこで消えてしまう。しかし自宅の結界は違う。ロセウスが意識を失おうとも、ロセウスに魔力がある限りずっと維持をする特別製の結界なのだ。
簡単そうに見えるが、実はそうではない。結界を張っている張本人であるロセウスは涼しい顔をしているが、膨大な量の魔力を常に流して綿密に練り、誰よりも強固な結界を維持しているのだ。これを一から別の場所で張るとなると、ロセウスの体に負担をかける上に、時間がどうしてもかかってしまう。実際にゲーム中に家へ張ってもらった結界は半日ほどかかった。それならば、多少体に負担をかけても帰宅した方がいいだろうと判断した。それはロセウスたちも同意見のようで、反対する者はいなかった。
それでも渋るエドアルドたちに、後押しとばかりに、部屋の隅でずっと話を黙って聞いていたエリオットが発言をする。
「心配する気持ちもわかるが、ベルたちの言う通り自宅の方が王城よりも安全と言えるだろう。それに我々もこの件の片がつくまではこの国に留まる。ベルからクライシスの話を聞いたときに、ナツゥーレへある程度の期間滞在することをすでに決めていた。もしクライシスが関わっているのならば、尚更帰るわけにはいかないのでな」
ラヴィックもエリオットの言葉に頷き同意を示す。
「だから現在滞在しているあの屋敷を、その間貸してはくれないだろうか? もちろん謝礼はする」
ロセウスの強固な結界がある上に、近くの屋敷に他国の輝人が二人もベルのために滞在する。これ以上の硬い守りはないだろう。エリオットたちには感謝してもしきれない。
ベルのためを思うエリオットの言葉に、エドアルドはゆっくりと頭を下げた。そんな父と同じくラシードも深く頭を下げる。
「礼を申し上げるのはこちらの方でございます。謝礼など受け取れません。ベル様のこと、よろしくお願いいたします」
こうしてベルたちは、国民たちに気づかれないよう、陽が落ち暗くなった頃を見計らって、王城をあとにすることになった。
念のため事情を説明し、前回の事件の主犯でもクライシスたちが関わっているかもしれない、ということを伝えておいた。そして護衛をしてくれていたノーバン筆頭の騎士たちにも処分を下さないようにお願いをした。
面子に関わる問題だから、と渋られたが、ここで負けるわけにはいかない。
今回の件は建国祭の最中に起こったことだからだ。せっかく事を大きくせず、なるべく気づかれないようにしてあの場を離れたというのに、護衛をしていたノーバンたちに処罰が下れば、ベルたちの身に何か起こったのだと公言しているようなものだ。それに護衛としてはしっかり動いてくれていた。ベルたちですら気づかない巧妙な手口を使ってきたのだ。ノーバンたちが気づかないのも無理はない。
渋る親子をどうにか言いくるめ、無理矢理ではあるが納得してもらう。
「わかりました。では、今回はこの件を公言しないことを罰といたしましょう。そしてこの噂が広がらないよう、もし見ていた街の人がいれば、何もなかったと応えるように。ノーバンたちも騎士です。罰がない、というのは存外堪えるものですし、何より公言しないというのは誇り高き騎士たちにとっても重い罰となりましょう」
「そうしてください。そしてこうも伝えて頂けますか? また機会がありましたら、護衛をよろしくお願いします、と」
「伝えておきます」
「よろしくお願いします」
ノーバンたちの一件についてここで話を終わらせ、次の話題へと移る。それはベルの今後のことについてだった。少し離れた位置にあるベルの自宅より目の届く王城に、事が収まるまではとどまって欲しいとの要望だった。
心配する気持ちも分からないでもない。
それでもベルは王城に留まる気にはなれなかった。
「いえ、体調も落ち着いたので、自宅に帰ります」
「ですが……」
「確かにエド殿とラシード殿の気持ちはわかります。でも、自宅の方が落ち着くということとは別に、結界の面もありますので」
そう、何もベルの気持ちだけで判断しているわけではない。精神的にもやはり王城よりも自宅の方がゆっくりと休むことができる、ということもあるが、問題は他にもあった。それはロセウスがずっと張ってくれている結界だ。
ロセウスは自由自在に結界魔法を操ることができるが、中でも自宅に張っている結界は特別なものだった。通常の結界は、ロセウスが気を失うか眠ると、そこで消えてしまう。しかし自宅の結界は違う。ロセウスが意識を失おうとも、ロセウスに魔力がある限りずっと維持をする特別製の結界なのだ。
簡単そうに見えるが、実はそうではない。結界を張っている張本人であるロセウスは涼しい顔をしているが、膨大な量の魔力を常に流して綿密に練り、誰よりも強固な結界を維持しているのだ。これを一から別の場所で張るとなると、ロセウスの体に負担をかける上に、時間がどうしてもかかってしまう。実際にゲーム中に家へ張ってもらった結界は半日ほどかかった。それならば、多少体に負担をかけても帰宅した方がいいだろうと判断した。それはロセウスたちも同意見のようで、反対する者はいなかった。
それでも渋るエドアルドたちに、後押しとばかりに、部屋の隅でずっと話を黙って聞いていたエリオットが発言をする。
「心配する気持ちもわかるが、ベルたちの言う通り自宅の方が王城よりも安全と言えるだろう。それに我々もこの件の片がつくまではこの国に留まる。ベルからクライシスの話を聞いたときに、ナツゥーレへある程度の期間滞在することをすでに決めていた。もしクライシスが関わっているのならば、尚更帰るわけにはいかないのでな」
ラヴィックもエリオットの言葉に頷き同意を示す。
「だから現在滞在しているあの屋敷を、その間貸してはくれないだろうか? もちろん謝礼はする」
ロセウスの強固な結界がある上に、近くの屋敷に他国の輝人が二人もベルのために滞在する。これ以上の硬い守りはないだろう。エリオットたちには感謝してもしきれない。
ベルのためを思うエリオットの言葉に、エドアルドはゆっくりと頭を下げた。そんな父と同じくラシードも深く頭を下げる。
「礼を申し上げるのはこちらの方でございます。謝礼など受け取れません。ベル様のこと、よろしくお願いいたします」
こうしてベルたちは、国民たちに気づかれないよう、陽が落ち暗くなった頃を見計らって、王城をあとにすることになった。
0
あなたにおすすめの小説
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる